だしいらずのトマトみそ汁&アスパラの塩びたし

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

※本記事は、2020年4月23日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

素材のうま味でだし不要のおみそ汁とおひたしを作ろう

 だしの効いた汁物を飲むと、口のなかにまろやかな味が広がって、なんだかホッとするような幸せな気持ちになりますよね。そんなだしのおいしさの鍵となるのが「うま味」という味です。
私たちは甘味、塩味、酸味、苦味、そして「うま味」という5種類の味の組み合わせによって食べものを味わっています。うま味は、甘味や塩味と並び、私たちに心地よさや満足感を与えてくれる味。料理をおいしくするだけでなく、うま味を効かせることにより、糖分や塩分を控えてももの足りなさを感じにくくなるなど、健康への効果も期待されています。

そんなうま味を多く含む食材として代表的なのが昆布やかつお節などのだし食材なのですが、実は、うま味が豊富な食材はほかにもあります。これらを上手に活用することでうま味たっぷりの料理を作ることができます。
今回は「うま味」の活用方法と、素材のうま味を活かしただしいらずのおみそ汁とおひたしの作り方を紹介します。

 

ものを食べると、食べものに含まれる味物質が口のなかの「味細胞」という細胞を刺激し、脳に信号が送られることによって味として知覚されます。たとえば、果糖やブドウ糖などの糖分は甘味を、食塩が水に溶けてできるナトリウムイオンは塩味を感じさせます。うま味を感じさせる成分としてよく知られているのは、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の3種類の物質です。

 

 

グルタミン酸は昆布に多く含まれる成分。このほかに、チーズやみそ、しょうゆなどの発酵食品や、トマト、アスパラ、ブロッコリー、白菜、菜の花などの野菜にも多く含まれています。イノシン酸はかつお節に多く含まれていて、一般的に肉や魚に豊富な成分です。グアニル酸はキノコに多く含まれ、とくに干し椎茸や乾燥ポルチーニのように、一度乾燥させたものからより多く抽出されます。

うま味食材を料理に活用する際に押さえておきたいポイントは、組み合わせて使うことです。うま味成分は「グルタミン酸とイノシン酸」または「グルタミン酸とグアニル酸」という組み合わせで使うと、うま味が最大で7〜8倍に増して感じられます。これを「うま味の相乗効果」といいます。たとえば、肉や魚にトマトソースをかけて食べるとおいしいですよね。また、一般的に和食のだしは、昆布とかつお節の合わせだしというように組み合わせて使われることが多いですが、これは昔の人がうま味の相乗効果を経験的に知って活用していたのでしょう。

 

塩昆布や粉チーズ、ツナ、ベーコンなど、比較的保存が効くうま味食材は常備しておくと便利です。ブロッコリーをツナと一緒に炒める、魚のホイル焼きに塩昆布を加える、など様々な組み合わせで使えます。また、塩昆布とツナを合わせれば、これだけでうま味の相乗効果になるので、パスタに絡めたり、ゆでた野菜と和えたり、お米と一緒に炊飯器に入れて炊き込みご飯にしたりしてもおいしいです。
ゆで汁もうま味食材として使えます。うま味の多い野菜をゆでる際には、少なめのお湯でゆでるとゆで汁がうま味の濃い野菜だしになります。ここにかつお節を少量加えて、アスパラやブロッコリー、菜の花などをひたしておくだけで簡単におひたしができるのでぜひ試してみてください。ゆであがった野菜を冷ます際には、流水にさらすとうま味が流れてしまうので、余熱を考慮して早めに取り出し、ザルの上であおいで冷ますと良いでしょう。

 

「うま味」を上手に活用するには……

だし食材以外にも、うま味が豊富な食材を組み合わせて利用する!

ミニトマトのイタリアンMISOスープ

 

■材料(2人分)

玉ねぎ 1/4個
ミニトマト 4個
椎茸 2個
水 300mL
みそ 大さじ1
粉チーズ 小さじ1〜2程度
黒胡椒 少々

1.材料を切る
ミニトマトはヘタを取って洗い、半分に切る。

玉ねぎは繊維と直角の向きに薄切りにする。
椎茸は石づきを切り落とし、薄切りにする。

2.煮る
鍋に水、玉ねぎ、椎茸を入れて火にかける。沸騰したら火を弱めてしばらく煮る。
玉ねぎに火が通ったらミニトマトを加え一煮立ちさせる。
みそはおたま1杯分程度の煮汁を加えて溶いておく。

3.仕上げ
ミニトマトがやわらかくなったら菜箸やおたまで軽くつぶし、といたみそを加えて火を止める。
器に注ぎ、粉チーズ、黒胡椒をふってできあがり。

 

アスパラの塩びたし

■材料(2~3人分)
アスパラ 4本
塩 小さじ1/2
水 200mL
かつお節 ひとつまみ(1g程度)

1.アスパラの下ごしらえ
アスパラは根元の硬い部分を2cmほど切り落とし、根元側の皮を3〜4cmほど剥く。
食感が気になる場合(鮮度が落ちているものなど)ははかまも取り除く。
なお、この時に取り除いた部分(根元、皮、はかま)は4で使うので捨てずに取っておく。

2.切る
アスパラは1cm幅程度の斜め切りにする。

3.ゆでる
鍋に水200mLと小さじ1/2弱の塩を入れて火にかける。沸騰直前で火を止め、2のアスパラを入れて1分置いたらザルに取り出して冷ます。(ゆで汁は捨てずにとっておく)
この際、水にはさらさず、平ザルや大き目のザルに広げ、あおいで冷ますこと。

 

4.アスパラだしをとる
1で切り落としたアスパラの根元は薄切りにする。
3のゆで汁にアスパラの皮や根元、はかまを入れて火にかけ、沸騰したら弱火で5分煮る。ゆで汁をザルでこして粗熱をとる。

 

5.ひたす
ゆで汁が十分冷めたら、容器に3のアスパラとかつお節を入れ、上からゆで汁を注ぐ。
15分〜一晩ひたして出来上がり。

冷蔵庫でキリッと冷やして食べるとジューシーでおいしいです。

 

 うま味という味が発見されたのは約110年前のこと。それまで、味覚として感じられる味は甘味、塩味、酸味、苦味の4種類であると考えられていました。
1908年、日本人の池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸を抽出し、その味を「うま味」と名付けました。赤いパッケージでおなじみのうま味調味料「味の素®」はこの発見をもとに開発されたものです。その後、日本人研究者らによりかつお節のイノシン酸や、干し椎茸のグアニル酸がうま味成分であるということも明らかになりました。
池田博士の発見後も「うま味は全体の味を増幅するだけで独立した味ではない」など、「うま味」という味覚の存在について懐疑的な意見も多くあり、一つの独立した味覚として認められるまでには長い時間がかかりました。しかし、2000年には舌の味細胞にグルタミン酸を検知する部位があることが発見され、現在では、第5の味覚「UMAMI」として国際的にも認められています。近年では日本食ブームとともにうま味やだしの概念が海外の料理人たちにも注目されるようになり、活用が広がっています。

 

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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