将来、英語が好きになる! 小学生の英語の学び方

グローバル社会を生き抜く子どもたちを育てるために、2020年より英語は小学校の正式科目となりました。単語や文法をひたすら暗記する学習から、「主体的・対話的で深い学び」へ——。授業での取り組み方も変わった今、私たち大人は子どもたちをどうサポートすればよいのでしょうか。学校での授業の様子から、子どもが英語を好きになるために家庭でできること、学習のモチベーションの保ち方まで、小学生への英語指導経験が豊富な田縁眞弓先生に伺いました。
(取材・文 竹内郁子)

※本記事は、2023年12月28日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

小学校英語の導入以降、子どもたちのリスニング力、コミュニケーション力が伸びている!

———小学生のうちから英語を学ぶことのメリットは何でしょうか?

まず、英語を始める時期は「earlier is better」つまり「早ければ早いほどいい」という考えがあります。早くから英語に触れることで、英語を聞き取る力、「話したい」というモチベーションを高めることができると言われています。ただ、「英語は早く始めなければいけない」ということではありません。かつては早期英語教育を進める理由として「ある年齢を越えると英語の習得が難しい」というような考えがありましたが、その後の研究で必ずしもそうではないことがわかってきています。焦る必要はないけれど、早いうちから始めるメリットもたくさんあります。

日本人にとって英語は、第二言語ではなく完全なる外国語。ふだんの生活で英語を聞いたり話したりする必然性はあまりありません。そんななかで英語を習得しようとするとき、小学校の授業は子どもたちにとって初めて英語に出会う大きなきっかけとなります。小学生のうちから英語の音声をたくさんインプットし、気づきをうながすとともにコミュニケーションの基礎を養うことで、小中高と英語の力を大きく伸ばしていくことができます。

実際、小学校英語の導入以降、子どもたちのリスニング力は上がり、英語で積極的にコミュニケーションをとろうとする姿が多く見られます。授業でZoomを用いて韓国やオーストラリアの子どもたちとつながり、好きなキャラクターの話などで盛り上がるような姿も見られるようになりました。中学生になって「人前で英語をしゃべるのは恥ずかしい」という自意識が出てくる前に、こういった形で英語に親しみ、コミュニケーションを目的とした英語使用を体験するのは素敵なことですよね。

 

一にも二にも豊かなインプットを。他教科横断型の楽しい授業も増えている

———小学校では3、4年生になると週1回の「外国語活動」、5、6年生になると週2回の「外国語科」が始まります。どのようなことを学ぶのでしょうか

かつての英語の授業のイメージは、単語を書いたり発音を練習したり、文法を学んだり……といった内容を思い浮かべられるかもしれません。しかし、小学生への英語の指導法についての研究はどんどん進んでいます。また学習指導要領も新しくなり、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、英語の授業自体も、小中高を問わず大きく変わってきているんですよ。発達段階に合わせて、3、4年生は「聞く」「話す」が中心。5、6年生になってから「読む」「書く」が加わり、内容を推測して読んだり、語順に気づきながら書写したりする指導が始まります。

今の小学校の英語指導のキーワードは「目的、場面、状況」があるなかでの「言語活動」。まず英語を話す目的があり、その場面を与えて、英語で話したくなる・聞きたくなる状況をつくり、そのなかで言語活動を行うといったものです。知識・技能を身につけるだけでなく、それを思考・判断・表現しながらコミュニケーションを通して自然に英語を習得していく授業になっています。

———子どもたちが英語を使いたくなる目的、場面、状況とはどのようなものなのでしょうか?

たとえば「色の名前」を学ぶとき。まず「自分の好きな色を伝えよう」など、コミュニケーションの目的を設定します。「色の名前を英語で覚え、ネイティブのように発音する」のような目的にはなりません。目的が決まったら、場面・状況をつくります。たとえば「友だちにプレゼントを贈るとしたら、どんな色が好きだろう」と考えながら”What color do you like?”と教室でたずねる場面だったり、「運動会でクラスの旗を作るのに、みんなの好きな色を知りたい」という状況だったり。子どもたちに一番近くて想像しやすいシチュエーションを設定することで、英語を使う機会をつくるのですね。

———子どもたちも楽しく学べそうですね。

そうですね。最近では、教科横断型の授業も増えてきています。たとえば理科と英語をつなげて、「根っこを食べる野菜は何?」「茎を食べる野菜は?」「花を食べる野菜は?」といった質問をすると、子どもたちは少し考えながら「carrot!」「celery!」「broccoli!」のように夢中で答えます。そのほかにも絶滅危惧種の動物や、輸入食品などについても扱うことで、英語学習のための英語ではなく、英語をツールとして新しい知識を学ぶような指導もあります。もちろん英語の歌やゲームもたくさん取り入れています。教科書に入っている語彙数は600〜700語程度で、かつての中学2年生レベル。音声を通してたくさんのことばを学んでいき、受容語彙はたいへん増えています。

 

家でできる最高のインプットは、英語絵本の読み聞かせと音文字指導

———英語を始めたばかりの子が「英語って楽しい!」と思えるようになるには、家でどんなサポートができますか?

小さな子どもは何でも遊びから学ぶので、英語の歌やゲームを親子で一緒に楽しむのがおすすめです。たとえば有名な英語の歌「Head Shoulders Knees & Toes」でしばらく遊んだあと、保護者の方がわざと指す部位をまちがえてみせて、子どもの反応をみて音と意味の結びつきが理解できているか試してみたり。

また、子どもはカタカナ語をたくさん知っているので、保護者の方がわざと「バナナ」と日本語で言い、子どもが「banana!」と英語の発音で答えるような遊びもできます。ほかには、手を叩いて英語を発音してみるという遊びもあります。たとえば日本語の「ミルク」だと「ミ・ル・ク」と3回手を叩けますよね。しかし英語の「milk」だと1回しか手を叩けません。これは英語と日本語のシラブル(音節)の違いによるものなのですが、遊びを通して音の違いにも気づけます。それ以外にも、アルファベットのカードなどを使って「A」を見たら「エイ」と読むだけでなく、/a/という音で始まる単語を答えるといった音文字の指導もできます。ご家庭でもたくさんの英語の音声をインプットし、子どもの興味を伸ばしていけるといいですね。

———英語のアニメなどもありますが、見ているだけでも効果はあるのでしょうか?

ただアニメを見るだけでは効果がない場合もあります。アニメは独特の声色だったり、日常では使わない言い回しが多かったり、なかなかインプットが難しいんです。そもそも、アニメの画像に夢中で音声は耳に入っていないなんてことも……。子どもは英語じゃなくてアニメに興味があるわけですからね。では、ご家庭での一番効果的なインプットは何かというと、英語絵本の読み聞かせだと考えています。いろいろなレベルの英語絵本がたくさんありますから、まずはゆっくりと感情を込めて読み、保護者の方の体温や本に込められたメッセージを伝えるようにします。絵本を通して子どもはいろんな言葉を学ぶことができますし、絵やジェスチャーをヒントにしてその意味を類推する力を養うこともできます。読んでいる途中で「What will happen next?」などの問いかけをして、子どもの発話を促すこともできますね。たとえ英語には興味がなかったとしても、おうちの方とこうして過ごす時間は子どもにとって貴重なものです。ぜひ試してみてください。

———具体的に、どんな英語絵本がおすすめですか?

インプットは「理解できるレベル+1」くらいがちょうどいいレベルですので、お子さまの反応を確かめながら、お子さまに合った絵本を選びましょう。低学年のうちは、繰り返しやリズムがあって思わず一緒に口ずさみたくなるような絵本がいいですね。身近なボキャブラリーが豊富で、内容と絵がマッチするとわかりやすいと思います。中〜高学年になると、保護者の方と英語でやりとりできるような絵本も楽しいです。平和や環境を題材とした絵本も、その内容を英語で深く思考する体験ができるのでおすすめです。お子さまのレベルにあった絵本を選んでいただき、絵本のなかの簡単な英語を、親子で一緒に声に出して読むことも大いにおすすめします。

———「英語の発音に自信がない」という保護者の方もいるかと思うのですが……

発音のお手本は調べてみるといろいろと見つかりますので、絵本を読むときはそちらで確認されるのもよいでしょう。また不思議なもので子どもは、どの人の発音がよりネイティブに近いのか、ちゃんとわかるものなので、心配せずとも大丈夫です。それに英語を学ぶ目的は、発音のきれいさや流暢さではありません。子どもたちに身につけてほしいのは、自分の思いや考えを表現する手段としての英語。実際、世界では多様な英語が話されていますから、発音は相手に通じるレベルで大丈夫と考え、「英語話者」としてのサンプルを示してあげてください。お子さまの英語のお手本を目指すのではなく、ぜひお子さまと一緒に英語を楽しみながら、世界を広げていきましょう。

 

高学年でつまずく原因は、読み書きの難しさ。自信をつけながら、スモールステップを踏んでいこう

———高学年になると、英語に苦手意識を持つ子も増えると聞きます。

5、6年生からは「読み書き」が入ってきます。リスニングではそんなに差が出ないのですが、英語のアルファベットを単語のなかでどう発音するかという「音読み」は母語話者にとっても難しいものです。家庭でできるサポートとして、やはり絵本の読み聞かせは引き続き効果があります。アルファベットと親しむことで、徐々に音と文字の関係性に気づいていくことができます。もし、ある程度のボキャブラリーがあって、なおかつ文字やルールに興味がある子の場合は、ご家庭でフォニックス(文字と音声の関係性を学ぶ指導法)に触れてみるのもいいでしょう。ただ、文字への興味はお子さまそれぞれで違います。音読みが苦手でも、その分コミュニケーション能力が高かったり、リスニングに強かったり、という子も大勢います。音読みにつまずいて「英語、嫌い!」と心を閉ざしてしまうのは非常にもったいないこと。リスニングが得意な子なら「すごい!こんなに聞き取れるの!?」というように、得意な部分は必ずほめてあげて、弱点は補いながらゆっくり成長を待つ気持ちでサポートをしましょう。

———英語学習は長期戦ですね!モチベーションはどうやって保ち続けたらいいでしょうか?

英語は学んでも学んでも、どのくらい頭に入ったのか目に見えない。だから途中で不安になってしまうこともあります。モチベーションを保つには「自分はこんなにわかるようになったんだ!」という自信をつけながら、スモールステップを踏んでいくことも大事だと思います。たとえば簡単で楽しいワークシートに取り組んでみて、自信をつけるのもよいと思います。小学校の先生は「かつての中学英語を前倒ししてはいけない」という意識が強いのでペーパーテスト類を避ける傾向にありますが、「できた!できた!」と丸をつけていくのは子どもにとって楽しいものです。お子さまにそういった学習スタイルが合っているのなら、試してみるのもよいでしょう。

英語の検定試験に挑戦するのも一つの手ですが、取り組み方には注意してください。「高得点をとれるようにしなければ」と保護者の方が一生懸命になってしまうことも多いのですが、たとえば英検®なら、腕試しとして「6割とってギリギリ合格できればOK」と考えるくらいでよいかと思います。そのうえで結果を見て「こんなことができるようになったね」と自信をつけてあげることを目的としましょう。「全部できなくていいんだよ」と声をかけながら、子どもの得意なところをほめつつ、親子で英語に取り組む機会としても活用してみてください。

 

英語は完璧を目指さなくてもいい。「曖昧さ」に耐える子どもの力を信じて

———英語学習に取り組む子どもへの声のかけ方で、心がけることはありますか?

子どもの英語学習と向き合うとき、子どもには「曖昧さへの耐性」があることを知っておいてください。子どもははじめから終わりまで一つずつ理解し、積み上げて英語学習をするのではなく、全体をとらえて何度も繰り返すことで学んでいます。少しくらいわからないことがあっても平気です。英語を学ぶ上で大切なのは完璧な理解ではなく、英語を聞いて「ああかな?」「こうかな?」と類推しながら学んでいく力。そんな子どもたちに「今日習った単語を言ってごらん」と聞いたり、「elephantの意味は?」といった一問一答の質問をしたりすると、はっきり答えられなくて自信をなくしてしまうことが多いのです。子どもに声かけをするときは、まず、できること、わかることをほめてください。「私って英語ができるかも!」と自信をつけることが大事です。そして、子どもと一緒に英語を学びましょう。保護者の方が英語学習を一緒に楽しむことで、お子さまもさらに英語に興味をもってくれるはずです。

 

英語という「第二の翼」を身につけて未来へ羽ばたく子どもに!

———AIの発達によって翻訳機能も進化している今、「人生に英語は必要?」と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。

たしかに、今の小学生が大人になる頃には、単純な翻訳など英語の知識・技能に関わる部分は、AIに任せられる時代になるでしょう。しかし言語の向こうにある思いをくみ取ったり、自由に想像したり、自分の考えを英語で表現したり、そういった思考を伴う英語表現はAIにはできない、人間ならではの能力です。これからの子どもたちにも、ぜひそこを伸ばしてほしいです。

———自分の思いを自分の英語で表現できるようになることが大切なんですね。

英語を学ぶ意義は、英語が使えるようになること以外にもたくさんあります。ある中学生が『アナと雪の女王』の主題歌を日本語で歌ったあと、英語の歌詞を見て「先生、英語だと違う」と言ってきました。あの歌に込められた強いメッセージは訳されていないというのです。また、スティーブ・ジョブズの「Stay hungry,stay foolish」という名言がありますが、日本語訳にすると「いつもお腹を空かせていろ、馬鹿であれ」となり、そこに込められた意味は伝わりにくくなります。ことばは文化そのものです。日本語訳に頼るのではなく、英語をそのまま理解すること、こうした歌詞や名言をオリジナルの英語で読めることは、子どもたちの世界を大きく広げてくれます。またSNSが発達した現代では、日本語で表現して日本語がわかる人にしか伝わらなかったメッセージも、英語で発信することで、世界に思いを届けることができるのです。英語がどれだけ未来への扉を開く力になるか、わかりません。英語教育は、子どもたちが心豊かに生きていくために「目に見えない第二の翼」をつけてあげることだと思うのです。英語を学ぶことで、自分の世界を広げて、自信をもって羽ばたいていく子どもたちが増えてくれたら、たいへんうれしく思います。
 

田縁 眞弓(たぶち・まゆみ)


京都光華女子大学 こども教育学部教授。私立小学校および小中高一貫英語教育実践ならびに教員養成大学での小学校外国語指導を経て2021年より現職。小学校および早期英語教育指導研修を多数努める。専門は、早期英語教育、Learning By Storytelling、絵本を用いた英語指導。文部科学省検定済教科書著者(小学校)。共著に『小学校英語だれでもできる英語の音と文字の指導』『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャルズ』(三省堂)『新編小学校英語教育法入門』『小学校英語とストーリーテリング』(研究社)ほか 。

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