「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2023年12月28日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
簡単ひと工夫でふっくらおいしく
ぶりの季節はいつでしょうか。最近では養殖のものが一年中手に入りますが、もともとは冬が旬の魚。とくに西日本では、年末年始の食卓に上がることも多い食材です。現代のような物流・冷蔵技術がなかった時代には、多くの人にとって魚は特別な日のごちそうでした。年越しに魚をお供えし、皆で食べる「年取り魚(年越し魚/正月魚)」という風習が各地に存在し、西日本では出世魚であるぶりが主に用いられてきたのです。
そんなぶりも、現在ではスーパーなどでいつでも気軽に買うことができます。ぶりの照り焼きも、家庭で作る和食の定番として挙げられることが多いでしょう。下味をつけてフライパンでさっと焼き、タレを絡めるだけなので、魚を料理するのはなんとなく苦手、面倒と敬遠する人にもおすすめしたい簡単な魚料理です。
今回は、ぶりの照り焼きをふっくら香ばしく仕上げるためのコツを紹介します。
ぶりの照り焼き
材料(2人分)
- ぶり 2切れ
- 薄力粉
- <下漬け>
- A 醤油 小さじ1
- A みりん 小さじ1
- <タレ>
- B 醤油 大さじ1
- B みりん 大さじ1
- B 砂糖 小さじ1
1.下ごしらえ
Aの材料を混ぜ合わせ、ぶりの表面にまぶす。途中で上下を返しながら15分程度置いておく。
Bの醤油とみりんを合わせておく。
ポイント
魚料理の基本的な下ごしらえとして「塩をまぶしてしばらく置く」という方法があります。塩を振って置いておくと、浸透圧で水分がしみ出してくるので、キッチンペーパーなどで拭き取ってから調理します。これによって魚の表面が引き締まり、加熱時に崩れにくくなったり、水分と一緒に臭みの成分を拭き取ることで生臭さを抑えたりする効果があります。
この方法は表面に少量の塩分が残るため、塩焼きやムニエルなどのように塩味で仕上げる料理には良いのですが、ぶりの照り焼きのように後から醤油や味噌で味付けする料理では、塩分が強くなりすぎることがあります。また、水分が出るということは仕上がりの水分量も減るので、身がかたくなりやすいという難点もあります。
そこでおすすめしたいのが、「塩+酒」「醤油+酒(またはみりん)」など、塩分を含む調味料を酒などで割った液にひたす方法です。こうすることで塩分濃度を下げ、塩の影響を程よく抑えることができるため、ふっくら食べやすく仕上がります。また、酒や醤油、みりんに含まれる有機酸やアルコールには、魚の生臭さを抑える作用もあります。
2.薄力粉をまぶす
表面の調味料をしっかりと拭き取り、薄力粉を薄くまぶす。
ポイント
ぶりの照り焼きには、薄力粉をまぶすレシピとまぶさないレシピがありますが、今回は薄力粉を薄くまぶすレシピにしています。
薄力粉をまぶしてから加熱すると、魚から出た水分で薄力粉に含まれるデンプンが糊化こかし、表面が薄い膜でコーティングされます。これによって、外をこんがり焼きつつ、中のしっとり感を維持することができます。タレが絡みやすくなるので、タレの煮詰め時間を抑え、手早く仕上げる効果もあります。
また、下ごしらえの塩分濃度を下げると、水分が出にくいのでかたくならない反面、表面を引き締める効果は低くなります。薄力粉の膜で覆うことで、身を補強して崩れにくくする狙いもあります。
3.焼く
フライパンに油小さじ1を入れて中火で熱する。
皮の部分が揃うようにぶりを重ね、皮を下にして1分焼く。
次に、盛り付けたときに表になる方を下にして1分〜1分半焼く。裏返してさらに1分〜1分半焼く。(切り身の厚さが1.5cm程度なら1分ずつ、身が厚手のものは1分半ずつが目安です)
4.タレを加える
油を拭き取り、Bのタレの材料を入れる。さっと煮詰めながら手早く絡める。
タレの材料を入れるときは、ぶりの上に砂糖を乗せ、その上から醤油とみりんを合わせたものをかけると焦がしにくい。
表面をこんがり仕上げる工夫
ぶりの照り焼きには、魚の生臭さを抑えて食べやすくする工夫が多く用いられていますが、表面のこんがりとした焼き色もその一つ。以前、「外はこんがり、中はジューシー ステーキのおいしい焼き方」でも紹介しましたが、肉や魚を高温で加熱すると、メイラード反応によって褐色の色素とさまざまな香りの成分が生じます。この香りには食欲をそそるだけでなく、嫌なにおいを覆い隠す作用もあります。お子さんが「魚のにおいが苦手」という場合は、“こんがり”を意識して作ってみると良いかもしれません。
メイラード反応はタンパク質やアミノ酸と、糖との間で起こる反応ですが、糖の種類によって反応の起こりやすさが異なります。みりんに含まれるブドウ糖はメイラード反応を起こしやすい糖のひとつなので、下ごしらえでみりんに漬けてから焼くと、短時間で香ばしい焼き色をつけることができます。
焼くときの火加減はやや強めを意識しましょう。魚は肉に比べて火が通りやすく、かたくなるのが早いです。だからと言って弱火でじわじわと焼くのではなかなか焼き色がつかず、加熱時間が長くなるので逆効果。火加減は強めにして短時間で焼き上げると、外はこんがり、中はふっくらジューシーに仕上がります。表面に水分が残っていると、蒸発にエネルギーを奪われて温度が上がりにくいので、表面の水分をしっかり拭き取っておくのも大切です。
1/25(木)更新の次回では、「電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。