電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2024年1月25日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

フライパンは使わない! かんたん焼き豚

そのまま食べても、刻んでチャーハンなどに入れてもおいしい焼き豚。パンに挟むのもなかなか乙です。家で自作するにはちょっと面倒なイメージがあるかもしれませんが、実は電子レンジを使って簡単に作ることができます。

電子レンジは、マイクロ波という電波の一種を使った調理機器。マイクロ波が食品に含まれる水などの分子を振動させ、これによって食品自体を発熱させるという仕組みです。食品の外側も内側も同じように温められるので、豚の塊肉を電子レンジで加熱した場合、蒸し豚に近い仕上がりになります。焼き豚のように、表面に焼き色をつける料理を作るには、電子レンジ加熱の前後にフライパンなどで焼く工程が必要になります。

ところがマイクロ波の“ある性質”を活用すると、電子レンジだけで表面をこんがり香ばしく仕上げることができるのです。今回はそんな電子レンジの裏技を紹介します。

 

材料(作りやすい分量)

  • 豚肩ロースかたまり肉 300g
    *味噌 大さじ1(18g)
    *醤油 大さじ1(18g)
    *みりん 大さじ1(18g)
    *砂糖 小さじ1(3g)
    *おろし生姜 小さじ1/3
    *おろしにんにく 小さじ1/3
  • 白髪ネギやパクチーなどの付け合わせ

1.下ごしらえ

チャック付きポリ袋に*の材料を入れ、袋の外からもんで混ぜ合わせる。

豚肉を入れ、袋の外からもんで豚肉全体に漬けダレを絡める。

空気を抜いて袋の口を閉じ、冷蔵庫で一晩漬け込む。

 

ポイント

調味料の分量は大さじや小さじで表記されるのが一般的です。しかし、味噌やはちみつなど、とろみや粘り、かたさのある調味料を量るときには、大さじよりもキッチンスケールを使う方が便利なことが多いです。また、醤油やみりんなどのサラッとしたものでも、キッチンスケールを使うと大さじ分の洗い物が減りますよね。1000円程度で買えるものもあるので、一つ持っておくと便利なキッチンアイテムです。

大さじ1杯は15mlですが、同じ15mlでも調味料によって重さが異なるという点に注意が必要です。酢や酒は水と同じ15g。醤油や味噌、みりん、ケチャップは、塩分や糖分が多く溶け込んでいるので密度が大きく、大さじ1杯が18gです。はちみつはさらに密度が大きく21g。逆に、油は水より密度が小さいので大さじ1杯が12gです。マヨネーズも油の割合が多いので大さじ1杯12gになります。よく使う調味料について、メモしてキッチンに貼っておくといいですよ。

 

2.タレを煮詰める

深さのある電子レンジ加熱可の容器を二つ用意し、タレと豚肉を分けて入れる。

タレは、ラップをせずに電子レンジに入れ、吹きこぼれないように様子を見ながら600Wで1分40秒加熱する。

3.豚肉を加熱する

豚肉は、ラップをせずに600Wで4分間加熱する。

ボウルの底にたまった汁気を捨て、豚肉の上下を返し、表面に2のタレ大さじ1をまんべんなく塗って、さらに5分間加熱する。

冷めるまで、そのまま置いておく。

※調味料などのはねが気になる場合は、蒸気が逃げるように両端に隙間を開けてラップをしてください。

 

ポイント

電子レンジは、多くの食材が水分をある程度含んでいるということと、水分がマイクロ波をよく吸収して発熱する性質を利用しています。焼く、ゆでるなどの加熱方法では、熱くなったフライパンの表面や熱湯から食材へと熱が伝わり、食材の外側から内側へと徐々に熱が伝わっていきます。一方、電子レンジはマイクロ波が食材に浸透し、食材中の水分がマイクロ波を吸収することで食材そのものが発熱します。生鮮食品の場合、マイクロ波は表面から数センチのところまで浸透するので、ある程度の大きさに切った食材なら、外側も内側も同時に加熱することができます。フライパンやゆで湯を温める必要がないのでエネルギーの利用効率がよく、量によっては比較的短時間で火が通るなどの利点があります。

一方で、苦手なこともいくつかあります。その一つが焼き色をつけること。肉を焼くと焼き色がつくのは、表面が高温で加熱されることで、タンパク質やアミノ酸と糖とが「メイラード反応」を起こすためです。この反応によって褐色の色素と香ばしいにおいの成分が生まれます。通常の電子レンジ加熱では、表面だけを強く加熱する焼き加熱とは異なり、水分の発熱によって食材全体が加熱されるため、焼き色はつきません。ところがある裏技を使うと、電子レンジでも表面を強く加熱することができるのです。

実は、食塩水は真水よりもマイクロ波を吸収しやすく、塩分を含む食品ではマイクロ波が深く浸透しにくいという性質があります。肉の表面に塩をまぶしたり、塩分の濃いタレに漬け込んだりすると、肉の表面付近の塩分濃度が高くなります。これを加熱すると、肉の表面にマイクロ波が集中するため、表面だけが強く加熱され、その間に内部が徐々に加熱されていきます。

こうして、フライパンやオーブンで肉を焼くのに近い状態を作り出し、表面に焼き色のような香ばしい部分を作ることができるのです。

 

4.仕上げ

好みの厚さに切って器に盛り、2のタレの残りをかける。

お好みで白髪ネギやパクチーを添える。

 

味噌は、家にあるものやお好みのもので問題ありませんが、もし複数ある場合や、これからお店で買ってくる場合には、色が濃いものを選んでいただくと良いでしょう。

味噌の褐色も実はメイラード反応によるものです。味噌には、大豆のタンパク質が分解されてできたアミノ酸や、米や麦のデンプンが分解されてできた糖が豊富に含まれているので、メイラード反応を起こしやすい条件が揃っています。メイラード反応は高温で素早く進みますが、常温でも時間をかけてゆっくりと進みます。そのため、味噌の熟成中にも徐々に反応が進み、褐色に色づいてくるのです。メイラード反応では褐色の色素とともに香ばしいにおいが生じるので、焼き色のような色と香りをつけるのに役立ちます。

メイラード反応による着色の度合いは、材料の比率や製法によっても異なりますし、同じ製法であれば熟成期間が長いものほど反応が進んでいます。西京味噌などの白味噌では、大豆や米の下ごしらえの段階でメイラード反応に関わる成分を減らす工夫をしたり、熟成期間を短くしたりして着色を抑えています。一方、大豆由来のアミノ酸が多く、熟成期間が長いと、八丁味噌のような濃い褐色の味噌ができます。味噌の味わいはさまざまな条件によって変化するので一概には言えませんが、色が淡い味噌の方がまろやかであっさり、濃い味噌の方がコクと風味が強いものが多いです。

2/22(木)更新の次回では、「ひな祭りのお祝いに 手作り甘酒」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!
 

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

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