今月のテーマは【「死」をのがれるために】です。
頭の赤いかざり

「なんか、すごい」
と、おもったのです。だって、マッチぼうは、つまようじたちより ずっと ふとっていて、おまけに、あたまのところには、みたこともない、ぷっくりと ふくらんだ 赤いかざりを つけていたから。
たいどだって、どうどうと しています。
「やあやあ、みんな」
と、マッチぼうはいいました。
「この王かんが、しゅっ、といって、まっかな あつい ほのおを もえたたすのは、ほんとうに ほんとうの たいせつな ときだけなのだ。そして、王かんが、しゅっ、といって、まっかな あつい ほのおを もえたたせたとき、わたしの からだも、そのほのおに つつまれる。そして、わたしは 灰と なり、死んでいくのだ」
あたたかいあかるい炎
少女の小さな手は、寒さのために、もうほとんど死んだようでした。ああ! 一本の小さなマッチでも、こんな時は、どんなに役にたつかしれません。それには、マッチのたばから一本ぬいて、壁にこすって、指さきをあたためさえすればいいのです。
少女は一本ぬきました。シュッ! なんという火花でしょう。なんとよく燃えること! あたたかいあかるい炎は、まるで、小さいロウソクの火のようでした。(引用は大畑末吉訳『アンデルセン童話集』2による)
箱のなかの小さい箱
「わあ! ちっちゃい箱がいっぱい。」
「わしの日記だよ。ほんとうはマッチ箱なんだけどね。」
「『にっき』ってなに?」
「起こったことを書いておくんだよ。でもな、おまえくらいのころ、ひいじいちゃんは、読むことも書くこともできなかった。だから、マッチ箱にその日の思い出を入れることにしたのさ。まずはじめに、この箱をあけてごらん。」
今月ご紹介した本
『つまようじの王さま』 ![]()
二宮由紀子文、かねこまき絵
文研出版、2025年
昨年(2025年)、日本は、「戦後80年」だった。年上のマッチ棒たちは、灰になるのをこわがるマッチ棒を「マッチぼうは、ほのおに つつまれて、灰に なるために うまれてきたのだ。(中略)おまえも、はやく いちにんまえの マッチぼうとして、いさましい、りっぱな 死にかたが できるように ならなければ ならないぞ」としかったという。戦場で命を落とした若者たちのことなどが頭をよぎる。しかし、主人公のマッチ棒は、死をのがれて、それでも、「マッチぼうって、えらいもんだなあ」といわれることになる。
『アンデルセン童話集』2![]()
大畑末吉訳
岩波少年文庫、1986年
少女は、マッチの光のなかに見えた、おばあさんに神さまのところへ連れていってほしいと願う。火が消えると、おばあさんも行ってしまうから、少女は、大いそぎで、残りのマッチ全部をこする。
『マッチ箱日記』 ![]()
文/ポール・フライシュマン、絵/バグラム・イバトゥーリン、訳/島 式子 島 玲子
BL出版、2013年
ひいじいちゃんと母さんと姉さんたちは、アメリカで働いている父さんのところへ行くことになる。アメリカ行きの途中で、マッチ箱に思い出を入れることがはじまった。はじめて見た、びん入りの飲み物のふた、船のデッキに落ちていた、すてきなヘアピン……。アメリカに着いた、ひいじいちゃんは、学校に行って、苦労して読み書きを学び、夜には、姉さんたちに学んだことを教えた。ひいじいちゃんは、やがて、印刷工になる。女の子とひいじいちゃんの会話だけで展開する絵本。
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。