「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
置いておくだけでゼリーが二層に!?
一般的に、上下で色の違う二層ゼリーを作る場合、まずは下の段を作って固めて、それから上の段を流し込んで固めるので、通常のゼリーに比べて二倍の手間がかかります。
しかし、今回紹介するゼリーのレシピは、材料をすべて小鍋に合わせて器に注ぐだけ。しばらく置いておくだけで、上の段は白いムース状、下の段はオレンジ色のゼリーと、勝手に二層に分かれる不思議なゼリーです。
牛乳の“ある性質”を活用した科学的にも見た目にも楽しいデザート、お子さまと一緒に作ってみてはいかがでしょうか。
ゼリーが二層に分かれるヒミツ
どうして二層に分かれるの?
まずは今回紹介するゼリーの作り方を簡単に紹介しましょう。
1 ジュースと砂糖を小鍋に入れて加熱する。
2 沸騰したら火を止めて、ゼラチンを加える。
3 牛乳と生クリームを加えて混ぜ、器に注ぎ分ける。
4 粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。
たったこれだけで、冷蔵庫から出すころにはきれいに二層に分かれているのだから不思議ですね。なぜ、混ぜて置いておくだけで二層に分かれるのでしょうか?
実はこのレシピ、「牛乳に酸を加えると、タンパク質が集まってかたまりになり、分離する」という性質を活用しているのです。
牛乳は水にさまざまな栄養素、成分が溶け込んだもの。そのなかにはいろいろなタンパク質も含まれていますが、これらは大まかに「カゼイン」と「乳清タンパク質」の2種類に分類されます。
カゼインとは、酸性にするとかたまりになって出てくる性質を持つタンパク質のこと。牛乳に含まれるタンパク質の約8割を占め、本来は水に溶けないタンパク質です。
普通、水に溶けないものを水に加えてかき混ぜても、時間が経つと上に浮き上がってくるか、下に沈んでしまうかのどちらかです。たとえば片栗粉を水に溶かしても、時間が経つと沈んできますよね。
しかし、カゼインの場合はごく小さなかたまりを作り、磁石のS極同士、N極同士のようにかたまり同士が互いに反発し合うことによって、牛乳のなかをふわふわと漂っています(この状態をコロイドといい、牛乳が白く見える理由の一つでもあるのですが、長くなるので割愛……高校の化学で学習するので、お子さまが興味を持ったら一緒に調べてみるとよいでしょう)。
ところが、ここに酸を加えると、今度はカゼインの粒同士が磁石のS極とN極のように引き寄せあい、大きなかたまりになります。
ごく小さなかたまりだったうちは、沈んだり浮いてきたりすることなく水のなかを散らばっていられたのですが、大きくなるとそうもいかなくなり、白いもやもやとしたかたまりとして出てきてしまいます。
今回の二層ゼリーのレシピでは、ジュースに含まれる酸によって、牛乳や生クリームに含まれるカゼインがかたまりとなり、ここに乳脂肪も一緒に巻き込まれて上の白い層を作ります。
これは、チーズができる仕組みにもよく似ていて、白い層は一種のフレッシュチーズのような状態なので、食べてみるとレアチーズケーキのような味がしますよ。
残りの乳清タンパク質や牛乳の水分はジュースと一緒に、下のオレンジ色の層になります。
牛乳のタンパク質が酸によって分離し、まとまるから!
もっと詳しく! いろんな飲み物で試してみよう
この二層ゼリーのポイントは「酸性の飲み物で作る」こと。したがって、オレンジジュース以外にも、グレープフルーツなどの柑橘類や、パイナップル、ぶどうなど酸味のある果物のジュースでも同じように作ることができます。(写真右はぶどうジュース、中央はオレンジジュースで作ったもの)分量はオレンジジュースの場合と同様。いずれも、果汁100%のものを使用してください。
逆に、酸が含まれていない飲み物ではカゼインが凝固しないため、このような二層にはなりません。
たとえば、ジュースの代わりに紅茶を使った場合、層はできずにただのミルクティーゼリーになってしまいます。(写真左側)

では、レモンティーではどうでしょうか? レモンの酸で層ができそうな気がしますね。レモン汁の量を変えたら仕上がりも変わるでしょうか? コーヒーではどうなるでしょう?
ゼリーが二層に分かれる仕組みについて考えながら、いろいろな飲み物で作り比べ、考察してみるとより興味が深まるかもしれませんね。
次回は「酢の物のコツ」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。