式や図をかくこと

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどく、かつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

※本記事は、2018年~2022年に「Z-SQUARE」上で連載していた記事を一部修正の上、再掲しています。

こんにちは、最近「サブスクリプション」に興味のある小田です。月々いくらで動画が見放題、とかいう感じのやつです。とくに動画配信サービスについては、ひとりで作業をしているときにBGM代わりに動画を流したりもしているので、何か契約してみようかな、とは考えているのですが。しかし動画配信サービスってサービスごとにオリジナルのコンテンツがあったりするので、どのサービスを選ぶのか、というのは結構迷いどころです。しっかり考えないと、結局あれもこれも、ということになってしまいそうです。

さて、今回のお悩みは「式を書くこと」についてです。2019年11月号「字をていねいに書く、ということ」で「子どもが字をていねいに書かない」というお悩みに対して「大丈夫ですよ!」とお答えしたかと思いますが、今回は「子どもがちゃんと式を書かない」というお悩みに対して「大丈夫ですよ!」とお答えしていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み24:式や図をかくこと

小6のわが子は、「算数の文章問題を解くときに、式を書かない」のです。「字が雑で計算まちがえが多い」と同じくらい困っています。解答欄に「式」欄があるときはいいのですが、答えだけ書くような問題はほとんど式を書きません。頭の中で式を立てて、余白に筆算だけ書いて解いています。

親としては、よく式も書かずに解けるな、途中でわからなくならないのかな、と不思議で不思議でたまりませんが、「式を書いて解け」と何度言っても書きません。そして式を書かないからか、まちがえることが多いです。問題を後から復習するときも、式を書いていないので、どこでまちがえたのかがよくわかりません。

筆算もあちこちに散らばって書いているので、この問題の筆算がどこに書いてあるのかを探すのも一苦労です。何個も式を書かなくても、頭の中で解けてしまえるからなのでしょうか。だったらまちがえずに解いてほしいし、それができないのなら式を書いてほしいのですが、「字が汚い」問題と同じように、「式を書かない」理由があるのでしょうか。もう数年モヤモヤしています。(小学6年生・保護者)

 

さんすう力UPのポイント

2019年11月号「字をていねいに書く、ということ」で「子どもが字をていねいに書かない・書けない」というお悩みに対して、「そんなもんです! 大丈夫ですよ!」という趣旨のお答えを返したところ、今回のようなお悩みをいただきました。確かに、似たようなお悩みですね。さらにもう一つ、次のようなお悩みもいただきました。

算数の文章題を解くときに、線分図などの図がかけません。問題を読んで、頭で考えたり、キーワードや数字を書き出したりはしていますが、それを図にできないので、解くのに時間がかかったり、まちがえてしまったりします。よく、低学年のうちにしっかり図や絵に表して解けるように、と聞きますが、6年生ではもう遅いのでしょうか。今後、算数から数学に進んで、内容が複雑になっていくうえで、まだ間に合うような対策がありましたらご助言いただきたいです。(小学6年生・保護者)

こちらも、同じ系統のお悩みです。「字をていねいに書く」ということもそうですが、「式を書く」「図をかく」ということも、一般的には「算数ができるようになるためには必須」というイメージがありますよね。ただ、やはり一度考えてほしいのは、それは本当に正しいのかということです。

実はこの「式や図をかくこと」についてのお話は、2019年2月号「図や式の書き方」にも書いたことなので、大筋でそちらと同じような話にはなってしまうのですが、「式や図は必ずしもかかなければいけないものではない」「式を書け・図をかけ、という指導はマイナスになることもある」というのが、私の中での結論です。

「字を丁寧に書く」のときにも似たようなお話をしましたが、「式を書く・図をかく」ということも、実際にはそれなりに面倒なことであり、「やろうと思えば簡単にできるはずのこと」ではありません。頭の回転速度に手の動く速度が追いつかない“子ども”にとって、式や図をかくということも、実は「思考を止める作業」に他なりません。式や図をかかない理由というのは、根本的には「思考を止めてまでかくメリットがない(と思っているから)」ということに尽きるのです。

式や図をかくかどうか、というのは、単純にコストパフォーマンスの問題です。「式や図をかかなくてまちがえる」こともあれば、その逆で「式や図をかくことにこだわりすぎて、思考がズレてしまってまちがう」ということだってあるのです。結局のところ重要なのはバランスであり、かくべきところでかき、かかなくていいところはかかない、という判断でしょう。そしてもちろん、その判断基準はその子その子によって違います。式や図をかくためにかかるコストが人によって違うのはもちろん、頭の中で進められる思考の容量が大きいほど、式や図をかくメリットも小さくなります。的確に判断していくためには、その子自身が自分の能力と向き合い、判断基準を設定していく必要があるでしょう。「式や図をうまくかけるようになる」というのは、癖や習慣の問題ではなく、思考を止めるデメリットと式や図をかくメリットとを冷静に比較する、いわば「技術」であり「判断力」なのです

ある程度複雑な問題になってくると、式や図をかくメリットは、それらをかくコストを大幅に上回るでしょう。その意味では、いずれにしてもどこかの段階で身につけておきたい技術のひとつであることは、まちがいありません。しかしだからといって、単に「式を書け」「図をかけ」と言う“だけ”の指導では、逆に「式を書くだけ」「図をかくだけ」の思考停止に陥る危険があり、マイナスになってしまうこともあり得ます。単純な問題で無理に式や図をかかせることを強要し、「式や図をかくことは面倒なことだ」と思わせてしまっては本末転倒なのです。

「式や図をかくための指導」で大事になるのは、「それらをかくメリットを正しく伝える」ことと「それらをかくコストを下げる」ことです。2019年2月号「図や式の書き方」にも書いたことですが、まず、「式や図をかくメリット」というのは、よく言われる「他人に伝える」ことでも「あとから振り返る」ことでもありません。それらは大事ではないとは言いませんが、今まさに問題を解こうとしている子どもにとってのメリットではないからです。問題を解いている子どもにとって、目標はまず正しい答えを出すことです。その意味では、「正しい答えを出すことに直結する」ことしかメリットにはならないのです。そのメリットを意識してもらうためには、ある程度複雑な問題に対して、どういうふうに整理をすれば「解くための重要なヒントが見えやすくなるか」「解いている途中での混乱が少なくなるか」を具体的にその都度提示してあげる必要があるでしょう。そういった具体的な「かき方」がわかってくると、「どういうふうにかけばいいか」がわかってくるので、式や図をかくためのコストも下がってきます。そうやって少しずつその子にとっての武器が増えていけば、「式や図をかくかどうかの判断」も楽になってくるでしょう。

いずれにしても、2019年11月号「字をていねいに書く、ということ」で書いた通り、この手のことで一番大事になるのは結局のところ「勉強を“自分事”にできるかどうか」です。式や図をかかずにまちがえてしまう、というのは、単純に判断のミスであることが多いです。一つひとつの現象を見れば、「それはそういうこと(まちがうこと)もあるよね」という話であって、別に心配する必要はありません。ただ、そのときに勉強が“自分事”になっていれば、その判断基準を修正しようとすることもあるでしょう。本心から自分のために「もっとできるようになりたい・正解を出せるようになりたい」と思っていれば、「まちがえた経験」さえも、先に進んでいくための糧とすることができるのです

周りのオトナにできることは、子どもの成長を温かく見守り、子ども自身の考えていること、感じていることを承認してあげることだけです。別に式や図をかかなくても、子どもは子どもなりにいろんなことを考えています。まずはそれをしっかり見てあげて、そして大事にしてあげてほしいな、というのが、私からのお願いです。そして、そうすればいつかあなたのお子さんもしっかり成長していきますよ、というのが私から伝えたいことです。


いかがでしょうか。
今年度最後の記事ということですが、こちらのコーナーは今回で一度ひと区切りとさせていただきます。2年間、お付き合いいただき、ありがとうございました。新年度からは、今までの低学年の保護者の方向けの記事をベースに、今度は全学年の保護者の方向けに「問題の紹介と解説」というスタイルでやっていこうかと思います。

「お悩み相談」とタイトルのコーナーではありましたが、結局毎回「大丈夫ですよ!」としか言っていない気もしますね。しかし、これは実はこのコーナーを通して一番伝えたかったのですが、「このままでこの子本当に大丈夫なのかな?」と思う子は、まずほぼ100%、いい意味で「このままではない」ので大丈夫です。私もいろいろなお子さんを見させていただきましたが、どんな子でも時間がたてばいずれ成長していきます。世の中には「~~ができないといけない!」「~~な子は将来困る!」といった煽るような言説があふれていますが、それらも実際には全部ケースバイケースです。むしろ、それらに振り回されて、「将来困るだろうから今こういうふうにやらせなきゃ」と無理にやらせると、逆効果になってしまうことの方が多いです。

算数・数学は難しいです。簡単にできるようになるものでもありません。それに立ち向かっていく子どもたちは、それだけですごいと思いませんか。そんな勇気ある子どもたちが、安心して算数・数学に立ち向かえるよう、保護者の皆さまにはぜひお子さんの成長を信じ、温かく見守っていただけたらな、と思います。

それではまた来月!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

「算数のセンス」の具体的な中身を知りたい方はこちら

『できる子供は知っている 本当の算数力』(日本実業出版社)
試行錯誤しながら、計算や図形のセンスを鍛えていきたい方はこちら

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル』(幻冬舎エデュケーション)

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル 図形編』(幻冬舎エデュケーション)

『東大文の会式 東大脳さんすうドリル 基礎』(幻冬舎エデュケーション)

中学入試の問題の内容や、その本質が気になる方はこちら

『本当はすごい小学算数』(日本実業出版社)

 

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