せっかく夏休みの「自由研究」に取り組むなら、科学への興味・関心が長続きするようなテーマを選びたいもの。そこで、今回は、身の回りにあるもので科学の力を実感し、知識を深めていけるような自由研究の題材と進め方のコツを、「科学する料理研究家」の平松サリーさんにうかがいました。
※本記事は、2018年7月26日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
目次
まずは身近なもので科学の力を実感してみよう
――子どもが科学に興味をもつにはどうしたらよいとお考えですか?
自分の例で恐縮ですが、子どものころ、わたしの家には小学生向けの科学実験の本があって、よく試していたんですね。「紫キャベツの液にアルカリ性のものを入れると色が変わる」とあれば、「本当に変わるのかな? どのくらいの時間で変わるのかな?」と思って。「レモン汁を入れると変わる」と書いてあったら、少し入れるのかたくさん入れるのか、少し入れたときとたくさん入れたときは色がどう違うのかといったことが気になり、そこまでの情報は載っていないのでやってみるわけです。
実際にやって確かめることを繰り返し、現実に起きている事象や実際の現象を見たときに、「これってどういうことなのかな?」と疑問をもてるようになって、今度は知識を得るために本を読んでみるという活動ができるようになると思うんですね。最初は知識の実証から始まったものが、実験してみる→知識が深まる→知識が複合的につながっていく、というわけです。
まずは難しく考えずに、最初は本に書いてあることが現実とリンクするということを学習するというか感覚として知るというところから始めてみるのがよいと思います。
――平松さんご自身もそのような経験をされてきたのですね。他にも子どものころのエピソードはありますか?
たとえば「水と油は混ざり合わない。身近な例ではドレッシングがある。」と本で読んで知ったときに、「冷蔵庫にドレッシングある?」と親に聞いて、実際に目で見て確認するような子どもでした。
何か知識を得たときに、本に書いてあることを1回ちょっと疑ってみて、なるべく自分で試してみることは大事なことだと思います。「水と油って混ざり合わないって書いてあるけど、本当にそうなの?」とか、「マヨネーズはお酢と油を使っているけど、卵を入れているから分離しないんだよ」と言われたら、「本当にそうなのかな?」と疑ってみて、実際にマヨネーズを作ってみるといったようなことです。ドレッシングやマヨネーズはどこのご家庭にもあるものですし、目で見て実感しやすいものだと思います。
――実際に実験をしてみて、どのように知識を深めていくのですか?
先ほどのマヨネーズはなぜ分離しないのかという話ですが、卵のレシチンが乳化剤の役割をしているから分離しないんですね。乳化剤なんていうとなんだか難しいイメージで、科学っぽい名前なのですが、マヨネーズ以外にもいろいろな食品で使われていて、水と油が分かれないようにしています。だんだんと食品の成分表示が自分で読めるようになってくると、いろいろな食品の成分表示のなかに乳化剤が入っていることがわかります。
また、乳化剤を別の言い方では、界面活性剤と言います。意味としてはほぼ一緒ですが、食べ物関係に使うときは乳化剤と呼び、洗剤や化粧品に使うときには界面活性剤と呼びます。油汚れが服についてしまったときに、水に油は溶けないので、そのまま水に浸しておいても油汚れはとれませんね。でも、洗剤のなかに入っている界面活性剤が水と油の間を取り持ってくれるため、油をくっつけて水に溶かして油汚れを浮かしてくれます。洗剤が汚れを落とす仕組みと、マヨネーズが分離しない仕組みの元をただすと一緒というか、同じところに結びついてくるんですね。1つの知識を身につけると、別のところにもどんどん広がっていき、応用が利くことが科学のおもしろいところだと思います。身近な科学を深めていくと、あの話とこの話って一緒だったんだ! とか、理科の授業で習ったことが家のなかにあるものに関係してるんだ! といった知識が有機的に繋がっていくんですね。
――知識を得たらまず実証してみて、その後、別の事象にも応用してみたり、いくつかの知識を結び付けてみたりすることが大切なのですね。
現象を見ただけで「なぜそうなるの?」と疑問をもてる未来のエジソンやアインシュタインみたいなお子さまはよいのですが、初めから疑問にたどりつけるところまでいかないお子さまも多いと思うんですよね。そこで、まずは知識を得たときに本当にそうなのか実証してみるという意味での実験を試してみるのがいいのかなと思います。
やってみよう!① ~アントシアニンの実験~
ここからは、実際にキッチンでできる実験を平松さんにご紹介いただきました。
食べものや料理に関する科学のなかでも、見た目の変化があるものや色に関するものは、目で見てわかるので興味をもちやすいですし、イメージもしやすいのではないかと思います。ここでは食べものの色に関する科学と簡単な実験を紹介しましょう。
食べものには、赤、紫、緑、茶など、さまざまな色のものがあります。これらの色は、それぞれの食べものに含まれる「色素」の種類や量によって決まります。たとえば、トマトは未熟なうちは緑色の色素が多いので緑色に見えますが、熟してくるとリコピンという赤色の色素を多く作り出し、真っ赤に色付きます。品種によってはリコピンを作らないものもあるので、そのような場合は熟しても緑色のままです。
さて、このような色素のなかには酸性/アルカリ性にしたり、加熱したり、空気に触れさせたりすることによって色が変化するものがあります。ここではそのひとつ「アントシアニン」という色素について取り上げようと思います。
アントシアニンはナスの皮や紫キャベツに多く含まれる色素です。この色素は中性では青みがかった紫色に見えますが、酸性にすると赤紫色やピンク色になり、アルカリ性にすると水色や緑色に変化するという性質があります。
アントシアニン液を作ろう
アントシアニンを溶かし出した「アントシアニン液」を作り、色の変化を確認してみましょう。
【材料】
・紫キャベツ 1枚
・熱湯 200ml
【作り方】
①紫キャベツを切る。
紫キャベツは包丁で5mm幅程度の千切りにし、耐熱容器に入れます。
②お湯をそそぐ。
熱湯をそそぐと、お湯が青紫色に色づいてきます。5分ほど置いてから軽くかき混ぜ、茶こしやざるなどで液をこしてキャベツを取り除いたらできあがりです。
紫キャベツが手に入らない場合は、ナスの皮で代用することもできます。ナスの皮(ピーラーなどでむく)1本分を細かく刻み、100mlの熱湯を注いだら、あとは紫キャベツの場合と同様です。
アントシアニンは非常に水に溶けやすい成分なのですが、通常は細胞の膜の内側に包まれているので、野菜を切って水に浸しておくだけでは溶け出してきません。しかし、加熱すると細胞の膜が壊れてなかの成分が出入りできるようになります。そのため、刻んだ紫キャベツやナスの皮を熱湯に浸しておくと、色素が細胞の外に溶け出し、アントシアニン液を作ることができます。
アントシアニン液の色の変化を確認しよう
用意するものは、先ほどのアントシアニン液100ml程度と、コップ3個、混ぜるもの3本、お酢、重曹です。コップは色の変化がわかりやすいよう、白い紙コップを使うか、透明なプラコップの下に白い紙を敷くとよいでしょう。重曹は耳かき1杯分程度を大さじ1の水で溶いておきます。
まずは3つのコップにアントシアニン液を大さじ2杯ずつ取り分けます。それから、そのうちのひとつにはお酢を、もうひとつには重曹を溶かした水を、少量ずつ加えて混ぜてみましょう。残りのひとつは色を比較するため、何も加えずにおいておきます。さて、それぞれどのような色になるでしょうか。
お酢を加えたものは紫色からピンク色に、重曹水を加えたものは水色や緑色に色が変わるのを確認できるはずです。
アントシアニン液は、身近なものの酸性・アルカリ性を調べるのに使うこともできます。先ほどの実験と同じようにコップに少量ずつ取り分けて、調べたい液体を加えてみましょう。たとえば炭酸水やレモン汁、卵の白身、梅干しの汁、こんにゃくの汁などがおすすめです。
色の変化を調べたら、なぜその液体が酸性・アルカリ性なのか、成分や作り方を調べてみると興味が広がるきっかけになるかもしれません。
食品以外にも化粧水、シャンプー、虫刺されの薬、洗剤なども調べてみてもよいでしょう。これらは用途や使う場所によって、あえてアルカリ性だったり中性だったりするのでそういった違いを考察したり調べたりしてみるのもおもしろいですよ。
料理のなかのアントシアニン
アントシアニンの色の変化はふだんの料理のなかでも見かけることがあります。たとえばお寿司と一緒に食べることの多い“ガリ”。これは、新しょうがをさっとゆでて甘酢に漬けたものです。新しょうが自体は薄いクリーム色をしていますが、甘酢に漬けると酸性になり、アントシアニン色素が発色するためほんのりとピンク色に色付きます。
このほかに、いちごやブルーベリーなどのベリー類、ぶどう、紫玉ねぎ、ラディッシュ、みょうが、赤しそなどにもアントシアニンが含まれています。
みょうがはしばしば、さっとゆでて甘酢にひたし、鮮やかなピンク色に発色させて使うことがあります。箸休めとして焼き魚に添えたり、香りづけに和え物や酢飯などに混ぜ込んだりして使われますが、彩りとしてもきれいです。
紫キャベツや紫玉ねぎなどの野菜も、さっとゆでたり電子レンジで加熱したりしてから甘酢をかけると色が鮮やかになるので、お子さまと一緒に試してみてはいかがでしょうか。
また、しそジュースや梅干し作りでも赤しそのアントシアニンによって色が変化する過程があるので、親子で作り方を調べてみるとよいでしょう。
やってみよう!② ~色が変わる?! カラフル焼きそば~
アントシアニンの性質を使って、ちょっと変わった焼きそばを作ることもできます。
材料(1人分)
- 焼きそば麺または中華麺(原材料欄に「かんすい」と書かれているもの) 1玉
- 紫キャベツ(ざく切りにしておく) 70g
- 焼きそばの具(豚肉、玉ねぎなど) 適宜
- 食塩、こしょう 少々
- 鶏がらスープの素 小さじ1と1/2
- 水 75ml
- サラダ油 小さじ1
- レモン汁 少々
【作り方】
①具を炒める。
フライパンにサラダ油を熱し、焼きそばの具を炒めます。火が通ったら、食塩、こしょうで下味をつけて取り出します。
②紫キャベツをゆでる。
同じフライパンに水を入れて熱し、沸騰したら紫キャベツを加えます。
③麺を加える。
紫キャベツがしんなりとして、水が紫色に色づいたら、麺を加えます。菜箸で麺をほぐしながら、水がなくなるまで炒めましょう。
【チェックポイント①】
麺を加えると水や麺が緑色に染まります。
④味付けをする。
①の具と鶏がらスープの素を加えてよく混ぜ合わせたら火を止めます。
【チェックポイント②】
緑色になった焼きそばを少し取り出してレモン汁をふりかけると、その部分だけ麺がうすいピンク色に変化します。


麺が緑色に変化したり、ピンク色に変化したりしたのはなぜでしょうか。アントシアニン液の実験をもとに考えてみましょう。
- 紫キャベツを煮出した液(アントシアニン液)に麺を加えたら緑色になった
- アントシアニンはアルカリ性にすると水色や緑色に色が変化する性質がある
以上のことから、どうやら麺にアルカリ性の成分が含まれているのではないかという推測ができます。
中華麺や焼きそば麺には、生地をのばしやすくしたり、麺に独特の食感や風味をつけたりするために「かんすい」というアルカリ性の成分が使われています。これが③で麺が緑色に染まった理由です。
では④でレモン汁をかけたらピンク色になったのはなぜか。これはもうおわかりかと思います。そう、レモン汁が酸性だから。レモンにはクエン酸という酸が多く含まれているため、アントシアニンがピンク色に変化したというわけです。
色が変わる実験は「変わった!」という驚きだけでも楽しむことができますが、その驚きを「なぜだろう?」という疑問に変えていくことで、好奇心や探究心を養い、関心を広げていくことができるのではないでしょうか。お子さまと実験をする際にはぜひ、「!」を「?」につなげる手助けをしてあげてください。
1回実験しておわり! にならないために……
――せっかく貴重な時間を使って自由研究に取り組むので、1回やって終わりにはならないようにしたいのですが、興味が続くようにするにはどうしたらよいでしょうか?
今回の色素の話であれば、「紫キャベツ以外にアントシアニンを含むものってどんなのがあるのかな?」と考えてみるとよいと思います。たとえば、ぶどうジュースとか紫玉ねぎとかみょうがとか、ほかのものでも試してみると実験の発展形になるんですね。やってみた実験のなかで、何か1つだけ条件を変えてみて、知識の実証を増やしていく……。
たとえば、焼きそばの実験であれば、うどんやラーメンなど他の麺に変えてみると色が変わらないものが出てきます。うどんだと色は変わりません。そこで、色が変わらないものと変わるものの違いはなんだろうと成分表示を比べてみる。色を変えている犯人はかんすいです。かんすいってどんなものだろうと調べてみるとアルカリ性のものだとわかります。「アルカリ性のものってどういうものがあるだろう?」と探してみると、たとえば重曹水が見つかります。これをうどんに入れると焼きそばと同じように色が変わる。このとき、変える条件は1つだけにすることが大切なポイントです。何が原因でその現象が起こったかをつき止められるからです。1つだけ変えて、いろいろとやってみることが深堀りにつながり、知識が広がっていくんですね。
――実験をしていて、失敗してしまったときは、どうしたらよいでしょうか。
失敗するのはとてもよいことです。今回の焼きそばの実験でもきちんと実験したのに思ったほどの結果が出ないことがありえます。次は成功したいからいろいろ考えますよね。「焼きそばの麺の種類が違ったのかな?」「レモン汁の量が足りなかったのかな?」といったようにそれを検証してみるんです。実際、かんすいが入った焼きそばでもメーカーによって結果が出やすいものと出にくいものがあったりします。どの焼きそばがうまくいくんだろうと試してみてもいいですね。
また、焼きそばの麺に興味をもったら、スーパーの麺コーナーをよく見ることになるでしょう。旅行先のスーパーでは見たことのないメーカーの焼きそばを売っていたりします。そこで、地域によって品揃えが違うんだ! ということに気がついたら、その違いについて、研究してみてもおもしろいですね。
1つ実験しておしまいとなりがちな自由研究ですが、検証の仕方、考え方、興味の広げ方は無限大です。保護者の方が理科のスペシャリストである必要はまったくありません。ただ、お子さまが「なんでだろう?」「こんなことやってみたい!」と興味をもったときに一緒に材料を買いに行ってみたり、図書館に行って「この辺に関係する本があるんじゃない?」とヒントを出してみたり、対応に困ってしまったときは身近な専門家である学校の先生に相談するようすすめてみたりして、お子さまの興味を受け止めていただければと思います。
「もっといろいろな実験を楽しみたい!」「もっといろんなことを知りたい!」という方へ
平松 サリー さんが小学生向けに書かれた「おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)」という書籍もあわせて、ぜひご覧ください。わかりやすくておもしろい夏休みの自由研究のヒントがたくさん見つけられると思います。
「おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉) 」
平松サリー(著)講談社 1,296円(税込)
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。