執筆者:鈴木亮介(Z会進学教室 調布教室長/国語科)
記事更新日:2023年01月27日
【インタビュー企画】教えて!校長先生 ~⑧ 都立新宿高校~
Z会の教室による小学6年生の学びを助けるフリーマガジン「親子で始める、中学準備」が、皆さんの憧れる人気校の校長先生にお話を聞くインタビューシリーズ「教えて!校長先生」。連載第八弾は東京・新宿区にある東京都立新宿高校。藪田憲正校長先生にお話を伺いました。
中学入学、そして高校受験に向けて頑張る皆さんに心がけてほしいことや、高校選びのポイント、新宿高校に通う生徒が心がけている「良い習慣」など、6年生の皆さんや、保護者の皆様が今知りたいことをたくさん伺いました。ぜひ最後までお読みくださいね。
〒160-0014 東京都新宿区内藤町11-4
JR線「新宿」駅:南口・東南口・甲州街道改札 徒歩4分
東京メトロ副都心線「新宿三丁目」駅 徒歩2分 など
藪田憲正校長先生は、どんな小学6年生でしたか?
都心の学校だったので皆中学受験をしていましたが、私はうまくいかず地元の公立中に進みました。
何をしていたのかと当時を振り返って一番思い出すのは、本を読んだことですね。色んな物語を読むのが好きで、「僕だったらこうだな」と読んでは空想するバーチャル主人公になっていましたね。
早く志望校を決めてほしい… 気持ちはわかるが、「待つ」ことが大切
――高校選びのポイントを教えてください。
藪田校長:その学校にほれ込んでいるかどうかだと思います。3年間通う高校は、自分にとって一生の土台を作る場所です。おいそれと「やっぱりやめた」というわけにもいきません。本当にこの学校に入って自分がそこで勉強をしたり行事を楽しんだり部活をやったり…そういう想像ができる学校を選んでほしいです。もちろん背伸びをしても良いですが、背伸びをしたときにそこで頑張り切れている自分の姿が想像できるかどうか。ただ校舎がきれいとか家から近いとかで選んでしまうのではなく、できるだけその学校に足を運んだり色んな資料を見たりして、「もし来年自分がここにいたらこの行事をやってるんだな」と想像できることが大事です。
――実際に足を運んで自分の目で見ることが大事ですね。
藪田校長:コロナ禍で学校説明会、見学会ができない状況ではありますが…。今はネットが発展してますから、いろいろな媒体にあたってそのその学校がどんな取り組みをしているのかを知るだけでも違うと思うんですね。そのときに気をつけたいのは、いわゆるSNSの口コミとかではなく、学校がどう発信しているかオフィシャルな発信をしっかりと聞いて、それを受け止めると、学校の本質に近づけると思います。
――選ぶ見当がつかないという場合にはどうすれば良いでしょうか。
藪田校長:学校に通うメリットの一つが縦横のつながりができることです。部活の先輩やお世話になっている先生に話を聞くと良いでしょう。学校案内のパンフレットなどは大人目線で選ばれた情報であることも多いですが、身近な先輩がどうやって高校を選んだのかを聞けると、自分たち目線に近い目線で比較対照ができると思います。
――高校受験は自分の進路を選び、切り拓くという初めての経験になるかと思いますが、その際保護者の方はどのような手助けをすると良いのでしょうか。
藪田校長:中学受験は本人の受験というよりも保護者の方の受験になると思います。学校選びは最終的な保護者の方でしょうし、出願の書類を整えるのも保護者の方だと思います。一方、高校受験は本人の受験、つまり試験を受けに行くのはもちろん、学校選びも全て本人がやっていく必要があります。大学受験はまさに「本人の受験」ですよね。
――確かに大学受験が「親任せ」ではだめですね。
藪田校長:高校受験のときにそれを経験せず、保護者の方が全部選んでしまったら、大学受験のときにとても困ると思います。だから、生徒自身が「私が行きたい」と言える学校が出てくるまでしっかり待ってあげて、受け止めてあげることが大事です。早く志望校を決めたいとか、早く落ち着かせたいとか…親心としてはよくわかるんですけど、通うのは子供ですから、子どもが最後に選び取る、それを待ってあげる、そういう忍耐力が必要じゃないかなと思うんです。
――生徒自身が興味を持っていなかったり、深く考えられていないと親御さんとしては焦ってしまうと思います。
藪田校長:本校の先生方にもよく話すのですが、人を育てるときには「待つ」「聴く」「受け止める」、の3つをしっかりやることが大事です。子どもに「これってどうなの?」と聞いたときに、すぐ答えが返ってこなくても、そのとき子どもが聞かれて何も考えていないなんてことは絶対ないはずです。答えを出すのに困っていたり、言いたくなかったり、頭の中はものすごく回転しています。でもそこで子どもの答えを待てないで「こうじゃないの」「ああじゃないの」と親が先回りして言ってしまうと、子どもは考えることを放棄してしまいます。だからしっかりと待つ。聞くときも、ただ耳に入ってくる言葉を聞くのではなくて、しっかりと心を傾けて、耳に目と心を足した”聴く”姿勢が大切。そして、返ってきた答えを「でもね」って言ってしまわずに受け止めよう。そうしないと、子どもは「話しても無駄だ」と判断し、話してくれなくなってしまいます。
”都立で一番忙しい”新宿高校 受験も学校行事
――様々な高校がある中で、新宿高校に入学するとどのようなことができるのでしょうか?
藪田校長:本校は”都立で一番忙しい学校”と言われているくらいに色んなことに取り組める学校です。行事も多いですし、部活も9割以上の生徒が参加し、勉強面でも課題がものすごく多いです。ほんとうに毎日毎日忙しいですが、それだけに充実感があります。全てのことに誠を尽くせるかどうかによって、楽しくやっていけるかどうかが決まります。本校は大家族主義と言って、本人だけではなく周りに保護者の方、教員、卒業生が一体となって育てていく環境です。たくさんの先輩たちがさまざまな分野で活躍しているので、そういう場で学び、卒業できることもメリットです。
――新宿高校は「進学重視型単位制高校」となっていますが、他の都立高校とはどのような違いがあるのでしょうか。
藪田校長:「単位制」ということでよくある誤解が、中学時代までと違って単位を積み重ねれば卒業できるから自分の好きな勉強だけをやれる、というものです。そうではなく、単位制はあくまで進学のための(適切なカリキュラム・授業を設置するための)手段で、本校では1、2年生は全科目必修ですし、文系・理系を2年生まで分けていません。集団行事も大変多いので、個人主義で自分の好きなものだけという高校生活を期待すると、入ってから大変なことになると思います(笑)。
――「大家族主義」という言葉を、在校生はどのような場面で実感するのでしょうか。
藪田校長: 本校は保護者会を高い頻度でおこなっているのですが、その際に「学校で今このようなことをやっています。先日の模試でこのような結果で、こう指導していますから、ご家庭ではこういう声掛けをしてください」などお話ししています。学校と同じ目線で、保護者の方と一緒にやりましょう、ということを心がけています。同窓生の方で社会の第一線で活躍する先輩のお話を聞く場面もたくさんありますし、臨海教室で年齢の近い先輩が同行して一緒に泳いでくれたり、自習室では卒業生のチューターが手厚く面倒を見てくれたり…OB・OGとの距離の近さを感じられると思います。
――先ほどのお話で仰っていた「誠を尽くす」とはどういうことですか?
藪田校長:どれに対しても真剣に臨むということです。勉強にしろ部活にしろ行事にしろ、「今度試験がこのくらいに迫っているから、行事はちょっと手を抜こう」「行事で忙しいから部活をさぼる」といった姿勢は、リーダーとしてどうかと思います。やることに対しては全力で取り組もう。一つ一つ乗り越えてこそいろいろな課題を乗り越える力が付くし、行事の配置にしろ部活動にしろ全体の中できちんと配置を考えることが大切です。自分勝手に「ここは何パーセントくらいでいい…」ではなくて、やる以上は全力で。それがないと、社会に出たときに「ここは適当にやろう」という気持ちが出てきてしまいます。うまいことやろうとせずに正しいことをやる。そうしないと必ずお天道さんは見ているし、化けの皮ははがれますよ。一生懸命やりましょう。
――新宿高校に入って忙しい生活を送ることで、マルチタスク能力も身に付くわけですよね。
藪田校長:人間だれしも楽な方に流れるのが自然です。真正面から正しいことを行うのは大変ですけど、それは一生をかけてやっていくことですし、学生時代に「うまいことやるんじゃなくて正しいこと」に挑戦しないと、後悔すると思います。そこで達成感や充実を覚えるから次にまた頑張れるわけで、それは受験も同じです。
――受験もですか?
藪田校長:本校の卒業生が言った言葉で「受験は学校行事だ」という言葉があります。一つ一つの行事を乗り越えた先に同じように大学受験があり、それを乗り越えることで新しい人生を切り拓く。自分で選んで自分で悩んで、必死に勉強して乗り越えた生徒は強いと思います。
――そんな新宿高校に入学したいという受験生は、特に小学6年生の頃にはどのような準備をすると良いでしょうか?
藪田校長:都立高校の学力検査は普段の力を出す場です。瞬発力ではなく、日常の中でしっかりと、常に準備していく必要があります。今この瞬間から、土台として全ての勉強に取り組み、どれだけ多くのことを処理できるかということが大事です。そういう意味ではたくさんの本を読むと良いと思います。また、たくさんの新聞や社会の問題にどれだけ接していて、それについて考えたり書いたりしたかも大切です。普段の勉強はもちろんですが、学校で教わる教科書+たくさん処理できること。新宿高校の入試問題は長いですからね。
――確かに入試では時間内に多くのことを処理する力が求められますよね。
藪田校長:決して難しいことをやっているのではなく、いくら新宿高校が自校作成問題を出題しているからと言っても、あくまで中学の学習範囲ですから。そして先ほども話した通り「私はこの学校で3年間過ごすんだ」という気持ちの強さが大事です。どうしても新宿高校に行きたいのなら、その学校のことをいっぱい調べると思うんです。過去の問題や、どういうことが聞かれているのかを必死になって調べるでしょう。そうすれば「その学校が何を求めているか、何が必要なのか」が分かるのではないでしょうか。
――ところで新宿高校と言えば遠泳のある「臨海教室」が特色です。入学前から敬遠する中学生も多いですが、新宿高校に進学した卒業生に話を聞くと、全員が「行って良かった」と口を揃えます。
藪田校長:コロナ禍で2021年までの2年間は実施できませんでしたが、100年前から同じ館山の海に行っています。先輩と同じ海を見て、同じ海で泳いで、同じ歌を歌う。そこに伝統があって、それが先輩と君たちをつなぐ糸なんだよ、とよく生徒にも話します。それが伝統の意義だと思います。
「失敗ばかり」の環境で、へこたれず続ける力が身に付く
――藪田校長先生は国語の教員でもいらっしゃいますが、国語の先生を志すようになったのはいつ頃ですか?
藪田校長:中学3年くらいですね。厳しい国語の先生がいたんですが、いろんな本を読んでいるのを見て声をかけてくださったのがきっかけで、国語に関心を持つようになりました。でも、高校に行って古典が始まったらとても苦手で苦手で(笑)。心が折れかかったんですが、私の父親が学校の事務職員だったこともあり、学校がすごく身近だったので、教育系の大学に進んで、やはり国語が得意だったので国語科に入りました。
――中学で出会った国語の先生がきっかけだったのですね。
藪田校長:その先生に、就職が決まって報告をしたら「お前は因果な商売を選んだな。教員なんてのは毎時間毎時間、教室を出るときに『ああすればよかった、こうすればよかった』って後悔しながら帰る仕事だよ、お前それを一生やるんだよ」って言われたんです。そういう思いで僕たちを指導してくれたんだなって思ったら、あぁ負けられないなって思いましたね。
――負けられないなと思ったんですね。
藪田校長:そうですね。わざわざそういうことを言うってことは「お前もわかってるんだろうな」っていう期待だと思うので、じゃあやってやろうって思いましたね。今の小中学生の皆さんも、どこかで一人はそういう先生に出会えているはずなので、それに本人が気づくかどうかということだと思います。自分に色んな言葉をかけてくれる先生がいっぱいいると思うので、それを聞けるか、聞いたときに自分の心に響くか、そういう出会いをしたいか…その姿勢がないと、右から左に抜けてしまって、あとで「学生時代に印象に残っている先生は?」「えっと…誰だっけ…」って、それじゃ出会いとして寂しいじゃないですか。
―――そうした出会いの場としての意義も学校にはありますね。
藪田校長:勉強だけ教わってるのなら学校に行く必要なんてないわけです。学校というところに来て学ぶ以上は、他の色んなことを学べる環境に身を置いているんだということ。国語、数学、英語といったものは人生で自分が成長していくためのツールに過ぎないわけで、「数学をやりました」が目的になっている中学生活を送るのはもったいないですよ。せっかく友だちや先生がいるのだから、それをしっかりと自分のものにしていければ、もっともっと成長できるんじゃないですか。学校の存在意義はそこにあると思います。一人一人色んな人生を持っているわけですから、そういう個性とのぶつかり合いって絶対社会に必要なことだし、人間は社会性があるからこそ人間なので、それを取ってしまったら人間ではなくなる。
―――その社会性を磨けるのが学校という場ですね。
藪田校長:今や「コミュニケーション講座、一講座○万円」なんて開かれるほどの時代で、最も効率的で経済的な場が学校なのかなと思います。学ばさせられる場と思うか、学ぶ場と思うのか、ということなのかな。どうせやるなら積極的にやった方が面白くない?ということですよ。
小学6年生のあなたへ メッセージ
中学受験、高校受験、大学受験、それぞれの受験はあなたが変われるターニングポイントだし、それを乗り越えることで成長できるので、あまり悲壮感を持たずに楽しめばいいと思います。ただ、受験をするにあたって保護者の方や学校の先生、塾の先生にほんとうに色々お世話になっていると思います。勉強をするために「その子のために」とどれだけ一生懸命関わろうとしてくれているか、それを忘れてはいけませんよ。
本校の卒業生が言ってくれた、とても心に響いた言葉を皆さんにも一つ紹介します。
「大学入学共通テストの試験会場に着いて、席に座ったときに、緊張するのかな、どんな思いが浮かぶかと思ったら、そこで浮かんできた思いは「感謝」でした。ここまで来ることができたんだ、今ここに座れたんだという感謝しかなかったです。それに応えようという気持ちで試験に臨めました。」
日々一生懸命やって、それが誰のおかげなのかを考えられる人であってほしい。試験までの日々を前向きにとらえて、試験に臨んでほしいと思います。
この記事の著者
鈴木亮介(すずき・りょうすけ)
2013年よりZ会進学教室にて中学生の国語、小6公立一貫校受検コースの文系を担当。立川教室や池袋教室を中心に数多くの6年生の作文指導に携わり、南多摩中、立川国際中、大泉中などの合格者を輩出。2016年よりZ会に入社し、同年より調布教室の教室長を務めるほか、国語科の一員として校正業務、冬期講習単科ゼミ「西の作文」の講座設計・教材作成も担当。肥薩線の三段スイッチバックのごとく「地味にすごい」をモットーに教壇に立つ。