子どものやる気を引き出す「傾聴」のしかた

お子さんとのコミュニケーションにおいて、「話を聞いているつもりが、先に口を出してしまった」「十分に子どもの思いを汲み取ることができていなかった」という経験はありませんか? 「聴く」ことによって子どもの感情を受け止めることは、子どものやる気を高めると、長年、傾聴について研究と実践に取り組んでこられた松本文男先生はおっしゃいます。その松本先生に、子どもが「聴いてもらえた!」と実感し、前向きになる傾聴のしかたをうかがいました。(取材・文 浅田夕香)

※本記事は、2021年11月25日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

子どもの話を「聴く」ことは、なぜ重要なのか?

――松本先生は、傾聴について研究され、その重要性を説かれています。傾聴について、まずは「聞く」と「聴く」の違いから教えていただけますか?

相手の話を耳に入れる行為には、「聞く」と「聴く」の2種類があります。「聞く」は、相手の声が音として耳に入っている状態、「聴く」はもっと話の内容に注意を傾けて聴いている状態を指します。たとえば、話は聞いているものの「なんとなく耳にしている」「ほかの作業をしながら『ながら聞き』している」などは「聞く」にあたり、相手の話に集中し、しっかりと頭に入れようとしている状態が「聴く」にあたります。

人が「話をきいてもらった」と感じられるのは、話している相手がこの「聴く」の姿勢を示してくれたときです。この瞬間、私たちは「自分の話したいことを話せた」という満足を感じます。そして、相手が「この人は、自分の今の気持ちを、少しの誤解や思い違いもなく、わかってくれている」と感じられる聴き方が傾聴です。

――「傾聴」には、黙って聴くというイメージがありますが、実際はどのように聴くことなのでしょうか?

傾聴は、ひとことで言うならば「相手の感情をそっくりそのまま受け止める」ということだと私は考えています。単なる会話のテクニックでも、ただの話し相手や聞き役になることでもありません。相手が「十分に話を伝えられた」という満足感を得られる聴き方となることが一番重要なポイントです。

たとえば、相槌は打つものの実は聞き流している、子どもの話を先回りして乗っ取ってしまう、いつの間にか相槌がお説教に変わる、などはすべて聞いたつもりでいるだけの「つもり聞き」で、子どもは「聴いてもらった」という満足感を得ることができません。聴く側の考えや意見、判断などはひとまず頭から追い出し、まっさらな状態で相手の話を本気で、真剣に、一生懸命、すべて信じる気持ちで聴き、相手の気持ちをなるべく正確に感じ取り、言葉にして返すのが傾聴です。

――先生は、ご著書の中で「保護者の傾聴によって、子どもはやる気を育んでいく」と述べていらっしゃいました。なぜ、傾聴によってやる気が育まれるのでしょうか?傾聴の効果について、科学的に教えていただけますか。

人は本来、自分で考え、自らをよい方向に導いていく力を持っています。「もっとよくなりたい」「もっと成長したい」と思う自己実現欲求が、一人ひとりの中にあるからです。

 

子どもも同じで、勉強、習いごと、ゲーム、スポーツなど何でも、もっと上達したいという気持ちを本来持っています。

けれど、そうした自然の欲求は、生きていくための十分な活力がないと生まれません。ストレスフルな生活を送っていたり、「悲しい」「不安」「苦しい」といったネガティブな感情を抱いていたりすると、脳が萎縮してフル回転できない状態になってしまいます。子どもたちも、学校生活や友達づきあいの中でさまざまなストレスを抱えています。子どもの脳がこうした状態のとき、「やる気を出しなさい」「もっと○○しなさい」と親に強いられれば、その言葉がストレッサーとなり、ますますその子のメンタルエナジーは枯れていきます。家庭はそんな子どもたちが安心してくつろぎ、明日に向かうエネルギーを養う場です。
そこで親による「傾聴」は大きな手助けとなります。学校や社会でなされている「評価」や「指導」といったことを抜きにして、保護者が傾聴によって子どもの話を受け止めることで、子どもは、「自分の気持ちを十分にわかってもらえた」「自分と同じ気持ちになってもらえた」と感じます。それは、「自分は保護者から愛されている存在だ」と実感する体験であり、その体験によってメンタルエナジーが補充されることで、自分への自信や誇りが湧いてきて、目の前の課題に前向きに向き合えたり、未知の体験に興味を持って取り組んだり、トラブルに見舞われても乗り越えられたりする強い心を持てるようになります。

傾聴は、脳の中心であり感情と密接につながる前頭連合野や大脳辺縁系を活性化することがわかっています。その結果、人格の変化「パーソナルチェンジ」も促すことがあります。人間は他の生物と比べて可塑性が高い、つまり環境変化によって自分を変える学習能力がとても高い生き物です。寂しさや切なさ、嫉妬、怒り、不安、焦燥などの気持ちを傾聴によってしっかりと受け止めてもらえると、感情やものの見方がガラリと変化するのです。たとえば、引っ込み思案の子がみんなの前で話せるようになる、乱暴だった子が小さい子に優しくなるなどの例は多くあります。

 

子どものやる気を引き出す「傾聴」のポイント

――どのような聴き方が傾聴といえるのか、具体的に教えていただけますか。

2つの基本的な聴き方をお伝えします。

1つめは、「〜してほしい」「〜してほしくない」という気持ちをひとまず全部棚上げして、先入観も願望もなるべく持たず、こだわりのない状態で話を聴くこと。そうして心を透明にした状態で「この子はいったいどんな気持ちなのか?」となるべく正確に感じ取ろうとしてみましょう。

2つめは、話から読み取れる感情を言葉にして返すこと。ただ聴いて心の中で納得しているだけでは、「受け止めた」ことにはなりません。また、子どもが言った言葉をオウム返しにしても、子どもは「感情をわかってくれた」とは感じません。相手の言葉から読み取れる感情を、言葉にして返す。それが、傾聴の「受け止める」ということです。とくに、悲しみや不安などのネガティブな気持ちを傾聴で受け止めようとするときは、相手が感じているであろう感情を想像し、それを理解し寄り添うような言葉を返します。そのために必要なのが、共感的理解、すなわち、「相手と同じ感情になる」ことです。

ここで、共感的理解に基づく、子どもが「わかってもらえた」と実感できる聴き方と、そうでない聴き方の例を紹介しましょう。

 

子:「今日、ショウくんが、僕なんかリレーの練習をしても選手になれるわけないって」

保護者(以下「保」):「ショウくんが?」

子:「上から目線で笑ってさ、すっげーむかついたんだ」

保:「つまりバカにされたってことだね」

子:「……うん」

 

子:「今日、ショウくんが、僕なんかリレーの練習をしても選手になれるわけないって」

保:「ショウくんが?」

子:「上から目線で笑ってさ、すっげーむかついたんだ」

保:「そうか、バカにされたような気がしたんだね」

子:「うん。バカにされたって感じがした……」

保:「それは悔しいね。お友達にそんなふうにされたら腹が立つね」

子:「そうなんだ」

 

前者は、客観的な視点での事実確認ですが、後者は、その子の怒りや悲しみ、恐怖、不安などの思いを、あたかも自分自身のものであるかのように自分の心にそっくりそのまま移す感じ取り方をして言葉を返しています。それにより、子どもは「わかってもらえた」と感じることができるのです。

 

 

――「共感的理解をする」ことも、「話から読み取れる感情を言葉にして返す」のも、なかなか難しいことのように感じます。何かポイントはありますか?

大きく3つあります。

1つめは、事実の確認にこだわらないことです。具体的にどんなことが起こったのか、誰と何があったのかといった事実は親にとって気になりますが、話の途中でいちいち前後関係を問いただしたりしていると、肝心の感情の部分を受け止め損ねてしまうことがままあります。話から読み取れる感情を言葉にして返すことに集中しましょう。

2つめは、うまく感情を言葉にできないときは、肯定をあらわすうなずきや短い相槌を返すだけでも構わないということです。たとえば、「うん、うん」「そんな気持ちなんだ」といった相槌でも、真剣に聴きながら返すのであれば、十分に役割を果たしますし、続けていくうちに、少しずつ子どもの気持ちを言葉で表現してあげられるようになるでしょう。

気持ちを受け止めて言葉を返したつもりでも、捉え方がズレていて「そうじゃないよ、わかってないなあ」と返されることもあるかもしれません。けれど、それでもいいのです。「ごめんね、わからなくて。本当の気持ちをもっと教えてくれる?」と真剣に聴き続けることが一番重要です。

3つめは、「〜すべき」といった正論や道徳、一般常識を持ち出さないこと、特に、保護者の価値観や成功体験を押し付けないことです。これらを聞かされると、子どもは自分の感情に理屈で応じられていると感じて「言いたいことをわかってもらえていない」という思いを抱きます。感性には感性で応じる。そして、その感性が相手のそれといささかのズレもないように心がけることが大切です。

 

こんなときはどうすれば? ケース別、子どもの心を満たす傾聴のしかた

ケーススタディとして、子どもの様子に応じた傾聴のしかたを4例、松本先生にご教授いただきました。

 

親の傾聴する姿勢は子どもにも受け継がれる

――子どもに対する傾聴はいつまで続ければいいのでしょうか。

ひとことで言うなら、親子間の傾聴に、終わりというのはありません。子どもはいくつになっても、独立して遠くに離れても、親に自分の話を聴いてほしいものです。

ただ、親が子どもの傾聴をしっかり行えていると、いずれその立場は自然に逆転する時期がやってきます。親の世代がリタイアの時期を迎える頃、60~70代になると、孤独感を感じることがしばしば出てきます。

すると、親のやるせなさ、切なさを、今度は子が受け止める場面が出てくるでしょう。そんなとき、傾聴で自分をしっかりと受け止めてもらえた経験のある子は、必ず他者への傾聴もできるようになります。

親が辛いとき、子どもに話して傾聴してもらう。子もまた日常の中で、傷ついたり疲れたりすることがあれば、親に傾聴してもらうこともある。互いに甘え合い、分かち合える、そんな親子になっていけるのです。それは、生涯かけて熟成されていく、尊い人間関係だと言えるでしょう。

――ありがとうございました。

 

 

松本文男(まつもと・ふみお)


長野県佐久市出身。NPO法人日本精神療法学会理事長。NHK文化センター専任講師(松本・前橋・川越・名古屋・西宮・京都・東京)。1947年京都大学(理学部・実験心理学) 卒業。1953年東京大学大学院博士課程 (医学部・大脳生理学)修了。シカゴ大学大学院博士課程(カール・ロジャーズ研究室)修了。1983年より長野大学教授並びに郵政省専任カウンセラーを20年務める。2013年カウンセラーとしての功績により瑞宝小綬章を受章し、瑞宝章受章者の代表として皇居にて天皇陛下に謝辞を奏上する。主な著書に、『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房)、『悩む十代心の病』(東京法令出版)ほか多数。

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