計算を工夫する、ということ

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどく、かつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

※本記事は、2018年~2022年に「Z-SQUARE」上で連載していた記事を一部修正の上、再掲しています。

こんにちは、最近、詐欺メールに引っかかりそうになった小田です。某サービスのアカウントがロックされた、というメールが来たので、また変なメールが来たなと思っていたのですが、驚いたことに本当にアカウントがロックされてしまっていました。そのサービスは、正しくないパスワードを何度か入れるとアカウントがロックされてしまうので、メールアドレスさえわかっていれば、適当なパスワードを入れてわざと何度もまちがえることで、アカウントをロックさせてしまうことができるのです。結構焦りました。普通にロックを解除したのですが、皆様もお気をつけください。

 さて、今回は「計算の工夫」についてのお悩みです。子どもが複雑な計算を一生懸命正面からやっているのを見ていると、「もっと工夫すれば楽にできるのに!」ともどかしくなることがありますね。しかし、「工夫して計算するといいよ!」と伝えてみても、なかなか工夫して計算してくれなかったりします。その様子を見て、さらにもどかしくなる親御さんもおそらく多いことでしょう。今回は、そんなお悩みにお答えしたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み10:計算を工夫する、ということ

工夫して計算する問題でも、素直に計算してしまいます。多少面倒であっても正しく答えを求めることはできているようです。算数・数学が得意になってほしいと思っているのですが、小学生のうちはこれでよいのでしょうか。

 

さんすう力UPのポイント

「小学生のうちはこれでよいのでしょうか」という質問に端的に答えるならば、「それでいいのです!」ということになるでしょう。これは“小学生のうち”に限った話でもなく、さらに言うと“計算の工夫”に限った話でもありませんが、「まずはうまくなくても自分のできる方法で答えを出す」というのは、算数・数学を学習していく上でいちばん重要な要素です。複雑な計算を頑張って一生懸命やっていたら、まずは「よく頑張ったね」とほめてあげてください。

しかし、そうは言っても傍から見ているともどかしい、と思う方もいらっしゃるでしょう。うまく工夫ができないまま計算を続けていくと、先々苦労しそう、というご心配も、もちろんあると思います。実際、面倒な計算を正直に計算していると、負担も大きいですし、まちがってしまうことも多いです。苦労して計算したのに答えが合わない、という経験をくり返すと、苦手意識にもつながってしまうでしょう。その意味で、どこかの段階では、計算の工夫ができるようになったほうがいい、というのはまちがいありません。ただ難しいのは、単に計算の工夫の仕方を伝えたり、「計算の工夫をしなさい」と言ったりするだけで、そういった子たちが計算の工夫をするようになるわけではない、というところでしょうか。計算の工夫をせずに素直に計算する子たちは、計算の工夫を“しない”のではなく、計算の工夫が“できない”ことが多いからです。

うまく計算を工夫できるようになるためには、実は様々なハードルが存在します。たとえば次のような計算があったとします。

59+37+63

 この計算は、まず「37+63」の部分を計算するとちょうど100になるので、それに59を足して159、とすることができます。一方、正面から計算していくと、まずは59+37で96、それに63を足して159、という感じですね。普通に計算をしてもまったく不可能なわけではありませんが、繰り上がりのある計算を2回する必要があり、ミスが出てしまう危険性は「ちょうど100」をつくる計算より高くなってしまうでしょう。

こうやってそれぞれの“途中経過”だけを比べてみると、確かに“工夫”して計算したほうがずいぶん楽に見えますね。工夫せずに計算している子どもを見ると、なんで工夫しないんだろう、ともどかしく思ってしまうのも仕方ありません。

しかし、見落としてはいけないことが一つあります。それは、この計算の工夫をしようと思ったら、まずは「37+63がちょうど100になる」ということに気づかなければいけない、ということです。しかも、「式を見てから実際に計算に取り掛かるまでのわずかな時間」の間に、です。

あたりまえの話ですが、「計算を工夫することによって省くことのできる労力」を「計算の工夫を考えるための労力」が上回ると、本末転倒です。「37+63がちょうど100になる」ことがすぐに見えず、どこから計算しようかなと悩むくらいなら、頭から順に計算したほうが速い、という判断も、別にまちがいではないでしょう。しかも「工夫して計算しなさい」という問題であればまだしも、普通の問題を解いているときに出てくる計算は、「工夫できる」という保証もありません。工夫しようと考えたけどその方法が見つからず、結局普通に計算することになった、ということが何回かあれば、「工夫を考えるより、普通に計算したほうが速い」と思ってしまうのも仕方ないことだと思いませんか。

うまく計算の工夫をできるようにしていくためには、まず「計算の工夫を考えるための労力」を下げていく必要があります。今回の計算で具体的に言うと、「ちょうど100になるペアに気づく力」を鍛えることでしょう。そういった力も含めて、“数に対するセンス”が計算の工夫には要求されるのです。

さて、「足して100になるペア」を探す練習をして、そういったペアを探すのがある程度うまくなってきたとします。そこで、次のような計算をするとどうなるでしょうか。

59-37+63

 計算の後ろのほうに、「37+63」がありますね。しかし、ここを先に計算して「100」としてしまうと、59から100が引けなくて、「あれ?」となってしまいます。この計算の場合は、37は「引く数」で63は「足す数」なので、まとめてしまうことができません。先に37と63を足してしまうと、63も「引く数」になってしまうからです。

計算の工夫をするための次のハードルは、“計算法則”に対する理解です。計算の工夫をするとき、好きなように計算をしていいわけではありません。計算の方法を変えても計算の答えが変わらないようにしなければ、それはただの“まちがった計算”です。どういうふうな計算であれば、“正しい順番”で計算したときと答えが変わらないか、それがきちんと理解できていなければそもそも“計算の工夫”はできないのです。掛け算や割り算、カッコなどが出てくると、そもそも“正しい順番”で計算することさえ、ずいぶん難しくなってきます。その状態では、やはり「変なことをしてまちがうくらいなら、“正しい順番”で計算したほうがいい」という判断も、これまたまちがいではないでしょう。

最初の計算と今回の計算を見比べていただいてもわかる通り、見た目がほとんど同じように見えても“計算の工夫”が使えたり使えなかったりします。そういった細かい場合分けも含めて、“計算法則”についての理解を深めていくことが、計算を工夫する上では必要になるのです

計算の工夫に対するハードルは、それだけではありません。たとえば、次のような問題を解く場面を想像してください。

たろうくんは最初、59個のアメを持っていました。そこに、じろうくんが37個アメを持ってきました。さらにそのあと、たろうくんは63個のアメを買ってきました。さて、アメは全部で何個になったでしょう。

もし、式を書くことができれば、「59+37+63」となるので、「37+63を先に計算する」という工夫が使えます。しかしそれは、あくまでも“式を書けたら”という話です。多くの子どもたちにとって、問題を解くときに「どうやったら(どういう計算をしたら)問題が解けるか」という段階と「実際に計算して答えを出す」段階を分けることは、とても難しいことです。そのため、今回のような問題であれば、「59個から37個増えたから、まず59+37=96個。そこからさらに63個増えたから、96+63=157個」というふうに“計算しながら考える”のは、とても自然な流れです。しかしそうすると、「37+63」という計算はそもそも出てきていませんね。これでは計算の工夫ができるはずもないでしょう。

単純な計算問題以外で“計算の工夫”を使いこなすためには、一直線に答えに向かっていくのではなく、一度一歩引いて問題を俯瞰的にとらえ、まずは「どういう計算をするのか」を考える必要があります。それは、「答えを出すだけでいっぱいいっぱい」な状態の子には、なかなか難しいことなのです。

どうでしょう。「計算の工夫をする」というのはとても難しいことなのだ、ということを、ご理解いただけたでしょうか。数に対するセンスをみがき、計算法則についても深く研究し、個々の問題を余裕をもって解けるようになって、それでようやく自由に“計算の工夫”ができるようになるのです。

だからこそ、別に計算の工夫ができていなくても、それはそういうものなんだ、とぜひ思っていただきたいと思うのです。冒頭でも述べたように、「まずはうまくなくても自分のできる方法で答えを出す」というのは、遠回りなように見えて実はいちばんの近道です。確実に自分の力だと思えるものをひとつずつ積み上げていくことが、数や計算への理解に対する「自信」になります。そしてそれは、それらをもっと知りたい、もっとうまく計算したい、という「興味」にもつながるでしょう。

表面上、「計算の工夫ができているかどうか」というのは、算数の学習のなかでは些細な問題にすぎません。お子さまが算数に対して確かな積み重ねが得られるよう、そして好きになっていけるよう、ときに励まし、ときに頑張りを認めてあげながら、温かく見守ってあげてください


いかがでしょうか。

 早いもので、いつの間にか今年ももうすぐ終わってしまいますね。あっと言う間に1年間経ってしまったような気もする一方で、1年前のことを具体的に思い出してみれば、それは遠い昔のことのような気もして、それなりに充実していた1年間だったのかな、とは思います。来年も、またいろいろなことに挑戦しながら、ほどほどに楽しく過ごせたらいいな、と思います。皆様も、よいお年を。

 それではまた来年!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

「算数のセンス」の具体的な中身を知りたい方はこちら

『できる子供は知っている 本当の算数力』(日本実業出版社)
試行錯誤しながら、計算や図形のセンスを鍛えていきたい方はこちら

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル』(幻冬舎エデュケーション)

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル 図形編』(幻冬舎エデュケーション)

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル 基礎』(幻冬舎エデュケーション)

中学入試の問題の内容や、その本質が気になる方はこちら

『本当はすごい小学算数』(日本実業出版社)

 

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