小学校でのプログラミング教育が必修化されるなど、「プログラミング」への注目が集まっています。学校教育におけるプログラミング教育の全貌が見えてきたいま、改めて、なぜプログラミング教育が必要なのかについてご紹介します。
※本記事は、2021年10月27日に「Z会 STEAM・プログラミング教育情報サイト」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
「プログラミング」は重要……でも……
世の中は「プログラミング」のおかげで動いている
ちょっと振り返ってみてください。
朝起きてから今まで、「プログラミング」に関係するものにどれだけ触れたでしょうか。
朝5時半。スマートフォンのアラームで目が覚めました。パジャマから着替えてキッチンにやってきます。冷蔵庫の中にある麦茶を飲み、朝食の準備にかかりました。最近の電子レンジは便利です。ちょっとした調理ならば電子レンジがしてくれるのですから。スマートスピーカーに呼びかけます。「テレビをつけて」。ニュースが流れています。
「今日の天気は……」。
朝食を食べて、スマホの時計を見ます。そろそろ出かけないと。そうだ、帰ってきたときに快適な温度になっているよう、エアコンのタイマーをセットして家を出よう……。
ごくごく普通の朝の風景です。ここで登場した電子機器にはどれもコンピュータが搭載されており、内部ではメーカーの技術者がプログラミングしたプログラムが動いているのです。このようにわたしたちは、「プログラミング」に囲まれて生活しているのです。
高度ICT人材の不足
わが日本は技術立国と呼ばれていました。日本製の電化製品は世界中を席巻し、外国に出かければ、至るところで日本製の電化製品を見ることができる。街を歩けば日本の家電メーカーの看板があり、家電量販店では日本製が一番目立つところに置かれている――。
そのような光景が見られたのは、今から数十年前の話。今では中国や韓国のメーカーが、大きく台頭しています。
「品質ではなく価格で勝負するとそうなるのだ。」
このような声もあり、一面では事実でもあるのですが、今や、海外メーカーの製品が品質面で劣っているわけではないという声もあります。
総務省の「高度ICT人材育成に関する研究会」が平成20年に発表した「高度ICT人材育成に関する研究会報告書」にはこのような記載があります。
各国ではICT分野の国際競争力強化に力を入れており……(中略)……ICT産業の急速な発展を成し遂げている。他方、我が国ICT分野においては、グローバルに市場を先導する欧米ICT企業や台頭するインド等から厳しい競争圧力を受け……(中略)……いわゆる高度ICT人材の不足が顕著となっている。
10年以上前の報告にも関わらず、大きく状況は変化していません。あるいは改善しているのかもしれませんが、それ以上に変化が激しく、根本的な解決には至っていないのかもしれません。
独立行政法人情報処理推進機構の調査でも、8割以上の企業が「IT人材の量・質ともに不足している」と答えています。驚くべきことに、IT企業でさえ、IT人材の不足を感じているのです。
こんにちの日本では、「ICT技術が大切である」ことは理解されており、実際にICTの恩恵にあずかっていながらも、ICTを支えるための人材が大幅に不足しているのが現状です。
そもそも「高度ICT人材」って何だ?
ところで、です。
そもそも「高度ICT人材」って、何なのでしょう。そのような人材が必要なのは間違いないにしても、だからといって、公教育に「プログラミング」を入れる必要があるのでしょうか。
高度ICT人材とは
総務省の報告書では、「ITアーキテクトやプロジェクトマネジャ、ICT利用企業等において新たな付加価値を創造することが期待されるCIO等」を「いわゆる高度ICT人材」と呼んでいます。
ITアーキテクトとは、技術と知識をもとに、ビジネスに必要なシステム全体の提案と保守運用を行うことができる人。プロジェクトマネージャーは、システム開発などの現場の全体統括を行うことができる人。CIOはICT技術の観点から経営に参加する役員のことです。
これらの人材に必要なのは、ICT技術だけではありません。技術力があることは大前提で、かつ、そうした知識をもとにマネジメント――判断であったり、指示であったり、企画であったり、説明であったり――ができる人が求められているのです。
「ICT技術」が「会計」だったら
高度ICT人材というと新しい考え方のようにも思えますが、前提となるものが「ICT技術」ではなく「会計」だったら、と考えてみてください。
どのような職業を選択しようとも、最低限の会計の知識は必要でしょう。会社で役職につけば、程度の差はあれども「お金」を管理することになります。
一方、経理部のような部署では会計の専門的な知識が必要になります。「財務担当役員」を置いている会社も少なくないことでしょう。会社の外には、会計士や税理士といった専門家もいます。
それほどに重要な会計の知識は、学校教育の中でも少しずつ教えられています。
算数や数学の題材にもなりますし、社会科でも公民分野などでお金について扱っています。中学・高校の家庭科でもお金についての教育を行っています。課外授業で銀行や証券会社の人の話を聞く機会を設けている学校もあります。
学校だけで十分ではありません。とくに専門的な知識を身につけようと思えば、学校外でも勉強をしたり、大学で経済学部や経営学部、商学部といった学部学科を選ぶことになるでしょう。
「誰もが会計のプロになるわけではないのだから、小学校段階からの教育は不要だ」とは誰も言いません。仕事で必要なだけではなく、わたしたちの日常生活にも欠かせないものであることは間違いないことだからです。
プログラミングを含めた情報教育は、これまでの「お金」にまつわる教育と同様、これからの社会に必要なものなのです。もはや、メリットだとか「やったほうがよいか」などと言っている場合ではありません。必要なものなのです。
プログラミング教育で身につける・身につく能力
それでは、プログラミングを含めた情報教育で身につける・身につく能力とはどのようなものがあるのでしょうか。どのようなものが、これからの時代に必要だとされているのでしょうか。
論理的思考力? 問題を解決する力? 創造力?
「プログラミング教育」では、論理的思考力だとか、問題を解決する力だとか、創造力だとか、そのような力が身につくということが言われます。それはそれで間違いではないのですが、ここだけに注目していると本質を見誤ります。
確かに、プログラムを作成する際には、一定の論理のもとでプログラムを書いていく必要があります。一見難しそうな問題でも、どのように取り組めば解決できるのかを考える必要があります。新たなものを作るには、創造力も必要です。しかしこういった能力は、これまでの数学や国語でも身につくはずのものです。プログラミングの専売特許ではありません。
ただ、プログラミングに取り組むことで、一緒にこうした力も身につけることができるのはメリットと言えるでしょう。
情報機器を使いこなす力
これまでの議論で意外と見過ごされているのが「情報機器を使いこなす力」です。
「急にインターネットにつながらなくなってしまった」「印刷しようとしてもなぜかうまくいかない」といったトラブルにどれだけ対応できるでしょうか。
情報機器に囲まれて生活しているのですから、例えば電球の交換ができるのと同じような感覚で、こうしたトラブルに対応できるのは必要なことと言えるでしょう。
プログラミングそのものの成果というよりは、プログラミングをとおして「しくみ」を知る中で、情報機器のトラブルにも対応できる力、情報機器を使いこなす力を身につけることが期待されます。
プログラミングの力
当然のことながら、プログラミングの力は、プログラミングを通してしか高めることはできません。プログラミングの力を身につけることで、可能性が広がります。プログラミングという手段を選択肢に入れることができるようになります。
例えば、車の免許をイメージしてみるといいかもしれません。大都市圏であれば車の運転ができなくても不便はしないでしょう。しかし車の運転ができることで、行動範囲が広がります。旅行先で車を運転できれば、公共交通機関の便が悪いところにも行けるでしょう。営業や拠点間の移動など、業務で車を運転することがあるかもしれません。二種免許や大型免許を追加して取ることで、車の運転を職業にすることもできます。運転免許があることで、「車」という手段での移動を選択肢に入れられるようになるのです。
プログラミングも同様です。それ自体を目的にすることもできますし、なにかを実現するための手段としての選択肢にすることもできるのです。
冒頭で述べたように、私たちの生活はプログラミングにあふれています。この先も、商品開発に生かすなど生活の質の向上に貢献したり、社会の課題解決のためにプログラミングの知識を生かしたり、受け身ではなく「生み出す側」に立てる人材になるために必要な力、それがプログラミングの力とも言えるでしょう。
まとめ
- わたしたちは「プログラミング」に囲まれて生活している
- わたしたちの暮らしに欠かせない「お金」の教育はすでに学校に入っている。同じくわたしたちの暮らしに欠かせない「プログラミング」が学校教育に入ってくるのは自然なこと
- プロになるための教育ではない。必要な力の最低限を身につけることが目的
- 身につく力は「プログラミング」
- 選択肢を広げるためにもプログラミングを!
(「なぜプログラミング教育は必要? プログラミング教育のインパクトを解説」終わり)
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