手が語る、語りつぐ

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【手が語る、語りつぐ】です。

 

『おどっているよ、わたしのて 目で見ることばで おはなししたら』中面画像
『おどっているよ、わたしのて 目で見ることばで おはなししたら』より

さいきん、わたしのうちの となりに、あたらしい かぞくが ひっこしてきました。
いつも、てが おどっているみたいに みえます。
まるで おんがくに あわせて てが うごいているみたい。
なにかを つたえあって いるのかな。

 

 とつぜん、声がきこえた。熱のせいかと思ったら、(ひたい)に力強い手がふれ、顔に水があびせかけられた。
「おまえさんよ、こんなところにいたら、死んじまうぞ」ぼくに水を飲ませながら、男はいった。

 ぼくたちが別々のところにつれていかれそうになったとき、ピンクは、ぼくに手をのばしていった。
「おれの手を(にぎ)ってくれ。リンカーンさんと握手(あくしゅ)したその手で。セイ、もう一度だけ」

 

 むかしはみんな手で食べていたのに、おはしやフォークを使うようになったところがある、ということは、今でも手で食べているところは、「おくれている」ってことなのだろうか。

 


 

『おどっているよ、わたしのて 目で見ることばで おはなししたら』書影

『おどっているよ、わたしのて 目で見ることばで おはなししたら』
ジョアンナ・ケとチャリーナ・マルケス 文、フラン・アルヴァレス 絵、ミレナ・イノセンシオ-ドミンゴ 訳 
偕成社、2025年 
解説によれば、日本には、「日本手話」と「日本語対応手話」があるという。
「日本手話」は、日本語とはちがった独自の文法の、手や指だけでなく、肩や目、口などの動きも用いたことばだ。――「昔から()()(聞こえない―宮川注)の人たちのあいだでうけつがれ、発展してきた言語です。」
「日本語対応手話」は、50音に対応させた手のかたちで表現するもの。――「どの手話をつかうかは、人によってそれぞれちがいます。その人がその人らしく誇りを持って生きていくために必要な手話を選んで表現しているのです。」

 

『彼の手は語りつぐ』書影

『彼の手は語りつぐ』
パトリシア・ポラッコ、千葉茂樹 訳 
あすなろ書房、2001年 
ピンクとセイの物語は、長生きして、孫にもひ孫にもめぐまれたセイの家族が語りついでいく。セイのひ孫のウィリアムは、むすめのパトリシア、つまり、この絵本の作者に語った。――「父ウィリアムがこの物語をきかせてくれるとき、最後に必ずわたしの手をとって、こういいました。「この手はね、エイブラハム・リンカーンと握手した手にふれた手なんだよ」と。」

 

たくさんのふしぎ傑作集『手で食べる?』書影

たくさんのふしぎ傑作集『手で食べる?』
森枝卓士 文・写真 
福音館書店、2005年 
インド料理のミラ先生は、手で食べる「おぎょうぎ」を教えてくれる。先生は、「料理を手でも味わうのよ」という。――「おはしやフォークを使うように「すすんでいった」ところもあれば、手でおいしく、きれいに食べる方法を「すすめていった」ところもある、ということなんだ。」

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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