「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2022年11月24日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
肉や魚と相性抜群の万能調味料 塩麹

塩麹という調味料をご存知でしょうか。米に麹菌という微生物を繁殖させて作る「米麹」に、塩と水を加えて熟成させた発酵調味料です。米麹には麹菌が作り出す様々な酵素が含まれていて、日本酒や米味噌、みりんなどを作るのに欠かすことのできない材料のひとつです。
塩麹は、麹の甘味と塩で味を付けるだけでなく、酵素によって食材を変化させる効果もあります。たとえば肉や魚を塩麹に漬けておくと、塩麹に含まれるタンパク質分解酵素が食材中のタンパク質をアミノ酸に分解します。これによってうま味が増し、肉質がやわらかくなるのです。ほかにも、デンプンを糖に変える酵素や、脂肪を分解する酵素も含まれています。
今回は鶏ささみを塩麹で漬けて、やわらかくうま味たっぷりに仕上げる蒸しささみのレシピを紹介します。
鶏ささみの塩麹漬け
材料(2人分)
- ささみ 2本
- 塩麹 ささみの重さの10%
(ささみ100gに対して10g) - 料理酒 小さじ1
<付け合わせ>
- キャベツ 3〜4枚(150g)
- 塩麹 大さじ1
- レモン 2切れ
1.漬ける
ポリ袋にささみを入れ、塩麹を加えて全体になじませる。袋の口を閉じて冷蔵庫へ。最低でも2時間、できれば一晩漬ける。急ぐ場合は常温で30分程度漬ける。
ポイント
酵素は、ある程度の温度までは、温度が高いほどよくはたらきます。したがって、冷蔵庫ではゆっくり、常温では比較的速く分解が進みます。一方で、塩麹の酵素が肉の内側まで染み込むには時間がかかるので、肉を全体的にまんべんなく柔らかくしたい場合は冷蔵庫でゆっくり漬け込むのがおすすめです。
また、肉の形状によってもちょうどよい漬け込み時間は異なります。ささみや一口大に切った鶏肉、魚の切り身などは冷蔵庫で2時間から一晩程度が目安です。薄切りの肉は長時間漬けるとボロボロになってしまうので短めに、分厚いブロック肉は染み込むのに時間がかかるので一晩じっくりかけて漬け込みましょう。
2.蒸す
ささみをポリ袋から出して、電子レンジ加熱可能な器に並べる。このとき、漬け汁も一緒に器に出す。料理酒を全体にまぶし、ラップをふんわりとかけて2分間加熱する。生っぽい部分が残っていたら10秒ずつ追加で加熱して火を通す。粗熱が取れたら手でほぐす。
3.付け合わせを用意する
キャベツは4cm角程度のざく切りにする。電子レンジ加熱可能な器に入れて塩麹を加え、ラップをふんわりとかけて2分間加熱する。ラップをとってざっくりと混ぜ、そのまま冷ます。
4.盛り付け
2のささみと3のキャベツを器に盛る。お好みでレモンを絞って食べる。
ポイント
蒸し汁には、塩麹の持つ塩味と甘味、ささみのタンパク質が分解されてできたアミノ酸のうま味がたっぷり含まれています。ほぐしたささみに絡めて一緒に盛り付けましょう。程よい塩味と甘味、うま味で全体的にマイルドな味わいなので、レモン汁で酸味を補うと、キリッと味が締まってさっぱりおいしい和え物になります。
塩麹ってどんな味?
塩麹は酵素の力を使った漬けダレとしても便利ですが、もちろん、料理に味を付ける調味料としても使えます。どんな味なのか、身近な発酵調味料である味噌や醤油と比べながら想像してみましょう。
塩麹の味の中で一番強いのが塩味です。塩分はだいたい11%前後。一般的な味噌の塩分濃度が12%、濃口醤油が16%程度なので、それよりもやや控えめです。使う量は食材の重さの1割程度を目安にするとよいでしょう。
さらに、ほんのりとした甘味も感じられます。これは、米麹の材料となるお米のデンプンが分解されてできた糖の味。ブドウ糖が主体で、みりんの甘味に近いです。糖分の量は味噌よりも多めです。
米麹の材料であるお米は、デンプンが豊富な一方で、タンパク質はそれほど多くありません。したがって味噌や醤油のように、タンパク質豊富な大豆を用いた調味料に比べると、塩麹自体が持つうま味はあまり強くありません。今回紹介したレシピのようにタンパク質が豊富な食材を漬け込むことで、アミノ酸のうま味が加わります。
また、ふだんあまり意識することはないかもしれませんが、味噌や醤油には酸味もあります。乳酸菌などが作る穏やかな酸味が、全体の味を引き締めています。塩麹にはこのような酸味がないので、塩麹だけで味をつけると少し味がぼんやりと感じられるかもしれません。そのようなときはレモンなどの柑橘類やお酢など、酸味のある食材や調味料を加えてみましょう。
次回は、「なぜ黄身だけ固まるのか説明できますか? 温泉卵」のレシピと科学ポイントについて解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。