『ものいうほね』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

 

ウィリアム・スタイグ 絵・作 /せたていじ 訳/評論社

さて、主人公の子ブタの名前はパール。うららかな陽射しに誘われ、学校帰りに町を散歩します。それから森へ寄って草地に座ると、思わず「なにもかもすてきだわ」とつぶやきました。あたりはみずみずしい緑に輝いていて、その心地よさにうっとりとするパールです。

表紙も見返しも、そして全編を通してパステルの色とりどりの花が咲き乱れています。春の喜びを爆発的に具現したような花々は、物珍しい題名をしのぐ、この作品の特別な個性だと感じられます。主人公の足取りが弾むのも納得です。「ものいうほね」との遭遇も、抜け目のないキツネとの出会いも、まぶしいばかりに明るく健全な森が舞台のせいか、芝居じみたのどかさが漂い、切迫感はあまりありません。

表情豊かな登場人物たちも特徴的です。下校時にパールが観察する働く大人たちは、ちょっとニヒルな清掃員のヤギ、真剣な顔つきでパンを焼く犬など、なるほど、言われてみれば、それぞれの職業に似つかわしい動物たちです。当たり前に仕事に勤しむ彼らの姿は、この物語の社会そのものを描いています。だから、幼い読者も冒頭から無理なくお話に入っていけるでしょう。

主人公パールのクルクル変わる表情にも注目です。冒頭の夢見るような瞳から、驚いて目を見張り、思案し……後半、キツネに捉えられてからは、恐怖や怯え、諦念と、白い丸のなかの点でしかない瞳が、おもしろいほど贅沢に変化します。対するキツネも、邪(よこしま)な顔つきだけに留まりません。企んでいることがそのまま表情に出てしまうさまは、アニメーションのようで、ガチガチと前歯をむき出しに鳴らしながら凄んだり、そうかと思えば真面目な顔で思いを巡らしたりもします。私は、お話の終盤で、しゃがみ込むキツネの情けない表情がなんとも言えず好きです。どうかおたっしゃで!とでも声をかけたくなります。単純に描かれているようでいて、顔つきや仕草が状況を瞬間的に捉えた楽しい絵です。

ゆったりのんびりしていた冒頭部とは一転、後半では予想できない珍妙(?)な展開がたたみかけるように続きます。「ものいうほね」なんて、聞いただけでも得体がしれないのに、その結末の付け方にはちょっと唖然として……でも、幼い読者たちは、うれしそうに何度も本を開くのです。

 

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

 

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