「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
サラダ感覚で、家族みんなで食べられる酢の物を作ろう
暦の上ではもう秋ですが、例年9月はまだ少し暑さが残りますよね。暑さに疲れた体にうれしいのが酢の物。酸味が食欲を増進し、唾液や胃液の分泌も促してくれます。
酢の物のおいしさはお酢だけでは決まりません。酸味がさっぱりしつつもツンとしない、食べやすい酢の物を作るには、お酢以外の材料による味付けのバランスが大切です。今回の記事ではサラダ感覚で、家族みんなで食べられる酢の物のコツとレシピを紹介します。
さっぱりするけどツンとしない酢の物の味付け
酢の物は「さっぱりとして好き!」という人と「ツンとした酸味が苦手」という人と、好みが分かれる料理です。とくに子どもは味覚が敏感で、大人以上に酸味を苦手に感じることが多いようです。酸味は本来、腐っているものや未熟な果実を見分けるための危険信号で、本能的には避けようとする味と言われています。一方で、経験によっておいしく感じられるようになる味でもあるので、無理なく少しずつ挑戦していけると良いのではないでしょうか。
家族みんなが食べやすいまろやかな酢の物を作るにはどうしたらいいでしょう。お酢を減らすと酸味は穏やかになりますが、味がぼやけてしまいがちです。お酢の酸味をおいしく感じるのに重要なのは、実は「お酢以外の材料」。ほかの調味料や具材から出る味とのバランスによって酸味がマイルドになり、食べやすくなるのです。
まず、合わせ酢を作る際には、醤油や食塩など塩味のある調味料と、砂糖やみりんなどの甘味のある調味料を十分に加えましょう。合わせ酢の配合はレシピによっても様々ですが、一例をあげると酢大さじ2に対して砂糖大さじ1、醤油小さじ1という感じ。「こんなに砂糖を入れるの?!」と思うかもしれませんが、これくらい入れたほうが味のバランスはよくなります。
味付けは単純な足し算ではなく、味の組み合わせにより、ある味が強められたり、逆に弱められたりすることがあります。たとえば甘味や塩味には酸味の感じ方を穏やかにする効果があります。そのため、甘味や塩味をしっかり効かせると、お酢のさっぱりとした味わいが感じられるのにツンとしない、食べやすい合わせ酢になります。

酢の物を作った際に酸味がきついと感じたら、甘味や塩味を少し足してみましょう。甘過ぎる場合は砂糖を減らし、その分塩味を足して帳尻を合わせると酸味がきつくなりません。
塩味や甘味は酸味を穏やかにしてくれる一方で、足しすぎるとくどくなります。酸っぱいのが苦手な人は塩味や甘味だけでなく、出汁などのうま味のある材料を足して味をまろやかにするのもよいでしょう。冷蔵庫に白だしがあれば、酢と砂糖と白だしを2:1:1の割合で合わせると便利です。
また、出汁の代わりにうま味のある具材を入れると食べ応えも増します。かまぼこやカニカマ、さつま揚げなどの練り物や、釜揚げしらす、ツナ缶、ホタテの缶詰などは加熱不要でお手軽です。これらの具材は塩気があるので、その分、塩や醤油は少し控えめにしてください。きゅうりにホタテ、キャベツにさつま揚げなど、野菜との組み合わせを試してみるのもおもしろいですよ。
酢の物が水っぽくなるのはなぜ?
酢の物の野菜は生のまま使うことが多いですよね。塩分を含む調味酢で生野菜をあえると、浸透圧によって細胞内の水分が出て水っぽくなります。これを防ぐため、野菜はあらかじめ塩もみをして水分を出しておきます。野菜の重量の1〜2%量の塩を振り、15分ほど置いたら水気をよくしぼって使いましょう。

野菜を塩もみすると、細胞を包む膜と、その周りを囲んでいる壁との間に隙間ができます。ここに調味酢が入り込むため、味がなじみやすいというメリットもあります。
また、和えてから時間が経つとさらに水分が出てくるので、塩もみなどの下ごしらえをした具材と調味酢とを用意したら、和えるのは食べる直前にしましょう。とくに緑色の野菜やわかめなどは、お酢の酸で色が悪くなりやすいので、直前に和えた方が彩りもよくなります。
次回は「パイナップルポークソテー」について、科学的な要素に焦点をしぼって解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。