「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
じゃがいもだけでもっちり! 材料1つの芋餅レシピ
一般的なレシピでは片栗粉で粘り気やもちもち感を足すことが多いですが、実は片栗粉なし、じゃがいもだけでも作ることができます。ポイントはじゃがいものつぶし方。マッシュポテトやポテトサラダなど、じゃがいもをつぶして作る料理では食感よく作るため「熱々のうちに」「すったり練ったりせずに押しつぶす」ように言われることが多いですが、今回はあえてセオリーに逆らって「冷めてから」「よくすりつぶす」のがコツです。
週末のおやつに、お子さんと一緒にじゃがいもをすりつぶしてみるのはいかがでしょうか? 熱々のうちにほっくりとつぶしたものと、冷めてからすりつぶしたものとを食べ比べてみるのもおもしろいですよ。
じゃがいもだけで作る芋餅
材料(8〜10個分)
- じゃがいも 3個
- 油 適量
1.じゃがいもをゆでる
じゃがいもは洗って、芽があれば取り除く。
皮付きのまま鍋に入れ、かぶるくらいの水を入れて火にかける。
沸騰したら火を弱め、柔らかくなるまでゆでる。
2.粗熱をとる
じゃがいもに串がスッと通るくらいやわらかくなったら取り出す。
清潔な布巾などを使って熱いうちに皮をむく。
すり鉢に入れてすりこぎでざっくりとつぶし、そのまま粗熱をとる。
途中で一度上下を返し、余分な水分を蒸発させる。
3.すりつぶす
人肌程度まで冷めたらすり鉢とすりこぎでよくすりつぶす。
10分ほどするとだんだん粘りが出てくる。
ポテトサラダやマッシュポテトを作る際には、じゃがいもを「熱いうちに」「すったり練ったりせずに押しつぶす」のが食感よく仕上げるコツと言われています。これは、じゃがいもの細胞が壊れて、細胞内のデンプンが外に出るのを防ぐためです。
じゃがいもはたくさんの細胞が集まってできています。これらの細胞のなかには、デンプンの粒が養分としてため込まれていて、加熱すると水を吸って膨らみ、糊化します。つまり、糊のように粘り気のある状態になるわけです。
集まった細胞同士はペクチンという成分によって接着されています。じゃがいもを加熱すると、細胞同士を貼り付けていたペクチンが溶けてやわらかくなり、また、デンプンが膨らむことで細胞も膨らんで互いを押し合うので細胞同士が離れやすくなります。しっかりとゆでたじゃがいもにマッシャーなどで力を加えると簡単につぶれるのはこのためです。
加熱してから時間が経ち、じゃがいもが冷めてくると、再びペクチンが固まり、細胞同士が離れにくくなります。これを無理やりつぶそうとすると、細胞の膜が破れてデンプンが外に出てしまいます。デンプンが流出すると、糊のような粘り気が出るので、ポテトサラダがベタベタしたり、マッシュポテトの口溶けが悪くなったりするのです。
一方、今回紹介する芋餅のレシピは、あえてセオリーとは逆のことをします。じゃがいもが十分に冷めてから無理やりすりつぶし、細胞内のデンプンを外に出します。こうすることで、生地をまとめてもちもち感を出すための粘り気を引き出します。
4.形を整える
3を8〜10等分し、円盤型に形を整える。スプーンですくって、濡らした手にとって丸めると手につきにくい。
5.焼く
フライパンにサラダ油またはバターを入れて熱し、4を並べ入れる。両面にきつね色の焼き色がつくまで弱火で焼いてできあがり。お好みで砂糖醤油や塩をつけて食べる。
・味噌汁の具にしてもおいしいです。長時間加熱すると溶けてしまうので、仕上げに入れて少し温めるくらいにしましょう。
片栗粉って何の粉?
片栗粉を使った芋餅は、使わないものに比べると、デンプンが多い分もちもちとして、よりお餅に近い食感になります。じゃがいもの持つ甘みや香りをじっくり味わうならじゃがいもだけ、お餅のようなもちもち感を味わうなら片栗粉を少し加えて作ってみてください。
次回は「豚肉の生姜焼き」のレシピと科学ポイントについて解説いたします。お楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。