『くんちゃんのもりのキャンプ』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

 

ドロシー・マリノ作/間崎ルリ子訳/ペンギン社

「くんちゃん」が今回体験するのはキャンプ。庭のブランコで遊んでいたくんちゃんを、リュックを背負ったアレックが訪ねてきました。表紙裏の見開きには、木々の間から歩いてくるアレックと、それに気づいた庭仕事中のおとうさん、おかあさん、そしてブランコに腰掛けたまま一直線にアレックを見つめるくんちゃんが描かれます。くんちゃん一家の暮らしぶりがわかる、見逃せないプロローグです。

キャンプに出かけていいかをくんちゃんが尋ねると、「ああ、いいよ。」「いいですよ。」と、おとうさん、おかあさんは応えます。そして、リュックの用意をしてくれた後、大きく手を振ってくんちゃんを送り出しました。くんちゃんがキャンプを終えて、無事帰宅した時も、両親はあたたかくおおらかに、くんちゃんを迎えます。子どもをただ甘やかすのではなく、ひとりの人間としての信頼と愛情を持って育む大人の態度が、このシリーズでは共通して語られているのです。
さて、森に入ったくんちゃんは、次々と出会う鳥たちに泳ぎ方や魚の捕り方を教えてもらいます。そして、さっそく、キャンプで試してみるのですが……。

「くんちゃん」の絵本は、全編を通して、黒の線画と、もう1色で描かれています。シリーズ1作目の「くんちゃんのだいりょこう」はブルー、「くんちゃんのはじめてのがっこう」は明るい黄土色でした。もりのキャンプは、みずみずしい緑色です。黒の輪郭線のタッチは柔らかで、好奇心にあふれたくんちゃんの表情を生き生きと描いています。健やかで愛らしい子どもの姿です。背景となる森や湖は、一見すると無造作に緑で塗られたように感じられますが、微妙な濃淡や構図で、その拡がりと静謐な美しさを表出しています。素朴で地味な絵かもしれません。でも、ほのぼのと展開する物語の魅力を、この屈託のない明るい絵が更に深めています。

「くんちゃん」の物語に触れると、自信を持って生きなさい、という幼い人への作者からのメッセージを感じます。決して失敗を恐れないで、と。

 

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

 

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