ベイクド・アラスカを作ってみよう! ~外はあったか中はひんやりスイーツ~

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2023年9月28日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

不思議なスイーツ ベイクド・アラスカ

高温に予熱したオーブンにアイスクリームを入れるとどうなるでしょうか? 「ドロドロにとけるに決まっているじゃないか!」と思うかもしれません。しかし、オーブンで焼いてもとけてしまわない不思議なアイスクリームがあるんです。
その名も「ベイクド・アラスカ(Baked Alaska)」。アイスクリームをメレンゲで覆い、オーブンで焼いて焼き目をつけたデザートです。ふわふわ温かいメレンゲとひんやり冷たいアイスクリームが口のなかでとろけます。
見た目は豪華で特別感がありますが、既製品のアイスクリームとスポンジケーキを使えば、あとはメレンゲを用意して焼くだけなので、じつはそれほど難しくありません。おもてなしや特別な日のデザートにいかがでしょうか。

今回はベイクド・アラスカの作り方と、なぜオーブンで焼いてもアイスクリームがとけてしまわないのかを解説します。

材料(2個分)

  • スポンジケーキ 1枚
    ※市販の2枚にスライスされたものを使うと便利です。
  • お好みのアイスクリーム 120g
    ※半分ずつ2種類使うと断面がきれいになります。
    ※今回はストロベリーとチョコレートのアイスクリームを使いました。
  • 卵白 Lサイズの卵1個分(40g程度)
  • グラニュー糖 40g程度(卵白と同量)

用意するもの

  • 金属製またはプラスチック製のプリン型(写真左側。シャルロット型や小型のボウルでもOK) 2個
  • ※プリン型の口径と同じくらいの大きさのセルクルがあると便利。(写真右側。どちらも100円ショップなどで購入できます)
  • オーブン加熱可能なお皿 2枚
  • ラップ、ボウル、泡立て器(ハンドミキサーがあるとよい)、温度計、スプーンやバターナイフ、オーブン(最高設定温度が200℃以上のもの)

※前日までに用意しておくとスムーズ

1.スポンジをくり抜く

スポンジは厚さを1.5〜2cm程度にスライスし、プリン型の口径と同じくらいの大きさに丸くくり抜く(セルクルなどを使うと便利)。これを2つ用意する。

・6号(直径18cm)のスポンジを2枚にスライスすると、直径7cmの円形スポンジが6個くり抜ける。
・5号(直径15cm)のスポンジを2枚にスライスすると、直径7cmの円形スポンジが4個くり抜ける。
・3〜4号(直径9〜12cm)のスポンジを2枚にスライスすると、直径7cmの円形スポンジが2個くり抜ける。

2.アイスクリームを型に入れる

プリン型にラップをピッタリと敷く。アイスクリームを60gずつ入れてスプーンの背でしっかりと押し込み、表面を平らにならす。

※2種類のアイスクリームを使用する場合
1種類目のアイスクリームを30gずつ型に入れてスプーンの背でしっかりと押し込み、表面を平らにならす。アイスクリームがとけてやわらかくなっている場合は、一度ラップをして冷凍庫に入れ、少し固めてから2種類目に取り掛かるときれいな層が作りやすい。
1種類目のアイスクリームの上に、2種類目のアイスクリームを30gずつ入れてしっかり押し込み、表面を平らにならす。

3.スポンジを乗せる

アイスクリームの上に1のスポンジを乗せ、軽く押してアイスクリームに密着させる。

型からはみ出しているラップでスポンジの上を覆い、冷凍庫に3時間~一晩置いて完全に凍らせる。

4.スイスメレンゲ※を作る

※「スイスメレンゲ」については、記事の最後でご説明します。
オーブンを250℃に予熱する(オーブンの最高設定温度が250℃より低い場合は、可能な限り高い温度設定にする。200℃以上であればOK)。

その間にメレンゲを作る。ボウルに卵白と同量のグラニュー糖を入れて混ぜ合わせ、80℃程度の湯煎にかける。たえず泡立て器でかき混ぜながら卵白液を50℃くらいまで温める。
(温度計がない場合は、指で触れてお風呂のお湯よりもやや熱いくらいが目安)

温まったら湯煎から外し、ハンドミキサーなどを使って手早く泡立てる。しっかりとツノが立つまで泡立てればOK。

5.アイスクリームにメレンゲを塗る

オーブンの予熱が完了したら、冷凍庫から3のアイスクリームを取り出す。

アイスクリームを型から出し、スポンジが下になるようにしてオーブン加熱可能なお皿に乗せる。ラップの欠片が残らないよう注意してラップを剥がす。

スプーンの背やバターナイフを使い、アイスクリームの表面にメレンゲを塗る。メレンゲが薄い部分や隙間があると、そこからアイスクリームがとけてしまうので、まんべんなく塗ること。

ポイント

ベイクド・アラスカはメレンゲの熱伝導率が非常に低い、つまり熱を伝えにくいという性質を利用したデザートです。

熱の伝わり方には「対流」「伝導」「放射」などの種類があります。対流は、温かい気体や液体が移動することで熱が伝わる現象です。一方、伝導は、物質自体が移動するのではなく、物質の中を温度の高い方から低い方へ熱が移動していく現象です。例えば煮物では煮汁の対流によって具材の外側が温められ、具の外側から内側へは伝導によって熱が伝わっていきます。フライパンで肉を焼くときのように、ものとものが接している部分から熱が伝わるのも伝導です。放射は、熱源から出る光や赤外線を受けて物体が温まる現象で、炭火焼きなどがこれにあたります。

オーブンに食材を入れると、ヒーターや庫壁からの放射や、温められた空気による対流によって食材の表面が温められます。そして伝導によって徐々に内側へと熱が伝わっていきます。

伝導による熱の伝わり方は材質や状態によって変化します。たとえば、アルミや銅などの金属は熱伝導率が高く、鍋やフライパンなどの調理器具によく用いられます。一方、空気は熱伝導率が低いものの代表例で、同じ温度で比較した場合、空気の熱伝導率は水の1/20程度です。メレンゲの泡によって閉じ込められた空気は移動できないので対流も起こりにくく、断熱材のような役割を果たしてくれます。メレンゲが薄い部分があると、そこからアイスクリームに直接熱が伝わり、中身がとけてしまうので注意しましょう。

オーブン調理では天板や焼き皿からの伝導があることも忘れてはいけません。そのため、アイスクリームの下にはスポンジケーキを敷きます。これも、生地に無数の細かい穴があいていて、下から熱が伝わるのを防いでくれます。細かい穴がたくさん空いているということが重要なので、ブラウニーやカステラなどでも代用できます。

6.焼く

オーブンで表面に焼き色がつくまで加熱して、できあがり。

加熱時間の目安は、250℃で1.5〜2分、230℃で2〜3分、200℃で4〜5分程度。

ポイント
メレンゲは熱を伝えにくいですが、まったく伝えないわけではありません。加熱時間が長くなれば、熱は徐々に内側へと伝わり、アイスクリームがとけ始めます。なるべく短い時間でメレンゲにサクッと香ばしい焼き目をつけるため、できるだけ高温で焼き上げる必要があります。

オーブンの機種によって設定できる温度の幅が異なりますが、可能であれば230〜250℃程度に予熱したオーブンを使用すると、アイスクリームに熱が届くより早く、表面をこんがり焼くことができます。200℃で焼く場合は、焼き目がつくのに少し時間がかかります。その間に熱がなかまで伝わり、アイスクリームの表面が少しだけとけますが、これはこれでメレンゲとアイスクリームのとけた部分とが絡み合っておいしいですよ。

メレンゲには加熱せずに作るフレンチメレンゲと、熱を加えて作るスイスメレンゲ、イタリアンメレンゲの3種類があります。

フレンチメレンゲは、低温〜室温で砂糖を徐々に加えながら泡立てたもので、軽くふわふわした仕上がりになります。一方、スイスメレンゲは、卵白と砂糖を混ぜた液を湯煎で温めてから、泡立てて作ります。また、イタリアンメレンゲは、ある程度泡立てた卵白に熱したシロップを流し込みながら、さらに泡立てたものです。加熱して作るメレンゲは、きめ細かくかたさがあるため成形しやすく、安定しているのが特徴です。

以前、「卵白が泡立つのはなぜ?メレンゲができる仕組み」という記事で、メレンゲができる仕組みを紹介しました。卵白を泡立てると、泡の表面で卵のタンパク質がほどけ、絡み合うことで泡を補強し、壊れにくくします。泡の表面でタンパク質の構造が変化することを「表面変性」といいます。加熱して作るメレンゲはこれに加えて熱による変性も起こるため、しっかりとかたさのあるメレンゲに仕上がると考えられています。また、加熱することで砂糖を多く溶かし込めるので、砂糖によるコーティングで泡がさらに補強されます。

ベイクド・アラスカはどのメレンゲでも作れますが、今回はアイスクリームとの食感の相性や成形しやすさを考慮して、加熱メレンゲを使用しました。家庭で少量作るときには、イタリアンメレンゲよりもスイスメレンゲのほうが作りやすいと思います。

 

10/26(木)更新の次回では、「お鍋 or レンジ 野菜の下ゆでにはどっち?」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

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