「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
寒い朝にお手軽な食べるスープ「シェントウジャン」

冷え込む冬の朝は、ほかほかと温かい汁物があると嬉しいですよね。台湾の朝食で定番のメニュー「シェントウジャン(鹹豆漿)」は、どんぶりに黒酢などの調味料と具材を入れ、温めた豆乳を注ぐだけで完成するとっても簡単な一品。酢の力で豆乳がやわらかく固まり、とろとろふるふるとした食感の「食べるスープ」になります。朝からしっかり料理するのは面倒ですが、これなら手軽に作ることができますし、やさしい味わいと食感で心も体も温まります。
この記事では、シェントウジャンのレシピと、豆乳がお酢で固まる仕組みについて科学的に解説します。
にがりで固める豆腐、酸で固めるシェントウジャン
温めた豆乳にお酢を加えると、もろもろっとした白い塊と透明な液体とに分かれます。これは、豆乳に「にがり」を加えて豆腐を作る様子によく似ています。どちらも豆乳のある性質が関係していますが、仕組みが少しだけ違います。
豆乳には油脂やタンパク質がコロイドという小さな粒の状態で含まれています。これらは互いに反発し合うことで、水に溶けず、かたまりにもならず、粒のまま水の中を漂っています。この粒が光を散乱させるため、豆乳は白く濁って見えるのです。
にがりの主成分である塩化マグネシウムは、水に溶けるとマグネシウムイオンと塩化物イオンに分かれます。マグネシウムイオンはコロイドの粒同士が反発し合う力を弱め、タンパク質同士を結びつけるはたらきがあります。これにより、粒同士が反発し合う力よりも引き寄せ合う力が強くなるため、粒が集まり小さなブロックを作ります。そして、このブロックがつながって網目のようになり、網目の中に水分を抱え込むことで、ぷるんとした豆腐のかたまりができます。
酸にも、豆乳のコロイド粒子が反発し合う力を弱める効果があるため、豆乳に酸を加えると、粒が引き寄せあってかたまりになります。シェントウジャンは、どんぶりの中で黒酢と温めた豆乳が混ざり合うため、豆乳のコロイド粒子がかたまりになり、おぼろ豆腐のようになるのです。

豆乳売り場にはさまざまな種類の豆乳が売られていますが、シェントウジャンには無調整豆乳を使いましょう。無調整豆乳とは、大豆と水だけを使って作った豆乳で、砂糖や塩、果汁、コーヒーなどを加えていないものを指します。豆腐作りには大豆固形分多めの10%以上のものがおすすめですが、シェントウジャンはごく一般的な8%程度で十分です。大豆固形分が多いほど、しっかりかたく固まるので、8%程度の方が汁物っぽさがあって食べやすいと思います。
鹹豆漿(シェントウジャン)
材料(1人分)
- 無調整豆乳 200ml
- ザーサイ 8g
*干しえび 1.5g(大さじ1/2)
*細ネギ(小口切り) 1/2本分
*醤油 小さじ1
*黒酢 大さじ1/2
<トッピング>
- ラー油(またはごま油) お好みで
- パクチー お好みで
<油条風焼きバケット>
- バケット 1cm厚さにスライスしたものを1〜2枚
- 油
台湾では油条という揚げパンを浸して食べますが、バケットを油で焼いて代用してもおいしいです。油麩で代用することもあります。
1.バケットを焼く
バケットを食べやすい大きさに切る。
フライパンに油をひいて、バケットを入れる。
表面が薄く色づき、カリッとするまで弱火で両面焼く。
2.具を器に入れる
ザーサイは細切りにする。
どんぶりに*の材料とザーサイを入れる。
3.温めた豆乳を注ぐ
豆乳を小鍋に入れて温める(テフロン加工のものがおすすめ)。
沸騰直前で火を止め、2のどんぶりに注ぐ。
お好みでパクチーを添え、ラー油を回しかける。辛いのが苦手な人は、香りづけにごま油でもOK。
1を添えて浸しながら食べる。
酸でコロイドを固めるもの
豆腐というと「にがり」を使って固めるものというイメージが強いですが、酸を使って作られている豆腐もあります。グルコノデルタラクトンという凝固剤は、水に溶けると徐々にグルコン酸という酸に変化するため、豆乳にこれを加えるとゆっくりと酸性になり、固まります。凝固が始まる前に豆乳と凝固剤をよく混ぜ合わせることができるので、全体をムラなく凝固させられます。
コロイド溶液に酸を加えて固めるものはほかにもあります。身近なコロイド溶液といえば牛乳。これを温めてレモン汁やお酢を加えると、白くもろもろとしたかたまりと黄色っぽい水分とに分かれます。これを、サラシやキッチンペーパーを重ねたザルに入れて水分を除き、かたまりの部分を集めればカッテージチーズのできあがり。
牛乳も豆乳と同じく、タンパク質や脂質が小さな粒になって水の中を漂うコロイド溶液。したがって、酸を加えれば粒同士が引き寄せ合い、かたまりになって出てくるのです。乳酸菌の作り出す酸によって牛乳からとろりとしたヨーグルトができるのも同様の現象です。

次回は「カスタードクリーム」について、解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。