出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。
今月のテーマは【つまずきの「早口ことば」】です。
三連休の宿題
『早口ことばがじゃまをする』より
かえりの会で 先生が いった。
「はーい、あしたから 三れん休やけど しゅくだいが ありまーす。
早口ことばを かんがえる、ええか~」
「え~っ!!」
原作 桂三実、文・絵 あおき ひろえの絵本『早口ことばがじゃまをする』のはじまりだ。
主人公のコウタのうちは、三連休でも、どこにも出かけない。もうすぐ赤ちゃんが生まれる、おかあちゃんが早めに入院していて、おとうちゃんとふたりで留守番だ。ふたりは、ファミレスに行く。ファミレスまでの道を歩きながら、宿題の早口ことばを考える。――「おとうちゃん、こんなん どうやろ?」
道に ミニチヂミ 道に ミニチヂミ 道に ミニチヂミ
「へぇ~ おもしろいな」と、おとうちゃんがほめた。――「でも ほんまに チヂミが おっこちてんの 見たことないけどね」チヂミは、あの韓国ふうのお好み焼きだ。一口で食べられる小さいのがミニチヂミだが、道には落ちていないだろう。
休日のファミレスは混んでいる。となりのテーブルにすわっているお客さんはひとりなのに、たくさんの料理が届く。――「おまたせしました。柿ピッツァに 柿プリン、柿玉グラタンと 柿ポテサラダ、柿のいそべあげで ございます」コウタは、思わず、「となりの 客は よく 柿食う客や!」
コウタとおとうちゃんのところにも、料理が来た。――「おまたせしました。辛カリカリカタ唐揚げカリー と 煎り稲荷入り田舎稲庭うどん です」
舌もじり
綿谷雪『言語遊戯の系譜』(青蛙房、1964年)には、「奇異な言語現象が、特殊な注意のもとに民族の口誦遊戯の内容にとり入れられていることは世界の諸民族に通有のことで、……」とあって、「そのもっとも奇異なもの」が早口ことばだという。著者は、早口ことばをAからGの七つに分類する。Aが「速度のみを対象とする長文句」、Bが「舌もじり」……。『早口ことばがじゃまをする』に出てくるのは、この舌もじりだろう。「発音の正確を目的とする遊戯文句」で、いいにくく、まちがいやすい構成になっている。
病院から、おとうちゃんに電話がかかってきた。――「なに? もうすぐ うまれそう? すぐ いきます」いそいでいるのに、街頭アンケートが呼びとめる。――「すももも ももも もものうち だと おもわれますか?」「どうでもいいです!」
長野ヒデ子・絵、齋藤孝・編の声にだすことばえほん『外郎売』(ういろううり)のとびらには、「よーし きょうも ういろう うってくるか~ あ~あ~」といって起き上がる男の絵が描かれている。赤ちゃんをあやしながら「おまえさん しっかり かせいでおくれ」というおかみさんや、「ちゃーん! おはよー」といっている子どもも。とびらをあけると……
拙者親方と申すは、お立ち合いの中にご存知のお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原、一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出なさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして、円斎と名のりまする。
また、ページをめくると、「只今は此の薬、殊の外世上に弘まり、…」とあって、「ういらう」という薬を売る口上だとわかる。口上は、ページをめくってもめくっても、長く長くつづく。
最強の悪口
ばんひろこ『あいことばはアバイケポン』のめいと、たいきは、めちゃめちゃに怒る。生まれたばかりの赤ちゃんのカマキリを、虫がこわくて、大きらいな、あやなちゃんが悲鳴をあげながら上ばきでふんづけたのだ。たいきは、あやなちゃんに飛びかかって、「バカバカバカちん、おまえはバカのブタブタ子ブタ、ブーだッ」とさけぶ。あやなちゃんはカマキリをふんだ上ばきをぬいで、すてたいというから、めいも、どなる。――「このバカちん! ブタブタ子ブタ!」担任の山口先生に「バカといってはいけません!」と叱られたふたりは、カマキリのお墓の前で、「ふたりだけにわかる、最強の悪口考えない?」
「よおし。じゃあ、これにしよう。アバイケポン!」
「な、なに? それ」
「だからあ、アホのア。バカのバ。イミわかんないのイ。けっとばしてやりたいのケ。ポンコツのポン」
「ああーあ、なるほど」「暗号みたいでかっこいいな」――たいきは、うれしそうにニタニタわらう。早口ことばは、いいにくくて、つまずいてしまうが、あいことばは、ふたりの毎日のなかで起こる様々なつまずきを乗りこえる力をあたえてくれる。
今月ご紹介した本
『早口ことばがじゃまをする』 
原作 桂 三実、文・絵 あおき ひろえ
理論社、2025年
コウタとおとうちゃんが病院へいそいでいるのに、今度は、すごい人だかりで前に進めない。お坊さんが路上パフォーマンスをしているのだ。――「坊主が 屏風に 上手に 坊主の 絵を 描いた⁉」いいにくくて、つまずく早口ことばと、なかなか先に進めないことが重ねて描かれている。ふたりは、おかあちゃんの出産に間に合うのだろうか。若手の上方落語家、桂三実の創作落語が原作の絵本だ。
声にだすことばえほん『外郎売』 
長野ヒデ子・絵、齋藤孝・編
ほるぷ出版、2009年
「「外郎売」は、日本に昔からあった早口言葉をてんこ盛りに詰め合わせた歌舞伎の芸だ。(中略)
この外郎売は、歌舞伎役者・市川團十郎の十八番の一つになっている演目だ。江戸時代に市川團十郎が、ういろう(または透頂香)と呼ばれる中国伝来の丸薬によって自分の持病の咳がとまったことに感謝して、1718年に初演したのがはじめと言われる。」(巻末の齋藤孝「外郎売は早口言葉のお徳用詰め合わせセット」より。カッコ内原文)
『あいことばはアバイケポン』
ばんひろこ 作、羽尻利門 絵
新日本出版社、2025年
「春はカマキリ」「夏は夕立」「秋は思い出」「冬はねつを出す」の四つの章でできている。「アバイケポン」「アバイケポン」と言い合いながら、めいとたいき、それに、ふたりが仲良くなっていく、しんごくんの物語が展開していく。
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。
親と子の本棚の記事一覧はこちら