海へむかう俳句、海の詩集

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【海へむかう俳句、海の詩集】です。

 

『マメクジラくん、海へいく』中面画像
『マメクジラくん、海へいく』より

 
「あれはね、俳句(はいく)なの。えーと、『蛞蝓(なめくじ)自分史一途明(じぶんしいちずあ)(やす)き』っていうのよ」
「どういう意味(いみ)?」
(なつ)(あさ)はやく、ナメクジは、自分(じぶん)の生きてきたしるしを、銀色(ぎんいろ)(みち)にのこしながら、いっしょうけんめいすすんでいく、っていうの」

 

「でもねえ、このあたりに たんぼなんて、ないわよ」
「いいんだ、いいんだ。はいくは かならずしも みたままを つくる ひつようは ないんだ。こころのなかで うかんだ じょうけいを よめば いいのさ」

 

ひとはみな
心のなかに
海をひとつ もっている
その ()いみどりの海のうえに
ときどき ちいさな魚がはねて
ときどき ちいさなしぶきがたつ
ひとの心のなかに
いつ 海はうまれたか

 


 

『マメクジラくん、海へいく』書影

『マメクジラくん、海へいく』
山下明生 文、村上康成 絵 
偕成社、2024年 
海をめざすマメクジラくんは、銀色のすじを引きながら、ゆっくり進む。やがて、運よく、アオガエルの笹舟にのせてもらう。アオガエルは、「『井の中のカエル大海を知らず』ってばかにされないように、海を知るのはたいせつなんだ。カエルにも、ナメクジにも、ダンゴムシにも、な」という。さて、マメクジラくんは、おじいさんに出会えただろうか。

 

『2年2組はいく先生 松井ばしょうくん』書影

『2年2組はいく先生 松井ばしょうくん』
那須正幹 作、はたこうしろう 絵 
ポプラ社、2003年 
ばしょうくんは、手帳につぎつぎ俳句を書く。「わるい子も すこしはいるが まあいいか」――これは、新学期の学校を詠んだ句の一つ。季語がないから、おとうさんが直してくれた。――「わるい子も よい子もいっしょに 入学式」
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

 

『ともだちは海のにおい』書影

『ともだちは海のにおい』
工藤直子、長新太/絵 
理論社、2004年 
海で出会ったイルカとクジラを描いた詩は青いページに、お話は白いページに印刷されている。お話といったが、むしろ、散文詩で、この1冊は、まるまる詩集だ。1984年の初版の新装版。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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