「めがね」の魔法

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【「めがね」の魔法】です。

 

『麦ちゃんのめがね』中面画像
『麦ちゃんのめがね』より

 (むぎ)ちゃんは、黒板(こくばん)の字が、ポヤポヤした毛糸くずに見えました。ときどき虫みたいにも。毛糸くずも虫も、黒板の中で、ジミリ、と(うご)いたりします。よく動くのは、ひらがなの「く」や、数字でした。そんなときは、目を細めて見ると、毛糸くずや虫は、字にもどりました。

 手のひらの小さな変化(へんか)は、藤本健志郎(ふじもとけんしろう)の心の声に思えました。
――お前、(うご)けよ。動いてくれよ!
――おまえ、()ぬなよ。生きていてくれ!
 めがねの力なんでしょうか。麦ちゃんには、心の声が見えるようでした。

 

 

 


 

『麦ちゃんのめがね』書影

『麦ちゃんのめがね』
最上一平・作、かつらこ・絵 
新日本出版社、2025年 
藤本健志郎は、虫にくわしい岳くんにカナブンを託す。麦ちゃんが岳くんの手のひらに顔を近づけてカナブンを見ると、前足の先がほんの少し動く。――「命がまだあるんだよ」岳くんは、裏庭のどんぐりの木にカナブンをとまらせる。カナブンは、樹液を食べるからだ。岳くんがいう。――「めがねをかけたんだね。だから、カナブンの命が見えたの?」「めがね、いいね」

 

まんがで哲学『哲学のメガネで世界を見ると』書影

まんがで哲学『哲学のメガネで世界を見ると』
監修/河野哲也、文・構成/菅原嘉子、絵・漫画/ながしまひろみ 
ポプラ社、2023年 
「ハテナのメガネ」には、もっといろいろな種類があるという。「どういうこと?」のメガネ、「反対は?」のメガネ、「たとえば?」のメガネ、「立場を変えたら?」のメガネ、「くらべると?」のメガネ、「ほかの考えは?」のメガネなどだ。

 

『すっぱりめがね』書影

『すっぱりめがね』
作 藤村賢志 
教育画劇、2017年 
絵本の表紙は、ラーメンの入ったどんぷりを「すっぱりめがね」で見たところ。めがねで見ているだけだから、ラーメンのスープはこぼれない。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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