出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。
今月のテーマは【働くおじいさんたち】です。
クリスマスのサンタクロース
『はじめてのクリスマス』より
マック・バーネットとシドニー・スミスの絵本『はじめてのクリスマス』のとびらには、雪の町の空をトナカイの引くそりで行くサンタクロースが描かれている。最初の見開きでは、もう、そりを降りたサンタクロースが家の前までたどり着いた。「むかし むかし。サンタのクリスマスは さびしいものでした。」――物語は、こう語り出される。
家のドアを開けるように、ページをめくると、そこは、サンタクロースの家のなかだ。
サンタは ほっきょくで、いちねんじゅう おもちゃを つくっています。
クリスマスイブには そのおもちゃを そりにのせて、せかいじゅうの こどもたちに くばってまわります。
ぜんぶ くばりおわると、サンタは いえにかえって ねむります。
そして クリスマスのあさ、めをさますと すぐにまた、おもちゃづくりを はじめます。
それだけです。
「え、それだけ?」「なにか とくべつなことは しないの?」――北極のほらあなに住むシロクマがたまたま通りかかって、サンタクロースの家の窓から、ベッドで眠るサンタをのぞきこんだのだ。サンタクロースの手伝いをする、三角のぼうしをかぶった妖精たち=エルフもそこにいて、「いつもより ねぼうするよ」「……30ぷんだけ、だけど」とこたえる。
シロクマが重ねていう。――「ぼくだって ねるのは だいすきさ。でも、それだけ? クリスマスなのに?」はずかしくなったエルフたちは、相談していう。――「サンタさんのために、なにか とくべつで すてきなことを やらなくちゃ!」
調律師の孫むすめ
世界中の子どもたちにおもちゃを配るサンタクロースは、ひたすら働く人だった。M・B・ゴフスタイン『ピアノ調律師』も、一生懸命に働くおじいさんの話である。おじいさんの名前は、ルーベン・ワインストック、ピアノ調律師だ。
ある朝、ルーベンが町のコンサートホールに到着すると、もう、ピアニストが来ていた。予定されていたピアニストのかわりに急にやってきたアイザック・リップマンだった。
「あなたが! なんてすばらしいんだろう。あなたがこの町で演奏するなんて。わたしたちは久しぶりに本物の音楽が聴けるんですね」
「そう。そして、わたしは本当に久しぶりに、完ぺきに調律されたピアノを弾くことができるんだよ」偉大なピアニストは言いました。
ルーベンは、完璧な調律師なのだ。ピアニストは、「世界一のピアノ調律師」ともいう。
ルーベンといっしょに暮らしているのが孫むすめのデビーだ。2年前に息子夫婦が亡くなり、小さなデビーを引きとった。ルーベンにピアノの調律をたのんでいる町の奥さんたちは、めんどうを見られるのかと心配した。ルーベンは、男やもめなのだ。しかし、彼はいった。――「わたしは音楽を知っています。(中略)だから、あの子にピアノを教えることができると思うのです。もしかしたら、あの子は将来本物の演奏家になるかもしれない」
けれども、デビーのピアノはなかなか上達しない。彼女は、「わたしはピアノ調律師になるの」という。その日も、調律道具の入ったかばんを持って、ルーベンについてきたのだ。
音叉を鳴らして、ルーベンは、調律をはじめる。「ひとつひとつの音が最も純粋で美しくなるまで」作業をつづける。
ちょん切られた先っぽ
「もうすぐ クリスマスです。」とはじまるのは、ロバート・バリーの『おおきいツリー ちいさいツリー』、もう一つのクリスマスの絵本だ。
ウィロビーさんの おやしきにも、トラックで ツリーが とどきました。あおあおと した、みたことも ない ような おおきな ツリーです。
りっぱで、すてきなツリーだけれど、大広間の天井にツリーの先がつっかえて、弓なりになってしまう。
「やれやれ。」――ウィルビーさんが呼んだ執事のバクスターは、おのでツリーの先をばっさり切る。バクスターは、ツリーの先っぽを銀のお盆にのせて、小間使いのアデレードにプレゼントする。
「こんや、かざりつけを したら、どんなに すてきに みえるでしょう。」「でも、あの さきっぽは――。ちょっぴり、ちょんぎらなきゃ ならないんじゃ ないかしら。」――アデレードは、鼻唄を歌いながら、よく切れるはさみで、先をちょん切る。その先っぽは、くずかごに入れて、裏口に出しておいた。
今月ご紹介した本
『はじめてのクリスマス』 
マック・バーネット 文、シドニー・スミス 絵、なかがわ ちひろ 訳
偕成社、2024年
エルフたちがうながして、サンタクロースとエルフたちは、クリスマスパーティーの準備をする。ごちそうがテーブルにならぶころ、ドアがバタンと開いて、入ってきたサンタクロースが、ほんとうのサンタクロースにプレゼントをわたす。入ってきたサンタクロースはだれか。
『ピアノ調律師』 
M・B・ゴフスタイン作・絵、末盛千枝子訳
現代企画室、2012年
調律の作業中、ルーベンは、その日のパールマン夫人との調律の約束をわすれていたことに気づく。あわてて、デビーに、約束をあすに変更してほしいと頼みに行かせる。ところが、テビーは、おじいさんのかわりに、パールマンさんのピアノの調律の仕事をはじめたのだ。
『おおきいツリー ちいさいツリー』 
ロバート・バリー=さく、光吉夏弥=やく
大日本図書、2000年
裏口を通りかかった庭師のチムがかわいいツリーに気がついて、おかみさんに持って帰る。
さてさて、この話は、どうなるのだろう。
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。
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