「おちょうしもの」の力

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【「おちょうしもの」の力】です。

 

『勇士アフマド』中面画像
『勇士アフマド』より

むかし、ある(むら)に、アフマドというおちょうしものがいました。
ある()、ふらふらと鍛冶屋(かじや)にやってきて、おやじさんに、こういいました。
「この(おの)にさ、”やり一本(いっぽん)で300もの(てき)をたおす勇士(ゆうし)アフマド”って()ってくれない?」
「ウソっぱちじゃないか」 
おやじさんがまゆをひそめると、アフマドは、こういいました。
「ウソじゃないよ、ほんとうだよ。たおすのは、人じゃなくて、ハエだけどね」

 

 

 


 

イランのむかしばなし『勇士アフマド』書影

イランのむかしばなし『勇士アフマド』
愛甲恵子 文、網代幸介 絵 
BL出版、2025年 
中東の国イランの公用語はペルシャ語だが、「あとがき」には、「音楽のように心地よく耳に響くペルシャ語」と書かれている。「豊かなペルシャ語の調べが、わらべ歌や民話もふくめ、たくさんの物語を伝えてきました。」ともいう。

 

『まのいい りょうし』書影

『まのいい りょうし』
瀬田貞二 再話、赤羽末吉 画 
福音館書店、1975年 
最初は、月刊絵本『こどものとも』の1冊として、1973年に刊行された。
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

 

大人と子どものための世界のむかし話⑨『イランのむかし話』書影

大人と子どものための世界のむかし話⑨『イランのむかし話』
井本英一・編訳 
偕成社、1990年 
10編の話が収められている。「はじめに」には、イランは、むかしペルシア(ペルシャと同じ)といわれて、2500年以上前に世界ではじめて大帝国をつくったと書かれている。このペルシア帝国の歴史も記されている。――「ですからイランのむかし話には、イランで生まれた話ばかりでなく、ギリシアで語られた話や、インドやエジプトから伝わってきた話などがはいりこんでいます。また、イランのむかし話が、周辺のトルコ人やアラブ人にも伝わっているのです。」
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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