「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
コツをおさえてカスタードクリーム作りに挑戦!
パイ生地でカスタードクリームを包んで焼いたカスタードパイは、外はサクサク、中はとろりと温かく、寒い日のおやつにぴったりです。カスタードクリームってなんとなく難しそう、と思うかもしれませんが、実は意外と手軽に作ることができます。主な材料は、牛乳、卵黄、砂糖、薄力粉の4つだけ。順番に混ぜ合わせて、小鍋で加熱すればできあがりです。混ぜる順番や熱の加え方にいくつかコツがありますが、それさえ守ればあっという間に完成します。あとは、冷凍のパイシートに包んでオーブンで焼くだけ。
今回は、カスタードクリームのコツとその背景にある科学について解説し、冷凍パイシートで作るカスタードパイのレシピを紹介します。
カスタードクリーム
材料(作りやすい分量 できあがり300g程度)
- 卵黄 2個
- グラニュー糖 30g+30g
- 薄力粉 15g
- 牛乳 250g
- バニラエッセンス(お好みで) 2〜3滴
1.卵黄と粉類を混ぜる
卵黄にグラニュー糖30gを加えたら、すぐに泡立て器でよくすり混ぜる。
薄力粉をふるい入れ、さらに混ぜる。混ぜすぎると粘りが出るので、粉っぽさがなくなったらすぐに混ぜるのをやめる。
2.温めた牛乳を加える
小鍋に牛乳とグラニュー糖30gを入れて沸騰直前まで温める。
1に少量ずつ加えて溶きのばす。半分程度加えたら、残りを一気に加えて混ぜ合わせる。
3.クリームを火にかける
2を小鍋に戻し入れ、弱めの中火にかける。ヘラで絶えずかき混ぜ、全体にとろみがついてきたら、焦げないように底から混ぜながら火にかけ続ける。
加熱していくと、ぽってりと重いクリーム状から、とろりと流れ落ちるソース状の質感に変わる。ここまできたら火を止める。
ポイント
小鍋に材料を合わせた段階では、まだ小麦粉のデンプンが糊化していないので、サラサラとした液状です。片栗粉でスープにとろみをつけるときのように、デンプンが底に沈まないようよく混ぜながら加熱します。
温度が十分に上がるとデンプンが糊化し、クリームにとろみがついてきます。デンプンが糊化する際に、タンパク質の凝固を邪魔するので、卵がダマになるのを防いでくれる効果があります。この時点では、かなり粘りが強く、ヘラでクリームを持ち上げるとぼってりとした塊になりますが、ここで加熱をやめてはいけません。
さらに加熱していくと、今度は粘度が下がり、ヘラで混ぜやすくさらっとした質感に変わります。これは、デンプンを包んでいる粒が破裂し、中身がバラバラになる「ブレークダウン」という現象が起こるためです。とろみは減りますがクリームはなめらかになり、ヘラで持ち上げると帯状につながって流れおちます。少しゆるく感じるかもしれませんが、冷めるとデンプンがゲル化して、ぷるんと固まるので問題ありません。

また、生の卵には、デンプンを分解する酵素が含まれています。この酵素が残っていると、時間が経ったときにカスタードクリームのとろみが失われ、シャバシャバになってしまいます。酵素を壊して働かなくなるようにするためにもしっかりと火を通す必要があるのです。
4.冷ます
傷みやすいので、一気に冷ます。
大きめのボウルかバットを用意し、ラップをぴったりと貼り付ける。この上に3を流し入れ、上にもラップをピッタリと貼り付ける。
容器ごと氷水につけて冷ます。ラップの上に保冷剤を乗せても良い。
冷めたら上のラップを剥がし、バニラエッセンスを加え、ヘラで切るように混ぜて完成。
冷蔵庫で保存し、翌日までに食べ切る。
食べきれないときは、チャック付きポリ袋に入れて薄く伸ばし、冷凍保存する。使うときには電子レンジで加熱解凍する。
カスタードパイ
材料(4個分)
- 冷凍パイシート 20cm×20cm 1枚
- カスタードクリーム 80g
- 卵黄液 卵黄1個+水小さじ1
オーブンは200℃に予熱しておく。
パイシートを解凍しておく(工程1の段階で半解凍くらいが作業しやすい)。
1.パイシートを用意する
冷凍パイシートを10cm角に切る。
左半分にフォークで数箇所穴を開け、右半分には包丁で5〜6本切り込みを入れる。
2.クリームを包む
パイ生地のふちに卵黄液を塗り、生地の左半分にカスタードクリームを20gずつ乗せる。
生地の右半分をかぶせて、重ねたふちをフォークで押さえてとじる。
ハケやスプーンの背を使って、パイの表面に卵黄液を薄く塗る。
3.焼く
天パンにオーブンシートを敷いて2を並べる。
200℃のオーブンで15〜20分焼き、表面にこんがりと焼き色がついたらできあがり。
温めた牛乳を加えて温める
カスタードクリームを加熱する際は材料を全て合わせてから火にかけるのではなく、まず牛乳を温め、それを他の材料に少しずつ加えて合わせていきます。こうすることで、卵のタンパク質が凝固し、薄力粉のデンプンが糊化するよりもやや低い60℃前後まで、素早く穏やかにまんべんなく材料の温度を上げることができます。
ポイントは、牛乳に卵液を入れるのではなく、卵液に牛乳を入れること。熱い牛乳に卵液を加えると、入れたそばから卵液に火が通りダマになりやすいのです。冷たい卵液に熱い牛乳を少量ずつ注げば、材料の温度が上がりすぎることはありません。

温かい卵液ができたら、あとはこれを火にかければ、80℃前後で卵のタンパク質が凝固し、薄力粉のデンプンが糊化します。このとき、加熱やデンプンの分布にムラがあると鍋底の方でダマができてしまうので、よく混ぜながら加熱しましょう。
次回は「チキンソテー」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。