お鍋 or レンジ 野菜の下ゆでにはどっち?

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2023年10月26日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

ほうれん草とブロッコリー 下ごしらえのちがいは?

ほうれん草など緑色の野菜を使ったレシピを見ると「たっぷりの湯でゆでて、冷水でさっと冷ます」などと書かれていることがよくあります。湯の量が多くなるほど、沸かすのに時間も光熱費もかかりますが、あえてたっぷりの湯を使う理由をご存知でしょうか。ひとつは緑色を鮮やかに保つため、もうひとつは野菜のアクを溶かし出すためです。

では、緑色の野菜を少量の湯で蒸しゆでにしたり、電子レンジで加熱したりしてはいけないのか、というとそんなこともありません。野菜の種類や求める仕上がりによって、押さえるべきポイントは異なるので、目的に応じて調理方法を使い分けられると良いですね。

今回は、緑色の野菜を下ゆでするときのコツとその理由について解説します。

ほうれん草と海苔のおひたし&ブロッコリーのごま和え

材料(4人分)

  • ほうれん草 1束
  • 海苔 1枚

*出汁(または水+顆粒だし) 100ml
*薄口醤油(なければ濃口醤油でOK) 小さじ2と1/2
*みりん 小さじ1/4

1.つけ汁を用意しておく

鍋に*の材料を入れて火にかけ、ひと煮立ちしたら火を止め、冷ましておく。

2.ほうれん草を洗う

ほうれん草は根元に深さ2〜3cmの切り込みを十字に入れる。ボウルに水をためて、ほうれん草の根元をもむようにして洗い、茎の隙間にたまった泥を落とす。水を替えて、葉から茎まで全体を洗う。

3.ゆでる

鍋に1リットル程度の湯を沸かし、塩小さじ2を入れる。大きめのボウルにたっぷりの冷水を用意しておく。ほうれん草の葉の部分を持って茎を湯に浸ける。そのまま30秒ほどゆでたら、葉の部分も湯に沈め、さらに30秒ほどゆでたら冷水にとって冷ます。

ポイント

緑色の野菜をたっぷりの湯でゆでるのにはいくつかの理由があります。まず、緑色を鮮やかに保つため。野菜の美しい緑色はクロロフィルという色素によるものです。この色素は熱や酸を加えるとフェオフィチンという黄褐色の物質に変化しやすいという性質があります。緑色を鮮やかに保つためには、加熱時間をなるべく短くし、酸との接触を抑える必要があります。

沸騰した湯に野菜を入れると、野菜に熱が奪われ、湯の温度がいったん下がります。野菜の量に対して湯が少ないほど温度が下がりやすく、再度沸騰するのに時間がかかります。その結果、合計の加熱時間が長くなり、クロロフィルが変色しやすくなるのです。

また、たっぷりの湯には、野菜から溶け出した有機酸を薄める効果もあります。意外かもしれませんが、トマトのように酸味のある野菜だけでなく、青菜やレタスといった野菜にも、シュウ酸やリンゴ酸などの有機酸が含まれています。生の野菜では、クロロフィルと有機酸とは別の組織に存在しているため接触しません。しかし、加熱するとそれらを分けていた壁が壊れて自由に行き来できるようになり、ゆで汁にも溶け出してきます。湯の量が少ないと、ゆで汁が酸性に傾きやすく、クロロフィルへの影響も強くなります。溶け出した有機酸の一部は、水蒸気とともに揮発し、鍋の外に逃げていくため、蓋をせずにゆでるのもポイントです。

たっぷりの湯は、野菜に含まれるアクも薄めてくれます。例えばほうれん草はシュウ酸というアクの成分が多く、えぐ味や渋味などの原因となります。この成分は水に溶けやすいため、たっぷりの湯でゆでることでアクを溶かし出し、薄めることができます。ゆであがったあとに冷水にとることでも、アクが洗い流されます。さらに、手早く冷ますことができるので、余熱によるクロロフィルの変色を抑える効果もあります。

ゆで湯の温度が下がりにくく、また、酸やアクを薄めるのに十分な湯の量の目安は、食材の5倍程度と言われています。青菜1束が約200gなので、湯の量は1リットルあれば良いでしょう。

4.ひたす

十分に冷めたら水気を軽く絞り、6cm幅に切る。ほうれん草の水気を再度絞り、容器に入れる。ちぎった海苔を加える。1の粗熱が取れたら容器に注ぎ入れる。

冷蔵庫で30分〜1時間ほど味をなじませてできあがり。

ポイント

私たちがふだん使っている調味料の中には、酸性のものが多くあります。酢やレモン汁はもちろんのこと、醤油や味噌、みりん、酒なども酸性です。クロロフィルは酸に弱いので味付けのタイミングや方法に注意しましょう。

彩りよく仕上げたい場合、お酢やレモン汁を使った和え物は食べる直前に和えるのがおすすめです。醤油やみりんは酢に比べて酸性の度合いが低いので、影響も控えめですが、熱々の状態で合わせるのは避けたほうが良いでしょう。おひたしの場合は、つけ汁と野菜の粗熱がそれぞれ取れたところで合わせましょう。お吸い物に青菜を入れる場合は、鍋に直接入れず、下ゆでした青菜をお椀に入れ、そこにつゆを注ぎます。こうすると、ほどよくつゆの温度が下がり、色が悪くなりにくいのです。

材料(3〜4人分)

  • ブロッコリー 1株

*すりごま 大さじ1
*醤油 小さじ1
*砂糖 小さじ1
*酢 小さじ1/2

1.下ごしらえ

ブロッコリーはつぼみの部分を小房に切り分ける。太い部分は茎の部分に切り込みを入れて裂き、なるべく大きさを揃えるようにする。水を入れたボウルで洗い、ザルに上げておく。

※ブロッコリーは軸の部分も食べられます。

①表面の硬い部分を切り落とし、真ん中の白っぽい部分を厚さ7mm程度の斜め切りにする。

②蕾の部分と一緒にゆでる。

③細切りにしてもやしのようなイメージでナムルにしたり、拍子切りにしてアスパラのようなイメージで炒め物に入れたり、短冊切りにして味噌汁に入れてもおいしい。

2.加熱(蒸しゆでにする場合)

フライパンにブロッコリーと水50mlを入れ、塩少々を振る。蓋をして火にかけ、沸騰したら中火で2分加熱する。上下を返して火を止め、蓋をして2分蒸らしたらザルに上げて冷ます。

2.加熱(電子レンジの場合)

耐熱皿に広げて入れ、水大さじ2を回しかける。塩少々を振る。ふんわりとラップをして電子レンジ(600W)で4分加熱する。加熱が足りなければ30秒ずつ追加加熱する。好みの硬さよりもやや硬いくらいになったらラップを外し、うちわであおいで手早く粗熱を取る。

ポイント

緑色の野菜は必ず「たっぷりの湯でゆでて冷水にとる」というセオリー通りに調理すべきかというと、そうでもありません。小松菜のようにアクの少ない野菜をゆでるときや、見栄えをさほど気にしないときには電子レンジで加熱したりフライパンに少量の水を入れて蒸しゆでにしたりするのも便利です。湯を沸かす必要がないので、時間も光熱費も節約できます。

また、たっぷりの湯でゆでたり、冷水にひたしたりするのは、野菜のアクだけでなく、甘味やうま味などの成分も流れ出てしまうのが難点です。そのため、ブロッコリーや菜の花など、うま味の濃い野菜はゆでたり蒸しゆでにしたりした後、冷水にとらずに「おかあげ」にするのがおすすめ。ゆであがった野菜を平ザルや大きめのザルに重ならないようにのせ、うちわであおいで冷まします。余熱を考慮して少し早めに引き上げるのがコツです。

3.味付け

ボウルに*の材料を入れて混ぜ合わせる。

食べる直前にブロッコリーを加え、よく絡めてできあがり。

レシピを見ていると、野菜をゆでるときに「湯に塩少々を加える」と書かれていることがあります。少々とはどれくらいでしょうか。そもそもなぜ塩を加えるのでしょうか。

「緑色の野菜をゆでるときに塩を加えると、ナトリウムの作用によってクロロフィルの変色を抑えることができる」という話を聞いたことがある人もいるかもしれません。たしかにそのような効果もあるにはあるのですが、この効果を実感するには塩を湯の2%以上入れる必要があります。やってみるとわかりますが、塩分2%の湯でゆでた野菜は結構しょっぱいです。味覚の面では1%くらいが適量ではないかと思います。

塩を加えるのは、主に野菜に下味をつけるためで、ほんのりと塩味がつくことで野菜の持つ甘味やうま味が引き立ち、えぐ味が抑えられます。「ポイント」で述べたように、緑色の野菜を酸性の調味料で味付けする際は、野菜と調味料を食べる直前に合わせると変色を抑えられます。この場合、味が染み込む時間が少ないので、あらかじめ下味をつけておくと味なじみが良いというメリットもあります。

 

11/23(木)更新の次回では、「うま味の相乗効果でさらにおいしい けんちん汁」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

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