どう変わった? 小学校の外国語教育

新しい学習指導要領のもとで、2020年度から小学校中学年(3・4年生)では「外国語活動」が、高学年(5・6年生)では教科「外国語」が始まりました。これによって小学校での外国語(英語)の教育内容はどう変わったのでしょうか。学習指導要領改訂の意図や、小学校4年間でつけられる英語力について、文部科学省で小学校の外国語教育に関する教材開発や指導法の普及・推進などに幅広く取り組まれている直山木綿子さんにお話をうかがいました。

※本記事は、2021年2月25日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

中学年の「外国語活動」と高学年の「外国語」、なぜ始まった?

――2020年度からの新しい学習指導要領のもとで、中学年で新たに「外国語活動」が始まり、高学年は「外国語活動」ではなく教科として「外国語」を学ぶこととなりました。なぜこのような改訂がなされたのでしょうか?

その経緯・背景を説明するにあたり、まずは、小学校で外国語教育が始まった経緯を説明しますね。
小学校における外国語教育は、2011年度に施行された学習指導要領において、高学年に「外国語活動」が導入されたのが始まりです。日本も、外国の人たちとともに働き、生活することがあたりまえの社会になりつつありました。このようなグローバル化の時代において、外国語教育の充実は不可欠なものだという考えがあって、導入に至ったわけです。

このときに、いわゆる「教科」ではなく「活動」として導入された理由は、「教科」として学ぶ前に、そこに親しみ体験を重ねる「活動」があるべきだという考えからです。国語や算数などほかの教科は、小学校で学ぶ前に、たとえば歌を歌ったり、遊びの中で数を扱ったりといった体験を十分していますよね。にもかかわらず、英語だけは体験なしにいきなり中学校から教科として学ばなければならなかった。そこで、小学校高学年で英語の音声に慣れ親しみ、英語でコミュニケーションを図る「活動」をした上で、中学校から「教科」として学ぶのがよいだろうということになったのです。

 

――2011年の改訂から10年近く経って、2020年度の改訂で、「外国語活動」は中学年で行うこととなり、高学年は教科として「外国語」を学ぶこととなったのはどのような意図からでしょうか?

「外国語活動」は、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ、外国語でコミュニケーションを図る意欲を高めることがねらいであり、子どもたちはすごく楽しみました。ところが、6年生の後半にもなると、「すぐに忘れてしまう」「これをやって何になる?」など、だんだんとフラストレーションを持った感想が聞こえてくるようになったんです。

なぜかというと、積み上がりを感じられないから。「外国語活動」は、知識や技能の定着を第一のねらいにはしていません。外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむことが第一のねらいなので、慣れ親しんだ語句や表現が積みあがっていかないことは致し方ありません。ただ、そうなると、「その表現は何度も聞いたのに、いつまでたっても言えない・出てこない」と、積み上がりのなさに子どもたちはフラストレーションがたまってくるんですね。

このような課題が見えてきたため、5・6年生という抽象思考がより発達してくる段階においては、「教科」としてきちんと知識を定着させていくことが子どもたちの知的好奇心にも合うだろうと判断し、今回の学習指導要領では外国語を「教科」としたのです。また、授業時数については、知識・技能の定着を目ざすべく、週2コマ相当、年間70時間としました。

そして、「教科」の前に「活動」を経験しておくことは教科の力をつける上で有効だとこの10年弱でわかりましたから、3・4年生で外国語活動を週1コマ、年間35コマ行うこととしました。

このように小学校における外国語学習の期間を長くとったことで、中学校以降の学習がより豊かなものになると考えています。滑走路を長くすることで飛行機はより遠くまで飛べるようになる。そんなふうにイメージしていただくといいかもしれません。

 

「外国語活動」と「外国語」、それぞれ何を学ぶ?

――では、具体的に、小学校ではどのように学んでいくのでしょうか?「外国語活動」と「外国語」、それぞれの目標や学ぶ内容などについて教えてください。

外国語活動と小学校外国語科、中学校外国語科、高校外国語科のそれぞれの目標の共通点と相違点をご説明しますね。

【資料】学習指導要領が定める「外国語活動」と「外国語」の目標の比較

学習指導要領が定めているそれぞれの目標を比較すると、共通点が2つあります。1つめは、「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ」。2つめは、「言語活動を通して」という部分です。これは、言語活動を通して力をつけることを意識して指導するよう、小中高で一貫性のある目標を設定しているということです。

一方、相違点として、中学年は「聞くこと、話すこと」の2技能ですが、高学年以降になると「聞くこと、話すこと」に「読むこと、書くこと」を加えた4技能を育成することを目指すとされています。

人間の言語習得のプロセスは正確には解明されていませんが、乳幼児期に周囲の言葉をたくさん聞いて、やがて1語を発し、だんだん話す言葉が増え、そして読んだり書いたりできるようになることが経験知としてわかっています。

そこで、中学年の外国語活動でも、まずはたくさん聞くことを大事にしています。聞いて、聞いて、そのうちに話せるようになる。それを、1語から2語、2語からフレーズ、フレーズから文へと発展させていきます。そして、抽象思考が発達する高学年で、教科として知識の定着をめざすともに、読むことや書くことにも取り組みます。

私自身、高学年で外国語活動を行っていたときに、子どもたちにだんだんと「読みたい」「書きたい」という思いが出てくることを目の当たりにしました。読んだり書いたりといった取り組みは、「頑張った証がほしい」という子どもたちの思いや興味・関心に応えることになりますし、学習の成果を可視化することにもなります。また、正確さを身につけていく上でも有効です。

 

――とはいえ、子どもたちは耳慣れない言語を新たに学ぶことになります。学習指導要領においては、子どもたちをどのように動機づけするのがよいとされているのでしょうか。

子どもたちはとっても正直ですから、「必要ないことはやりたくない」と考えます。そして、必要性の判断は、学年が低いほど「楽しいか楽しくないか」に基づいてなされると思います。

だから、授業は絶対に楽しくないといけません。そして、その楽しさは、‘fun’から‘interesting’に変わっていくものであるべきだと考えます。

中学年の段階では、「日本語と異なる音がおもしろい」「なぜかわからないけど英語のフレーズが言えた」「友達と英語で話したら、友達と同じものが好きなことがわかった」など、‘fun’の側面が強い楽しさを重視します。

そして、高学年に進んでいくと、徐々にその楽しさは知的好奇心をくすぐるもの、すなわち‘interesting’なものに変わっていきます。さらに、中学校、高校になると、題材がもっと社会的・時事的なものになり、発達段階に応じた興味・関心や知的好奇心を高めていくことになります。

このように、子どもたちが「楽しい」「おもしろい」と思うこと、そして、‘fun’から‘interesting’に変わっていくことが、子どもたちの「英語を使ってみたい」という動機づけに一番大事だということを、小学校の先生も、中学校・高校の先生も意識して指導しています。

 

――‘fun’や‘interesting’を生むために、どのような指導がなされるのでしょうか?

中学年では、まず英語を使って相手を知る楽しさから入っていきます。たとえば、“What color do you like?”と質問をして“I like blue.”と返事があると、「この人、私と同じ色が好きなんだ!」といった発見があるかもしれませんよね。これが‘fun’の一例です。

そして、高学年では、中学年では聞いたまま繰り返していた表現に対して、文構造や発音のルールなどが分析的に見えてくるよう指導します。たとえば、“What color do you like?”“What fruit do you like?”“What sport do you like?”が全部同じ構造だと気づかせるわけですね。これは‘interesting’で、知的好奇心を刺激された子どもたちは次第に「もっと話したい」「書きたい」という意欲も抱くようになります。

また、高学年では何ターンものやり取りを行います。“What color do you like?”から始まる場合、たとえば以下のようなやり取りになります。

———————————-

A:What color do you like?「何色が好き?」
B:I like blue.「青が好きだな。」
A:Wow! You like blue? I don’t like blue. I like red. Do you like red?
「わあ,青が好きなの?わたしは青は好きではないの。赤が好き。あなたは赤が好き?」

———————————-

こうしたやり取りをすることで、言葉が相手をよりよく知るためにあることがわかってきます。これも、‘interesting’につながる大事な要素です。

 

評価はどんなふうに行われる?

――子どもたちに対する評価はどのような観点で行われるのでしょうか?

小学校では、外国語は、教科として数値等による評価を行います。今の学習指導要領のもとでは、小学校、中学校、高校とも、また、英語だけでなくどの教科も、次の3つの観点に基づき、それぞれの観点の趣旨の⼒が⾝についているかどうかを評価することになっています。

「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」

先生方は、この3つの観点に沿って1人ひとりの力を見取り、最終的に総括して、指導要録や通知表に評価を記します。たとえば3段階評価で2であれば、目標がおおむね達成されていますよということです。つまり、評価は、あくまでその段階でお子さんがどこまで力がついているかを示すものであって、「できる子/できない子」といった、品定めやレッテル貼りをするためのものではありません。

したがって、最高評価でなかったなら、どこかにまだ伸ばせる力があり、そこを頑張ればより上の評価になるんだと保護者の方には受け止めていただきたいです。先生方も、たとえば、「今回、外国語で2ということは、目標がおおむね達成できているということで、授業中も一生懸命学習に取り組んでおられます。そして、思考・判断・表現の観点での学習がもっと深くなるといいですね。そのためには、何のために、誰に伝えるのかを考えて、伝える内容やこれまでに学んだ語句や表現のどれを使えばよいかを自分で考えて伝え合うことを意識してみましょう。」などと説明してくださっていることと思います。

 

――成績を見て「判定結果」のように受け止めてしまうのではなく、これから伸ばすべき点が示されているものと受け止めるべきなのですね。それでは、保護者は、子どもの英語学習にどのように寄り添うのがよいか、アドバイスをお願いします。

保護者の皆さまにぜひお願いしたいことが2つあります。

1つめは、保護者の方も一緒に英語学習を楽しんでほしいということです。そのためには、子どもに相対するのではなく、横に並んで、テレビやパソコンで英語のコンテンツを一緒に視聴する、英語の絵本を一緒に読むなどして、ともに学ぶ姿を見せることが大事です。それが、お子さんのやる気を喚起することになりますから。

2つめは、言語は間違いながら習得していくものであること、また、身につけるには時間がかかるものだとよくよく理解することです。私たちは皆、間違いながら母語を習得してきました。間違って、間違って、間違って、年数をかけて正しく使えるようになった。なのに、英語になるとはじめから正確さを求めがちです。それは無理な話ですよね。

この2点を忘れず、お子さんの英語学習に寛容に寄り添っていただきたいと思います。

具体的な授業の様子や、今回の学習指導要領のねらいなどについては、文部科学省のYouTubeチャンネル内の動画でも紹介していますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。現場の先生方も、私たちも、公教育の中で英語の力を十分につけられるよう取り組んでいるので、温かく見守っていただければと思います。小学校の先生は、とっても頑張っています!

■文部科学省YouTubeチャンネル「YouTube MEXT ch」

[なるほど!小学校外国語①]言語活動

[なるほど!小学校外国語②]読むこと 書くこと

[なるほど!小学校外国語③]学習評価

[なるほど!小学校外国語④]教材の活用

 

保護者の方のよくあるお悩みQ&A

ここからは、小学生の保護者の方からZ会によく寄せられる、英語学習に関するお悩みに対して、直山さんにご回答いただきました。

Q <文法の誤りを正すべき?>

子どもが話す英語を聞いていると、複数形の‘s’が抜けていたり、冠詞が抜けていたりと、文法の理解が怪しく見えます。都度、声かけをした方がよいのでしょうか?

A 誤っていると教えることは悪いことではありません。
 ただし、言い方に注意。

保護者の方がお子さんの間違いを正すことはまずいことではありません。ただし、言い方には注意が必要で、子どもが否定された気持ちになる言い方は控えたほうがいいですね。たとえば、お子さんが“I like apple.”と言った場合は、頭ごなしに正すのではなく、“Wow, you like apples. I like apples, too.”などと、お子さんが自分で気づくことができるように、さりげなく‘s’が必要だと伝えることをおすすめします。

 

Q <小学校での英語授業に不安があるのですが…>

小学校の先生には、英語教育の専門家ではない先生もいると思います。正しい発音や文法を教えてもらえるのでしょうか?

A 先生たちは、英語を使おうとする姿勢のモデル。
一緒に力をつけていく存在として見てほしいのです。

今一度、小学校の外国語教育では何を教えるのか?というところに立ち返っていただきたいと思います。

子どもたちの「英語って楽しいな、使ってみたいな」という思いを耕すのが小学校の外国語教育であって、先生は、その大きな味方になる存在です。確かに、発音の流暢さに欠ける先生もいるかもしれません。けれど、どの先生も臆することなく、ALTなどと英語でコミュニケーションをとろうとしています。

その姿を見た子どもたちが「ALTみたいな発音ではないけれど、あんなふうに話せば伝わるんだ」と感じ、英語を使おうとするモデルとして認識することが、子どもたちの背中を押すわけです。こうした先生方の姿勢が子どもたちに与える影響を、保護者の方は温かく見守っていただきたいと思います。発音の面は心配せずとも大丈夫です。子どもたちには、ALTやデジタル教材の音声など、発音のお手本になるものがたっぷりありますから。

 

Q <学校+αで英語を学ぶことをどう思う?>

学校以外でも英語を学ぶことについて、どのように考えますか?

A お子さんにもっとやってみたいという意欲があるなら、止めることはありません。

機会があるのなら、また、お子さんにやる気があるなら、学ぶこと自体はいいことだと思います。私も、小学4年生から希望して英会話教室に通い、英語でやり取りをする楽しさを知りましたし、発音が磨かれたことで、中学の英語の授業で音読をほめられ、すごくうれしかった経験があります。本人に意欲があるならそれは喜ばしいことなので、止めることはないと思いますよ。

ただし、私たちとしては、公教育の中で十分な英語教育を受けられるように学習指導要領をつくっていますし、先生方も責任を持って指導するので、そこは安心していただきたいと思います。

――最後に、主に小学生のお子さまをお持ちの保護者の方々に向けてメッセージをお願いします。

小学生の子どもたちは、この先長く続く外国語習得の助走期間にいます。将来、お子さまが遠くへ飛び立つには、子どもたち自身の意欲を耕すことがいちばん大切です。保護者が無理強いをしたり、成果を焦ったりすることなく、「英語が使えると楽しいね!」と、できるようになった喜びをお子さまと一緒に味わっていただきたいですね。そうした保護者の方の支えがあってこそ、お子さまの英語力はどんどん伸びてゆくことでしょう。

――今回は大変参考になるお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。

 

 

直山 木綿子(なおやま・ゆうこ)


文部科学省 初等中等教育局 視学官
国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 教育課程調査官・学力調査官

英語科教諭として京都市の中学校に勤務後、1998年度より京都市立永松記念教育センター(現京都市総合教育センター)に勤務。京都市における小学校英語指導計画、教材を作成、小学校外国語活動のカリキュラムを開発。2009年4月より文部科学省へ。小学校の外国語教育用教材『Hi, friends!』『We Can!』『Let’s Try!』の開発・活用や、全国各地での研修や講演など、日本の英語教育の充実と推進に日々邁進する。

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