出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。
今月のテーマは【あめとあめ】です。
区別のしかた
『あめ Rain or Candy?』より
二宮由紀子・高畠純の絵本『あめ Rain or Candy?』のとびらには、クマと2ひきのブタが向き合って立って、それぞれ上のほうを見ている。クマはコウモリがさをもっているが、ブタたちは手ぶらだ。
とびらのつぎの最初の見開き。左ページで、クマがかさを開く。――「ややっ、あめが ふってきたぞ!」右ページは「ややっ、あめが ふってきたぞ!」――ブタたちが見上げる空からは、たくさんのキャンディーがふってくる。棒つきもあれば、包装紙につつまれたのもある。ブタの1ぴきは茫然として、もう1ぴきは、もういくつもキャンディーを手にとって、よろこんでいる。
つぎの見開き。左ページでは、かさをさしたクマが大きな建物の前に立っている。――「りっぱな ようかんだなぁ!」右ページでは、ブタたちがテーブルの上の和菓子を見ている。――「りっぱな ようかんだなぁ!」
これは、同音異義語の絵本らしい。日本語は、小学校の教室に貼られている五十音図の範囲程度のかぎられた数の音の組み合わせで、ことばがつくられているから、どうしても同音異義語が多くなる。同じ音のことばを区別する手立ては、いくつかある。
一つは、アクセントのちがいによって、別のことばだと知らせることだ。二つの「ややっ、あめがふってきたぞ!」も、二つの「りっぱな ようかんだなぁ!」も、一つ一つの絵に描かれているようすを見て、声に出して読めば、ちがいは明らかだ。
漢字で書くことによっても区別がつく。「雨」と「飴」、「洋館」と「羊羹」というふうに。
この絵本では、同音異義語をふくむ文に英語をそえることで区別している。”Oh,it’s raining!” ”What? Candies are falling!” “What a wonderful ‘western-style house’!” “What big azuki bean Jellies!”となっている。
緑色のもの
同じ「あめ」という音でも、「雨」と「飴」は、全然ちがう。逆に、ちがう音なのに、似ているものがある。たかどの ほうこ・太田大八の絵本『みどりいろのたね』も、「飴」の話なのだが。
「まあちゃんたちの クラスでは、みんな そろって はたけに たねを まくことになりました。」――これが話のはじまりだ。まず、畑の土をたがやしたあと、先生がみんなに緑色の種を5個ずつくばる。まあちゃんの番だ。
「あれっ、まあちゃん!」
「その、ふくらんだ ほっぺ なんだか あやしいなあ」
まあちゃんの くちのなかで おとがします。
コロ、カラッ、コロ······
「だしなさい!」
まあちゃんが口から右の手のひらに出したのは飴だまで、先生は、左の手のひらに種をのせてくれる。みんなも、まあちゃんも、種を土にうめる。――「いつつの たねと、それから、うっかり みどりいろの あめだままで。」音はちがっても、「飴」と「種」は似ている。飴だまはメロンあめで、種は緑色のえんどうまめだった。
ふってくる音
おーなり由子・はた こうしろうの『どしゃぶり』は、「雨」の絵本だ。
絵本のとびらで、家の茶色いドアが開いて、男の子が顔を出す。
最初の見開きは「あっついなあ!/じめんが あつあつ!/あっつ あつ!」――外に出た男の子は、つま先立ちで歩く。地面が熱い。これは、夏の絵本だ。
つぎの見開きで、男の子が振り返って見上げると、「あれ? くも。/まっくろの くも。/こっちに くる!」
三番めの見開きでは、もう、ふってきた。――「ぼつっ! ぼつっ! ぼつっ!/あめだ!/ぼつっ ぴたん ぼつ ぼつっ!/おおきい あめ!」これは、擬音語の絵本だ。男の子が黄色いかさを開けば……。
ばら ばら ばらっ ばら ばらっ
ばらっ
ぼつんっ
ぼつん ばらっ
とん ととん ぼつんっ
ばら ばら ばらっ
かさの たいこだあ!
今月ご紹介した本
『あめ Rain or Candy?』 
作・二宮由紀子、絵・高畠純
理論社、2023年
左ページのクマと、右ページのブタたちは、同じことばで表される別の状況を生きつづける。でも、最後の最後は左ページだけになって、クマもブタたちも、いっしょに描かれる。そのページの日本語と英語は、「さいこうだね Amazing!」だ。
『みどりいろのたね』 
たかどの ほうこ作、太田大八絵
福音館書店、1988年
飴だまと種たちは、暗い土のなかで、けんかをはじめる。種のひとりが「けっ、つまんないやつ!」というと、飴だまがいい返す。――「つまる やつか つまらん やつか いちど ぼくを なめてみるが いい!」なまけものの、まあちゃんが、ちっとも水をやらないものだから、のどがかわいて、おなかもすいている種たちは、とうとうメロンあめをなめてみる。――「おいしいっ!」やがて、ふしぎなことが起こる。
『どしゃぶり』 
おーなり由子 ぶん、はた こうしろう え
講談社、2018年
雨は、ひどいどしゃぶりになる。――「そらから じめんから いろんな おとが する。いっぱい おとが ある。あめが うたってるんだ!/ぼくのところに あめのこえが ふってくる。」
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。
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