「戦争」を聞く、「戦争」を書く

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【「戦争」を聞く、「戦争」を書く】です。

 

『いま、日本は戦争をしている―太平洋戦争のときの子どもたち―』中面画像
『いま、日本は戦争をしている―太平洋戦争のときの子どもたち―』より

()(もの)がない。お(みせ)(から)っぽだし、配給(はいきゅう)(こめ)だけじゃ、ぜんぜん()りないし。家族(かぞく)()べるものが必要(ひつよう)なのよ。

おまわりさんにいろいろいわれたとき、みっちゃんは、しくしく()いてたけど、わたしは、家族(かぞく)のためだもん、なにがあってもまけないって、がんばった。
(かあ)さんは、なみは(つよ)()だねぇ、でもお(よめ)さんにいくことを(おも)うと心配(しんぱい)だ、とかいう。そういうのを、()(なか)では「余計(よけい)なお世話(せわ)」というのよ。ね?

 

 夏休み、九州の長崎市に全国から小学生と保護者(ほごしゃ)が集まり、街なかで取材をして記事にする「親子記者事業」という活動があります。この事業は二〇〇八年からはじまり、三百六十以上の全国の自治体がくわわっている日本非核(ひかく)宣言(せんげん)自治体(じちたい)協議会(きょうぎかい)という団体(だんたい)運営(うんえい)しています。
 四年生以上の小学生と保護者九組を四日間、長崎市に招待(しょうたい)します。八月九日に開かれる長崎原爆犠牲者慰霊(げんばくぎせいしゃいれい)平和祈念(きねん)式典をはじめ、平和について考えるイベントや平和活動に取り組む人たちを小学生と保護者がいっしょに取材して、おやこ記者新聞「ナガサキ・ピース・タイムズ」をつくります。

 

 


 

『いま、日本は戦争をしている―太平洋戦争のときの子どもたち―』書影

『いま、日本は戦争をしている―太平洋戦争のときの子どもたち―』
堀川理万子 
小峰書店、2025年 
東京から長野に疎開した著者の父は、著者が子どものころ、米の入ったリュックサックをとられたことを何度も話したという。これは、「堀川利通さん 3  長野 1945(昭和20)年12月 11歳 たき火とリュックサック」の見開きに描かれている。おとうさんのこの話がきっかけで本をつくることになった(「この本を読んでくれたみなさんへ」)。

 

『小学生記者がナガサキを記事にする みんなに伝えたい戦争や原爆のこと』書影

『小学生記者がナガサキを記事にする みんなに伝えたい戦争や原爆のこと』
前田真里 
くもん出版、2025年 
第一章「戦争って昔のことじゃないんだ!」に登場するのは、2019年に記者をつとめた花城琉聖さんだ。自分の住む地域の太平洋戦争のことを調べるという事前課題では、山中へ避難した石垣島の人びとがマラリアにかかった話を聞いた。長崎では、平和祈念式典に参加したナイジェリア大使に取材した。まず、練習した英語であいさつして、インタビューがはじまった。ナイジェリアでは、いまも内戦がつづいているという。2023年、著者は、中学3年生になった琉聖さんと、石垣島の戦跡をたずねる。

 

『ひろしま絵日記』書影

『ひろしま絵日記』
中澤晶子 作、ささめやゆき 絵 
小峰書店、2025年 
まあちゃんの8月5日の日記には、おむかいのおばさんから、モモを一つもらったことが書かれている。このころ、もう6年生だった、ふみこさんは学童疎開でいなかに行っていたし、おとうさんは戦地だった。モモを食べるはずだった8月6日、原爆が落とされた。その朝、おかあさんは、郊外の親戚のお見舞いに行った。町中の学校に通っていた、まあちゃんだけが、80年たっても帰らない。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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