ファンタジーの世界で遊ぶ 『ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん』

黄色い表紙には弾けそうに熟したブルーベリー。その木の間に巣を張る蜘蛛や両脇を飛ぶ蜂、下面を一列に行進するカタツムリの方に目を奪われてしまうのは、艶々と光るブルーベリーの上に覆いかぶさるように題名が印字されているからです。それでも、このヴィヴィッドなクリ―ムイエローの表紙は、手に取るものの心をわくわくさせます。きっと中を開かずにはいられないはずです。
主人公は、赤い帽子をかぶってバラ色の頬をした女の子みたいに可憐な男の子プッテです。お母さんの誕生日を祝うためにフルーツを摘みに来たプッテでしたが、森の中をあちこち探しても見つからないので、切り株の上に腰掛けて泣いてしまいました。そこに通りかかったブルーベリー森の王さまの杖で、王さまと同じくらいの―こびとの―大きさになったら、さあ、冒険の始まりです。
小さくなったプッテは、ブルーベリーを青いりんごだと勘違いします。ブルーベリーと同じ色の服を着た七人の男の子たちが、プッテのためにブルーベリーを集めてくれたり、木の皮のヨットに乗せてくれたり、さらにこけももかあさんのところでは、女の子たちがこけももをプッテのために摘んでくれます。男の子たちは、手足や口の周りにブルーベリーの果汁をぺっとりとつけた半ズボン姿で、乗馬さながらにねずみにまたがり、ブルーベリーの森をかけぬけます。一方、ベルスリーブのふわりとした紅白のワンピースを身にまとう女の子たちは、きまじめな顔でこけももを磨き、クモの巣のハンモックでブランコ遊びをします。もちろん両方ともプッテが一緒です。このあたりの絵はとても楽しく、読者の子どもたちも、酔うように画面を見つめます。
動物も虫も、そしてこびとたちも、それぞれが特色豊かに表現され、種の個性が際立っています。そのすべてを包み込む豊かな森を、プッテは小さくなって満喫したのです。なんて幸せな体験でしょう。ベスコフの描く森は、グリム童話の重苦しく鬱然としたそれとは違い、陽気でからりとしています。「冒険」といっても、ですから怖い思いやスリルとは無縁で、どこかのんびりおっとりとしているのです。この、何かに守られながら新しい経験を楽しむというシチュエーションが、読者の子どもたちのちょっと臆病な好奇心を捉えるのかもしれません。ベスコフは、幼い人たちの喜びを知っている作家だと改めて感じます。お話の最後を飾るお母さんへのプレゼントも、カラフルでみずみずしく、とても素敵です。
吉田 真澄 (よしだ ますみ)
長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。