「友だち」問題

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【「友だち」問題】です。

 

『ちょっとだけ ともだち』中面画像
『ちょっとだけ ともだち』より

 学校というのは、とにかく「みんな仲良く」で、「いつも心が触れ合って、みんなで一つだ」という、(中略)「一ねんせいになったら」という歌に象徴されるような「友だち幻想」というものが強調される場所のような気がします。けれど私たちはそろそろ、そうした発想から解放されなければならないと思っているのです。(菅野仁『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』ちくまプリマー新書、2008年)

 

 でももし、「かしてあげない」っていったら、きっとあたしは、いじわるな()って、(おも)われます。
 先生(せんせい)にも、みんなにも、いじわるな()なんて、(おも)われるのはいやです。
 いわくらくんだけならいいけど……。
 あたしは、きゅっとくちびるをかんで、うつむいたまま、いろえんぴつを、いわくらくんのほうにおしました。

 

こたえは みんなのいえの ごみばこに ひっそりと すてられた 「てがみのたね」。
ジャンボリは それを まいばん あつめてまわる。
かきまちがえたもの。なんども かいた したがき。
はずかしくなって だすのを やめてしまったもの。
すてられた てがみのたねには みんなの 「はだかんぼうの きもち」が でこぼこに つづられていて、
ジャンボリは それが たまらなく すきだった。

 


 

『ちょっとだけ ともだち』書影

『ちょっとだけ ともだち』
なかがわちひろ 作 
のら書店、2025年 
「ぼく」の名前は一平。『すてきなひとりぼっち』(2021年)にはじまる『一平くんのおはなし』の3作めだ。山田ほのかさんと友だちになった、いきさつは、第2作『ぼくは、ういてる。』(2024年)で語られた。今回は、ひとりで行った「せかいのカメ展」で早川ヒロくんに出会う。でも、カメ以外では、「ぼく」とヒロくんの興味は重ならないようだ。

 

『つくしちゃんとながれぼし』書影

『つくしちゃんとながれぼし』
いとうみく 作、丹地陽子 絵 
福音館書店、2025年 
やっぱり、いわくらくんは、みかん色と茶色と黒の鉛筆をぼっきり折って返してきた。わざとじゃないみたいだけれど。
翌朝、学校へ行くとき、歩道橋の上で、いわくらくんを見かける。おかあさんと手をつないで、泣いているようだった。「あたし」は、「おはよ」といって追い抜いたのだが……。
この「だいきらい」のほか、「おもち」、「ながれぼし」の合わせて3編を収める。2021年7月号で「がんばりやのおねえちゃん」のタイトルで紹介した『つくしちゃんとおねえちゃん』(2021年)の続編。

 

『どろぼうジャンボリ』書影

『どろぼうジャンボリ』
阿部 結 
ほるぷ出版、2025年 
ごみばこにすてられた「てがみのたね」は、ながくなりすぎたもの、涙がこぼれてしまったもの、まとまらなかったもの、などなどだ。ジャンボリは、集めた「てがみのたね」を大切に味わって、「てがみのたね」をしまう宝箱のなかで眠る。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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