「うそ」と「ほら」のあいだ

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【「うそ」と「ほら」のあいだ】です。

 

『ほらふきのちゃんはうそつき』中面画像
『ほらふきのちゃんはうそつき』より

 わたしの おばあちゃんは、すっごく さむいところに すんでいます。
 どんなに さむいかと いうと、クーラーを つけると、へやが あったかくなるぐらい さむい ところです。
 はいた いきは、さむさで こおりに なるし、しゃべった ことばは、シャーベットに なります。キザな ひとが「あいしてるよ」と さけぶと、アイスクリームに なります。すっごく あまいらしいです。

うそ ほんとうでないこと。いつわり。
ほら 大げさに言うこと。でたらめ。
(田近洵一監修『例解小学国語辞典』第八版、三省堂、2024年)

 

 そこで、ほらふきカールおじさんは うまの たづなに むけて、ピストルを ズドンと いっぱつ!
 たまは、たづなに めいちゅう!
 おちて くる うまを ほらふきカールおじさんは だきとめました。そして、かすりきずひとつ ない うまに またがり、その まま たびを つづけたって いうんだけど、ほんとかなあ……。

 

 


 

『ほらふきのちゃんはうそつき』書影

『ほらふきのちゃんはうそつき』
作 加瀬健太郎、絵 横山寛多 
偕成社、2025年 
「うそ」と「ほら」を引いた『例解小学国語辞典』第八版には、「読書」という項目もある。その「読書」の項目のある、つぎのページから6ページにわたって、小学生のための読書案内が掲載されている。「おなかがすいたきみに」「思いきり笑いたいきみに」など、六つのテーマで、各ページ、低学年むき、中学年むき、高学年むきのそれぞれ3冊を表紙の写真と短い説明で紹介している。1ページに9冊だから、全部で54冊。読書案内をつくったのは私だ。ほんとうだよ。よかったら、この「親と子の本棚」とあわせて、活用してください。

 

『ほらふきカールおじさん ロシアのたび』書影

『ほらふきカールおじさん ロシアのたび』
文/斉藤 洋、絵/高畠 純 
講談社、2020年 
ミュンヒハウゼン男爵は、18世紀のドイツに実在した人物で、彼の体験談がふくらまされて、ほら話になったようだ。やがて、何人かの作者によって、彼と関係のない話も、「ほらふき男爵」の話として語られるようになる。偕成社文庫版『ほらふき男爵の冒険』(ミュンヒハウゼン作、高橋健二訳、1983年)などで、一通り読むことができる。
この絵本には、続編『ほらふきカールおじさん トルコへいく』(2021年)がある。

 

『エイドリアンはぜったいウソをついている』書影

『エイドリアンはぜったいウソをついている』
マーシー・キャンベル 文、コリーナ・ルーケン 絵、服部雄一郎 訳 
岩波書店、2021年 
「わたし」がエイドリアンのことを母さんに話すと、母さんは、「でも どうして ウソって わかるの?」という。「わたし」とふたりで犬のガブガブを散歩させているとき、母さんは、どんどんエイドリアンの家のほうに行く。エイドリアンは、小さな家で暮らしていた。エイドリアンとむかいあったとき、「わたし」は、ことばを飲み込む。やがて、いう。――「馬は とおくにいるんでしょ?」「わたし」は、エイドリアンの想像を自分のものにして、「うそ」にかくれていた「本当」に出会う。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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