おうちで季節の行事を楽しもう ~2021年も笑顔で過ごす

外出自粛、休校、行事の縮小や中止……。2020年は自宅で過ごすことを余儀なくされた1年といえます。「親子ともどもストレスがたまった」というご家庭も多いのでは。
年が改まっても、引き続き三密を避ける新しい生活様式が求められることでしょう。でも幸い、日本には遠出をしなくてもできて生活に彩りを加えてくれる四季折々の行事がたくさんあります。家族で行えばおうち時間が楽しくなるはず。
『しばわんこ』シリーズでおなじみの絵本作家の川浦良枝さんに、家庭での行事の親しみ方を教えてもらいました。

※本記事は、2020年12月24日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

四季折々の日本の行事。暮らしを守りたいという願いが……

――『しばわんこ』シリーズで、和の行事や風習を数多く紹介されていますね。日本人の暮らしに、行事はどのような意味を持つとお考えでしょうか。

絵本を書くためにいろいろと調べていくと、日本には四季それぞれに対応した行事があることに気づきます。桃の節句や端午の節句など季節の変わり目に祝いごとや願いごとをしたり、花見や月見などそのときどきの風情を味わったりしますね。

わたしは研究者ではないので私見になりますが、このように行事を持つのには2つの理由があると思っています。

――理由とは?

まずは、生活にメリハリをつけること。昔は行事のときにだけ華やかな着物を身に着けごちそうを食べてパッと発散した。この楽しみが、普段の労働とつつましい生活を支えていたのだと思います。

そしてもう1つ、災厄や病気から命や安全な暮らしを守るという目的も大きかったのではないでしょうか。

たとえばおひな様は、本来は自分にかかる禍を形代(かたしろ)というお人形に移して流す行事でした。端午の節句に菖蒲湯に入るのも、旧暦の5月という梅雨の時期に、殺菌作用のある菖蒲のお風呂に入って病気を防ごうという意図だったと思われます。

夏祭りや秋祭りにも、住民が集まって地域の顔ぶれをお互いに理解し合い、いざというとき助け合えるようにするという目的もあったように感じます。

これは日本に限ったことではありませんが、行事とは目に見える形で地域の文化やものの考え方を示すものですね。その土地なりの華やかさとかつつしみのある振舞い方とか。行事の意味は、そうした言葉にしにくいものを伝えることにもあるのだと思います。

 

子ども時代に行事に参加することが、成長後の支えに

――今年の自粛期間中は、「子どもが退屈して大変だった」という声が多く聞かれました。家の中で行事をすれば、生活にメリハリがついて楽しそうですね。

すごくいいと思いますよ。子どもは基本的に「いつもと違うこと」が大好きです。いつもより少しおしゃれな食卓にする、お部屋をかわいく飾りつけするといったことには、喜んで参加すると思います。

わたしは料理の盛りつけが大好きだったので、子どものころはちらし寿司やおせち料理の盛りつけをすすんでしていました。手を動かすことが好きなお子さんにはすし飯を混ぜてもらう、食べることが好きなお子さんなら「この味どう?」と味つけに参加してもらうなど、楽しく参加できるように声をかけてはいかがでしょうか。

――日ごろは「手伝って」という言葉に耳を貸さないお子さんでも、行事となると張り切りそうですね。

そうですね。折々の行事をすることで季節を感じ、また毎年行うことで時の流れも感じられます。
何より、将来、「懐かしい」と振り返ることのできる体験を獲得できます。

――懐かしさですか。

そうなんです。わたしはときどき老人ホームを訪問するのですが、ホームでは四季の行事をとても大切にしています。お年寄りにとって行事は共通体験なんです。桃の節句にはどういうことをしたとか、おせち料理は何を食べたとか、子どものころの思い出話に花を咲かせています。その共通体験がないのは寂しいと思います。

昔だったら誰でも知っている流行歌がありましたが、今はめいめいが別の音楽を聴いていますね。それはいいのですが、今のお子さん方が大人になるころには、誰もが「この曲知っている、懐かしい」と思い出せる曲はなくなっているかもしれません。そんなとき、行事という共通体験があって一緒に「懐かしいね」と話すことができたら、心が温まるのではないでしょうか。行事の仕方は違っても、したという経験が、その人の、何か核のようなものになると思うのです。

 

教科書通りでなくてもいい。家の個性が受け継がれる

――確かに子どものころの思い出というと、家族でした行事が頭に浮かぶ人は多いと思います。でも、行事をするには正しいお作法を知っておく必要があるのでは?

そんなに構えなくてもいいと思いますよ。

桃の節句にはおひな様を飾って蛤のお吸い物とちらし寿司をいただいて……。そうわたしも絵本に書きましたが、あくまでも一般的な話です。ちらし寿司を作らなくてもいいし、お吸い物は蛤でなくてもいい。

あるお宅では、毎年ひな壇の飾りつけはお兄ちゃんの係なので、おひな様の隣に大好きなアニメのフィギュアがあるそうです(笑)。教科書通りの段飾りもいいのですが、こっちのほうが“わが家のおひな様”という気がしますね。

――わが家流でいいのですね。

もちろんです。それに、必ずしも楽しい思い出じゃなくてもいいんです。寂しい思い出、悔しい思い出でもいい。それでも行事をしたという思い出が、その人の根っこを作る。

わたしの父は、2歳のときに母親と死別しました。ある年のお盆に、屋内にトンボが入ってきてなかなか出て行かなかった。それを見た親戚の人が父に、「あれはお前のお母さんかもしれないね」言ったそうです。

この話をヒントにわたしがお盆の話を書いたところ、たくさんの読者が共感してくれました。ハッピーな話でなくちょっと寂しいお話なのですが、その寂しさこそが人間らしさとして、人の心に残るのだと思います。

ですから、無理に楽しませようとしなくてもいい。代わりにぜひ親子でお話をしてほしいですね。

――どんな話をすればいいでしょうか。

何でもいいですよ。「うちのおせち料理にはこれを食べるのよ。どうしてかというとね……」など、お母さんやお父さんのこれまでの経験や考えを話すといい。その家の個性を、温かさをもってお子さんに伝えることになると思います。

 

おせち料理、恵方巻、福茶……。“いつもと違う!”を感じるひと手間を

――家庭で行事をするには、保護者の方がある程度の時間と手間をかける必要がありますね。

お母さんもお父さんもお忙しいので、無理はしないでいただきたいのですが、行事の機能の1つであるメリハリ、特別感を生み出すには、ひと手間かけたほうがいいのは確かです。いつも使わないお皿を出すだけでもいいので、親子でやってみてください。

むしろメリハリをつけるために、行事の前後は家事を手抜きしてしまう、というのもいい方法だと思いますよ。

――なるほど!
では具体的に、小学生のお子さんが気軽にできるような、行事の参加の仕方をお教えください。たとえばもうすぐお正月です。

 

小学生でも気軽に行事に参加できること

お正月

●おせち料理の準備をしてみましょう

お料理をお重に詰める、お皿に盛りつける

南天のような赤や松のような緑の濃い色をどこかにいれるとお正月らしさが増す。

●飾りつけをしてみましょう

箸置きや箸袋作りに挑戦

「お正月って何色かな?」と聞いてみて、お子さまが思い浮かべた色で鶴を折って箸置きにする。
家族全員分の箸袋を作ってみるのもいいですね。

箸置き、箸袋、ともに100円ショップの折り紙で作成。
箸袋は水引の代わりに、赤い刺繍糸を束ねたものに南天の葉を挿しました。

柚子を使って器を作る

柚子を半分に割って、お子さんに中をくりぬいてもらう。
黒豆を詰めると、色が引き立て合って華やかになります。

 

節分

●鬼の面を作る
●恵方巻を一緒に作ったりお皿に並べたりする
●福茶を作る

塩昆布・梅干し・豆まき用の大豆などをお湯に入れる。健康を願って飲む習わしがあります。

 

ご近所花見、衣替え。身近なことが楽しくなる!

――桃の節句では、先ほどうかがったように、男の子も参加していいのですね。

そうです。ひな壇飾りやちらし寿司作りなど、活躍の場は多いと思います。

春になったらお花見もいいですね。といっても桜の名所に出かけるのではなく、ご近所を散歩する。ゆっくり歩いてみると、思いがけずたくさんの植物を見つけることができると思います。雑草の本を持って、どんな植物があるのか探すのも楽しいものです。

花が咲いていたら、少し持って帰って生けてみてください。春の草のかわいらしさにびっくりすると思いますよ。つくしがたくさん見つかったら、少し摘み取って食卓の一品に加えてもいいですね。

――いい時間になりそうですね。
ところで高学年のお子さんには、どんな行事の参加の仕方が向いているでしょうか。

おうち行事を記録した手書きノートを作ってもらうというのはどうでしょう。大掃除はどこを誰が担当するとか、おせち料理でおいしかったものは何かなど記録してもらう。家庭での行事の様子を写真に撮ってSNSにアップする方も多いと思いますが、お子さんが主体になってノートを作ることで、お子さんの記憶に残りやすく、振り返ることもできて楽しめるのではないでしょうか。

 

おうち行事ノートを作ってみましょう

ここでは、お正月に関連したテーマをご紹介します。
テーマに沿って、調べたこと、やってみたことを記録してみましょう。

できたら、写真やイラストを入れてもいいですね。

◆行事に関して、子どもが由来などを調べるのに適したテーマ

・大掃除ってなんでするの?
・どうしてお年玉、もらえるの?
・お雑煮には何が入っているのかな?

◆親子で会話するのに適したテーマ

・大掃除はどこを掃除したらよい?
・おせち料理で食べたいもの
・チャレンジしてみたいお料理
・何がおいしかった?
・お年玉でどんなことをしたいか
・パパとママが子どものころはどんなお正月をしていた?

◆子どもの気持ちを記録する

・楽しかったこと・つまらなかったこと
・お年玉の予想と現実
・初詣で何を祈った? 行けなかったら何をお願いしたかった?
・お正月以外の行事何がある? やってみたいおうち行事を考えよう

 

――行事を親子一緒にすることで、家事のしかたなども伝えることができそうですね。

そうですね。衣替えもいいと思いますよ。6月頭と10月頭のお休みの日を「わが家の衣替えの日」と決め、家族で一斉に衣類を入れ替える。そのときにたたみ方やしまい方を教えてあげるといいですね。小学校高学年になると、自分の領分という感覚が出てくると思います。「お母さん、部屋に入ってこないでね」と。衣類の管理の仕方を教えるのは、その尊重にもなると思います。スッキリ片づくと気持ちいということにも気づくでしょう。

――お子さんが自分で片付けられるようになると、保護者の方もラクになりますね。

服を色別に収納するお子さんもいれば用途別に並べるお子さんもいます。お子さんなりのルールを守っているようなら、親御さんは口を出さないほうがいいですね。お子さんのやり方をほめると、自分でどんどん片づけるようになると思います。

洋服のたたみ方。
『しばわんこと楽しく学ぼう 和のせいかつ』(白泉社より)

お正月は、家族そろって笑顔で過ごそう

――やはり最初はほめることが大切なのですね。

衣替えに限らず、お子さんに参加してもらうときには、多少うまくできなくともほめたほうがいいと思います。毎年その行事をすることでだんだんうまくなるでしょうし、こうした経験から時の経過も感じられ、またその人の根っこになるのだと思います。

とはいえ無理にほめようとせず、親御さんが行事を楽しむことが大切ではないでしょうか。親御さんが楽しんでいると、お子さんも真似したくなるもの。それに、親御さんが笑顔でいるのがお子さんには一番うれしいことです。

――なるほど。

わたしは、「“笑う門には福来る”だから、たとえ親子ゲンカをしていてもお正月は笑って過ごそう」と教えられました。これもメリハリ。行事の良さだと思いますよ。2021年も笑顔で過ごせるといいですね。

――そうですね。ありがとうございました。

 

川浦 良枝(かわうら・よしえ)


1963年、東京都生まれ。武蔵野美術大学短期学部卒業。デザイン会社勤務を経てフリーのイラストレーター、デザイナーに。カレンダーやグリーティングカードなどの製作を手がける。2000年より、雑誌「MOE」(白泉社)にて『しばわんこの和のこころ』の連載を開始。NHKでアニメ化も。主な作品に『しばわんこの和のこころ1・2・3』『しばわんこの和の行事えほん』『しばわんこと楽しく学ぼう 和のせいかつ』 (いずれも白泉社)などがある。

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