前回(【第2回:日本のSTEAMは?】)では、アメリカではSTEM教育が国家戦略とまでなったことを紹介しました。そんなSTEMがなぜ、STEAMになったのでしょうか。
※本記事は、2021年1月27日に「Z会 STEAM・プログラミング教育情報サイト」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
ヤックマンのSTEAM マエダのSTEAM
「STEAM」という言葉を最初に使ったのは、当時バージニア工科大学の大学院生だったジョーゼット・ヤックマンであるとも、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインという美術大学のジョン・マエダであるとも言われています。どちらが先なのかは、ここでは問題ではありません。この両名の主張がどのように違うのかを見ていきましょう。
ヤックマンは2008年に「科学やテクノロジーは工学と一般教養を通して解釈され、これらはすべて数学を基礎とする」としてSTEAMの概念を提唱しました。「一般教養」とは英語で「リベラル・アーツ」。この「アーツ(Arts)」の頭文字をSTEMに加えてSTEAMです。
一方のマエダは、「STEMからSTEAMへ」という教育プログラムを主導しています。こちらは美術学校であることから、Aは芸術のArt。芸術とデザインの観点も必要である、との主張です。マエダは「直感(Intuition)」「デザイン(Design)」「感情(motion)」「アート(Art)」の頭文字からなるIDEA(もちろん、アイディアの意味も込められています)という概念も提唱しています。STEAMのAは単なるArtの意味ではなく、ほんとうはIDEAのすべてを指しているのかもしれません。
あら、困った。「STEAM」というときに、Aに当たるものが「一般教養」なのか「芸術」なのか。それによって、イメージするものは異なるはずです。もともとのSTEMでさえ、言う人によっても聞く人によっても違うイメージを持たれかねない言葉でした。それが、STEAMになって、さらに曖昧な言葉になってしまっています。
話がだんだん複雑になってきました。ここでは、次の2点をおさえておいてください。
- STEAMの「A」は、Arts(一般教養)とする流儀と、Arts(芸術)とする流儀がある
- STEM以上にあいまいな言葉である
そもそも
「STEMじゃなくてSTEAMだよね」という思いは、おそらく多くの人に共通してあるのでしょうが、STEAMの正体がわからないことには先に進めません。こんなときには立ち止まって、「なんでそもそもSTEAMなんだっけ?」に立ち返ってみましょう。
ヤックマンは「統合型教育のモデル構築についての概観」という論文で次のように述べています。
STEAMは、従来からある教科をどのようにフレームワーク化し、統合的なカリキュラムを計画することができるかという発展的な教育モデルである。
Yakman, Georgette (2008) “STEAM Education: an overview of creating a model of integrative education”
Available at: https://www.academia.edu/8113795
マエダは『STEM + Art = STEAM』という文章で次のように述べています。
STEMはそれ単独では、この時代が要求する驚くような変革を起こすことはないだろう。(中略)
問題解決、物怖じせずに取り組む姿勢、そして大学の至るところで毎日見られるなにかを作り出すスキルや批判的な思考は、私たちの国を革新的であり続けさせているスキルと同等のものなのである。
Maeda, John (2013) “STEM + Art = STEAM,” The STEAM Journal: Vol. 1: Iss. 1, Article 34. DOI: 10.5642/steam.201301.34
Available at: https://scholarship.claremont.edu/steam/vol1/iss1/34
ちょっとむずかしい言葉が並びましたが、若干方向性の違いが見えたような気がします。ヤックマンは「どのように教えていくのか」に着目し、マエダは「世の中を良くするためには何が必要なのか」に着目しているようです。もちろん、究極的な目的は同じところにあるのでしょう。「技術革新を続けられるような人材を教育すること」にほかなりません。いずれにしても「STEM」では足りず、教える際にはArtsが、革新的な世の中を作り出すためにはArtが必要であると捉えると、多少整理されるでしょうか。
……ですが、それでもなお、「……で?」という思いが残るでしょう。いえ、それは当然です。ここまでの議論は、教える側の理屈です。STEAM教育を受ける側はどう考えておけばよいのでしょうか。
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