『小さな赤いめんどり』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

 

アリソン・アトリー 作/神宮輝夫 訳/こぐま社

『小さな赤いめんどり』は、細道を下った先の小さな家に一人きりで住むおばあさんが主人公です。おばあさんは、掃除や畑仕事をしたり、敷物を作って売ったりと、一日中働いています。

おばあさんのブリキのコップは、いつも銀のようにひかっていました。
しんちゅうの ろうそくたては、金のようにかがやいていました。

やはり何と言っても、その“丁寧な暮らし”ぶりに目が行きます。寂しさを時おり嘆きながらも、「きもちのしっかりした」おばあさんは立派にひとりで暮らしていたのです。ある晩、小さなめんどりがおばあさんを訪ねてきます。痩せためんどりのために食事を用意し、簡易だけれど居心地の良い寝床を作ったおばあさん。翌朝、おばあさんが目を覚ますと、台所はすっかり掃除され、泉で汲んだきれいな水と茶色の卵がきちんと準備されていたのでした…。

アトリーの作品のなかで、忘れてはならない「グレー・ラビット」シリーズ。『グレー・ラビットとヘアとスキレル スケートにいく』(童話館出版)の作者本人による前書きを私はとても気に入っていて、幼い人たちと一緒に読む際にも、毎度欠かさず紹介しています。「みなさまは、もちろん、しっていらっしゃるとおもいますが」と始まるその「まえがき」には、みつばちの蝋(ろう)にトウシンソウ(イグサの一種)を差したロウソクのことや、豊かな湧き水のこと、木を燃やした火で料理することや、自分の姿を見たい時は静かな池をのぞくことなどが順序よく述べられています。やさしいのに、静かな迫力が放たれているのは、洪水のような新しさの渦に搦(から)めとられそうになっても、どうかこの“場所”を忘れないで、という作者の願いが底流しているせいでしょうか。私はそう受けとめています。働き者の「小さな赤いめんどり」は、グレー・ラビットによく似ています。“丁寧な暮らし”と聞いて、私がアトリーの物語を想起するのは、この作家が大人になるまでに出合った物ひとつひとつを、大切に慈しみ、さらにそれを固い背骨として作品を書いているから。それは、滑らかな化繊ではなく、洗いざらしの木綿の風合いを思い出させる暮らしなのです。

お話の最後には、おばあさんと赤いめんどりが深い信頼で結ばれていたことが余韻をもって語られます。大きなひらがなで書かれていますので、低学年の子どもたちなら充分読めますが、大人の声で一緒に楽しむのもお薦めです。健やかなものを身近な人と分かち合う一握の喜びが、心を潤してくれるでしょう。

 

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

 

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