『ペニーの日記 読んじゃだめ』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

 

ロビン・クライン 作/アン・ジェイムズ 絵/安藤紀子 訳/偕成社

『ペニーの日記』は、文字通り10歳の少女ペニーの日記ですから、飾り気のない、彼女オリジナルの言葉で埋め尽くされています。ペニーは、長靴の片方には死んだトカゲ、もう片方には学校からの「バカみたいな」手紙を入れ、ひらひらしたピンクのワンピースなんか見るだけで「ムカツク」ので、いつもジーンズにトレーナーを着ている少女です。何よりも馬が好きな彼女は、「ハリモグラみたいに毛がつんつん立ってる」髪型を好んでいます。

 月曜日は、ぜったいに学校へいきたくない!
 ジェイムズ先生が、みんなで老人ホームにいきましょうっていった。リコーダーをふいたり、『サウンド・オブ・ミュージック』にでてくるさえない歌をうたったげたりするんだって。
 あたしは手をあげて、遠足はそんなとこじゃなくて、どうして競走馬のきゅう舎にできないんですかってきいた。

年寄りなんて退屈、とうそぶくペニー。けれど日記を読めば、愛想笑いをしたりカタチだけのプレゼントをしてへつらったりすることが、彼女はどうにも我慢ならないのだとわかります。はっきりそう書かれていなくても、つまり、ペニー自身が自認していない心の内まで、彼女の言葉から推し量られてしまいます。この日記が、作家の創作物であることすら忘れてしまうくらい、ペニーの実在感は強烈です。日記には、無造作に写真が貼られ、落書きのようなスケッチが描かれています。このスケッチが楽しくて私はとても好きなのですが、こうした工夫が、この日記、そしてペニーという少女をリアルで身近な存在にしているのでしょう。

日記は、ある人と友だちになっていく12日間を綴ります。その人は、ペニーと同じように自分に嘘をつけない人。ペニーとはずいぶん年の離れたその友だちは、寂しさを抱えてはいても、それは誰かに癒してもらうためのものでも、同情を誘うためのものでもありません。他人も自分もごまかさず、できる限り束縛から逃れて生きようとする二人は似ているのです。

冒頭で紹介した男の子のエピソードもそうですが、予定調和からはみ出した言動は清々しく、その人らしい美学に貫かれていると感服します。日記のなかのペニーの本音も、五感を使って素手でつかんだような言葉が並ぶのです。

寛容さを美徳としない(だってペニーは嫌なことは受け入れないから)ペニーの言葉は、好きも嫌いもどうでもいいも、逃げ道を作らず徹底しています。ペニーは、スマートフォンなどなかった時代の子どもです。けれども、彼女独自の言葉と声は、きっと現代の読者の耳にも冴えて響くはずです。

 

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

 

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