昔話をつくる数字

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【昔話をつくる数字】です。

 

『びっくりさんちのみつごちゃん』中面画像
『びっくりさんちのみつごちゃん』より

「あたし、アーちゃん」
「あたし、レーちゃん」
「あたし、マーちゃん」
さんにん ならんで、アー、レー、マー、ちゃん。
そして みんな さんさい。

「あー」「れー」「まー」
アーちゃんと レーちゃんと マーちゃんは びっくり びっくり。

 

 男は、三人のむすこを呼びあつめていいました。 
「家のことだが、わしは、こうすることにきめた。おまえたちみんな、世の中へでていくんだ。そして、めいめいひとつ、心にかなう職をえらんで、その技をしっかりと身につける。一年たったら、ここでおちあって、いちばんうまく技を身につけた者が、この家をつぐ。そうやってきめていいかね?」

 

 


 

『びっくりさんちのみつごちゃん』書影

『びっくりさんちのみつごちゃん』
角野栄子 文、西巻かな 絵 
童心社、2024年 
ねこのみつごは、それぞれのポシェットから、ねずみのぬいぐるみを取り出し、サボテンのみつごは、それぞれのあたまに咲いていた赤い花をとって、みつごの胸に差してくれる。こうした、おみやげ(贈物)も、昔話を感じさせる。昔話のなかの人間関係は、「各人物相互のあいだの目に見えない内的結びつきとして語られることはなくて、たいていは贈物の形で、目に見える関係として示される。」とは、先のマックス・リュティの意見だ。 
2003年に出版された本の改訂新版。続編にあたる『みつごちゃんとびっくりセーター』の改訂新版も同時に刊行された。

 

『グリムのむかしばなしⅡ』書影

『グリムのむかしばなしⅡ』
ワンダ・ガアグ 編・絵、松岡享子 訳 
のら書店、2017年 
『100まんびきのねこ』(石井桃子訳、福音館書店、1961年)などの絵本作家、ワンダ・ガアグが1936年に出版した本をⅠ、Ⅱの2冊にわけて翻訳したもの。グリムの昔話があわせて16話掲載されている。ガアグがそのあと1943年に出版した『グリムのゆかいなおはなし』も、同じ松岡享子訳で、同じのら書店から刊行されている(2019年)。

 

『ねえねえ、きょうのおはなしは…… 世界の楽しいむかしばなし』書影

『ねえねえ、きょうのおはなしは…… 世界の楽しいむかしばなし』
大塚勇三 再話・訳、PEIACO 画 
福音館書店、2024年 
巻末の斎藤惇夫による「解説」のおしまいには、大塚勇三のことばが紹介されている。――「とにかく、まっすぐお話の世界に入ってみてください。そうしたら、きっとお話が、なにかを語りかけてくれるだろうと思います。」『ノルウェーの昔話』(アスビョルンセン他編、福音館書店、2003年)の「訳者あとがき」のことばだ。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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