投げ込まれてきたゾウ

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【投げ込まれてきたゾウ】です。

 

「いろんなものよ」お母さんは言った。「めずらしい国とか動物とか人間とか……」
「ニンゲン?」テウニスはおどろいて()いた。ニンゲンならたくさん知っている。お父さんとお母さんと自分以外、知っている人はみんなニンゲンだった。

 

 

 


 

『ゾウのテウニス』書影

『ゾウのテウニス』
トーン・テレヘン 作、長山さき 訳、たまむら さちこ 絵
理論社、2025年
オランダ在住の訳者は、あとがきに、こう書いている。――「息子が小学生だった二〇〇〇年代初め頃、オランダは積極的に難民を受け入れていた。」「息子をとおして実際のオランダの小学校を体験したわたしは、オランダならクラスにゾウの子どもがいても周りは受け入れてくれそうだ、と感じていた。」残念ながら、現在は、移民や難民が増えすぎて、かならずしも、そのような状況ではないというが。

 

『ワニが しごとに でかけます』書影

『ワニが しごとに でかけます』
ジョヴァンナ・ゾーボリ 作、マリアキアラ・ディ・ジョルジョ 絵
BL出版、2025年
編集者・作家・アートディレクターとイラストレーターの合作の文字なし絵本だ。

 

『ぞうのオリバー』書影

『ぞうのオリバー』
シド・ホフ 作、三原 泉 訳
偕成社、2007年
人間世界に投げ込まれたもう一つのゾウの物語である。
町に出たオリバーは、車を運転する人たちが道をまがるときに手で合図するのを真似して、鼻でちゃんと合図をする。人間世界のルールを学んで、人間たちに寄りそおうとするゾウが描かれる。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

親と子の本棚の記事一覧はこちら