「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
少しの工夫で豚肉をおいしくやわらかく!

お肉をゆでるだけという、ごくシンプルな料理ですが、実はちょっとした工夫でお肉をよりやわらかく、おいしく仕上げることができるんです。今回は、冷しゃぶをしっとりやわらかく、うま味たっぷりに仕上げるコツについて、科学的に解説します。
うま味の底上げ+やさしく加熱
冷しゃぶは「お肉のうま味を底上げする」「お肉をしっとりやわらかく仕上げる」の2つの点に着目して調理すると、安いお肉でもよりおいしく食べることができます。
まずはお肉のうま味について。豚肉にはイノシン酸といううま味成分が多く含まれています。このうま味を底上げしてくれるのが塩と昆布です。
塩味にはうま味の感じ方を強める効果があるので、水に約0.5%(1リットルに小さじ1程度)の塩を加えてゆでると、お肉のうま味が引き立てられ、より味わい深くなります。また、ゆで汁にはただのお湯ではなく昆布だしを使うのがおすすめ。イノシン酸は、昆布に豊富なうま味成分・グルタミン酸と組み合わせることで、うま味が最大7〜8倍にまで増幅する「うま味の相乗効果」が知られています。
だしと聞くと大変そうに聞こえるかもしれませんが、水出しならとっても簡単です。水に昆布を入れて冷蔵庫に一晩置いておくだけでできあがり。昆布を取り出して使います。当日準備する場合は、鍋に水と昆布を入れて30分ほどふやかしてから弱火〜中火でゆっくりと温め、沸騰直前で昆布を取り出します。
お肉をゆでる際の湯加減も重要です。お肉に火を通すと歯切れが良くなり、風味が増す一方で、加熱しすぎると水分が絞り出されて硬くパサパサしてきます。お肉に火を通しつつ、しっとりやわらかく仕上げるには、ぐつぐつ激しく煮立たせるのではなく、鍋底に細かい泡がたくさんついて、小さい泡がふつふつとやさしく出るくらいが適温です。温度計がある場合は80〜85℃になるよう火加減を調節し、1分程度ゆでたら取り出します。
ゆであがったお肉は平ザルか大きめのザルに広げて冷まします。冷水にとって冷ますと、味の成分が溶け出して水っぽくなってしまいます。
粗熱が取れたら冷蔵庫には入れずに常温で食べましょう。冷やすと豚肉の脂が固まって口当たりが悪くなるからです。ひんやりさっぱり食べたい場合は、一緒に食べる野菜や麺の方をよく冷やしておきます。どうしてもお肉を冷やして食べたい場合は、脂の少ないもも肉やロースを選びましょう。
冷しゃぶサラダ
材料(2〜3人分)
・豚肉(しゃぶしゃぶ用) 200g
・昆布、塩、酒
お好みの野菜(例)
・レタス 2枚
・ミニトマト 4個
・オクラ 4本
・黄色パプリカ 1/4個
・きゅうりやナス、大葉、ミョウガなども合います
ごまだれやポン酢醤油など 適量

1.下ごしらえ
昆布を水に浸し、ゆで湯用の昆布だしを作る。昆布は水の1%程度(水1リットルにつき昆布10g)が目安。
2.野菜を用意する
レタスは一口大にちぎる。ミニトマトは半分に切る。オクラはゆでて半分に切る。黄色パプリカは薄切りにする。
冷蔵庫に入れてよく冷やしておく。

3.ゆでる
1の昆布だしを鍋に入れ、塩と酒を加える。
塩は水の0.5%程度(水1リットルにつき小さじ1)が目安。
酒は水1リットルにつき大さじ3杯程度。
鍋を火にかけ、80〜85℃程度(底に細かい気泡がたくさんつくくらい)まで温める。
豚肉を4〜5枚ずつ広げて入れ、お肉同士がくっつかないように箸でほぐしながら1分程度ゆでる。ゆで上がったら、平ザルか大きめのザルに取り出し、そのまま粗熱をとる。
湯温が80℃程度になるよう火加減を調節しながら、残りの豚肉も同様にゆでる。

4.盛り付け
豚肉の粗熱が取れたら、2の野菜と3の豚肉をお皿に盛り付ける。
お好みでごまだれやポン酢醤油などをかけて食べる。
ゆで汁もうま味たっぷり
昆布だしで豚肉をゆでると、ゆで汁に昆布と豚肉のうま味が溶け込んでいいだしがとれます。和洋中さまざまなスープに使えるので、捨てずに再利用してみてください。
ゆで汁適量を小鍋に取り、好みの野菜を入れてやわらかく煮ましょう。汁物の塩加減は1.0%弱が目安ですが、ゆで汁自体に約0.5%の塩分が含まれているので、お好みで塩や醤油を足して味を調えます。
たとえばかき玉汁にするなら、玉ねぎまたはネギを煮たあと、戻した乾燥わかめを加え、塩または醤油で味を調えます。お好みで胡椒やおろし生姜を入れてもいいですね。片栗粉でとろみをつけたら、溶き卵を細く回し入れてできあがりです。
洋風にするならミネストローネもおいしくできます。玉ねぎやにんじん100gとベーコン1枚を刻んで炒めたら、湯むきしてざく切りにしたトマト100gとおろしニンニク少々を加えます。トマトが崩れるまで炒めたらゆで汁200gを加えて煮込み、塩と胡椒で味を調えれば完成です。
次回は「ラムネ菓子」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。