家族で楽しめる「俳句」にチャレンジ!

五・七・五の17音で情景や気持ちを表現する俳句。一見、難しそうですが、ルールとちょっとしたコツを知れば、低学年から大人まで、そして、家族でも気軽に楽しめます。そのコツを、ご自身が俳人で、兵庫県の甲南高等学校・中学校国語科教諭、同校文芸部顧問でもある塩見恵介先生にうかがいました。自宅で過ごす時間が増えている今、家族の楽しみのひとつに俳句はいかがですか?
(取材・文 浅田夕香)

※本記事は、2020年10月22日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

読み方の正解はひとつじゃない。作者が驚くような解釈も

――塩見先生は、ご自身も俳句を作られますし、授業や朝日小学生新聞などを通じて子どもたちへの俳句指導もされています。俳句の魅力をどのように感じていらっしゃいますか?

まずは、自分から自分じゃないものが出てくる、というところですかね。

――どういうことでしょうか?

同じ俳句でも読み方や解釈の仕方が人それぞれなので、自分が作った句にも「そんなおもしろい解釈があるのか!」と発見があるんです。

たとえば、小学生向けの授業で、松尾芭蕉の有名な句、「古池や 蛙飛び込む 水の音」を取り上げて「どんな世界だと思う?」と尋ねると、ほんとうにさまざまな答えが返ってきます。

「古池や」の古池の大きさを尋ねると、「庭にある池くらい」「お寺や庭園にあるような、小さな舟なら浮かべられるような池」「琵琶湖くらい?」といろんな意見が出てきますし、「蛙」についても、アマガエルだと言う子がいれば、ヒキガエルだという子もいます。また、「蛙は何匹いると思う?」と尋ねると、「1匹」と答える子もいれば、「たくさん」という子も。

これは別に子どもだけでなくて、大人も同様です。たとえば、正岡子規は蛙の数を英訳する際に「a frog」と、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は「frogs」と訳しています。また、高浜虚子も複数の蛙が飛び込んでいると解釈しています。

このように、一つの句についてみんなで感じたことをわいわいしゃべっていると、作った本人が思いもよらなかったようなものも含めて、さまざまな解釈が出てくる。そして、それらの解釈はすべて正解として許容するのが俳句の世界です。おもしろいですよ。

 

言葉と言葉を組み合わせることで、新しい世界をつくることができる

――なるほど。では、作るほうの楽しみとしては、どんなものがありますか?

俳句には季語が付き物なので、まず季語を知ることで語彙が豊かになりますよね。語彙が豊かになると、世界の見え方が変わったり、広がったりすることでしょうか。たとえば、今、小学生でもあじさいの花を知らない子がいますが、俳句作りを通して「あじさい」という季語を知り、「この花があじさいだ」と認識すると、あじさいの花が他の花とは区別されますよね? 言葉が増えると見えてくる世界が変わる。それが俳句を作るおもしろさの一つかなと思います。

さらに、「『あじさい』にどんな言葉を組み合わせると、人とちょっと違った世界をつくれるかな?」と考えると、もっと楽しくなってきます。たとえば、「雨上がりの虹がきれい」とか「あじさいが雨で移ろう」といった情景や感情は、多くの人がすでに感じたり、俳句で表現したりしていますが、そういったすでに表現されたものではない言葉と言葉の組み合わせを考えてみると、人とちょっと異なる世界をつくれるんです。言葉と言葉の組み合わせで新しい世界をデザインするというか。

――言葉と言葉の組み合わせを工夫することで、これまでとは異なる世界の切り取り方ができるということでしょうか?

そうです。正岡子規の「柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺」という句がまさにそうで。ぼくらにしてみれば、奈良に柿があるのは当たり前のように思われますが、この句が作られた当時は、奈良と柿を組み合わせる発想は一般的ではなく、「柿」という言葉が詩に出てくるケースも非常に少なかった。そこで、組み合わせの新しさが喜ばれたわけです。

あとは、現実的ではないけれど、なんとなく感覚的にわかる、言葉でしか表せなないような世界を表現できるのもおもしろいところです。たとえば、俳人・富澤赤黄男(とみざわ・かきお)の句に「恋人は 土竜(もぐら)のやうに 濡れてゐる」という句があります。「もぐらのように濡れている」って、ちょっと意味がわからないけれど、なんとなくじめーっとした感じは伝わってきますよね?

――はい。

坪内稔典(つぼうち・ねんてん)の「たんぽぽの ぽぽのあたりが 火事ですよ(『ぽぽのあたり―坪内稔典句集』) 」という句もそうです。「『ぽぽのあたり』ってどこ?」「たんぽぽが火事ってどういうこと?」と思うけれど、なんとなく音が楽しいし、意味のわからなさがおもしろい。こういった、ナンセンスな世界をつくれることも、俳句のおもしろさだと思います。

ただ、小学生くらいの子がここまで自分の世界をつくって表現するのは、なかなか難しいとは思います。まずは、日常の中で感じたことや、見た情景を素直に表現するところから始めるのがいいのではないでしょうか。

 

5文字の季語を設定しよう――俳句ことはじめ

――俳句を作るにあたり、押さえておきたいルールはありますか?

次の二つはできれば守っていただきたいですね。一つ目は季語を入れること、二つ目は五・七・五の17音で作ることです。最初はあまり季語にとらわれすぎなくてもだいじょうぶです。いくつか作っていくうちに、どんな季語があるのかを学んでいきましょう。

親子でチャレンジするときには、保護者の方がお子さんの語彙に応じて季語をいくつか提案して、その中から子どもが選んで作るのが始めやすいでしょう。最初におすすめなのは、5音の季語です。初めの5音か最後の5音に置けるので。「最初に『かき氷』と置いて、続きに自分の気持ちを入れるといいよ」などと、最初の5音を決めて、続く12音に自分の気持ちを入れる、という方法から始めると、比較的作りやすいようです。

ただ、今「気持ちを入れるといいよ」と言いましたが、実は俳句って、気持ちを直接言うと損なんです。

――どういうことでしょうか?

たとえば、ぼくが授業で「『かき氷』で俳句を作ってください」とお願いすると、だいたい最初に出てくるのは、「かき氷 家族で食べて おいしいな」という感じの句です。でも、「おいしそう!」ということは、できた句を読んだ人が気づきたいんですよ。句には「かき氷を家族で食べている」という情景を描いて、その句を読んだ人が「おいしそう!」と言いたい。

俳句はもともと、1人が最初の句を作ったら、次の人がその句の情景から次の句を作るという「連句」から切り離されて生まれたものです。すなわち、句会をはじめ、人と人とのやりとりがあってこそのもの。1人が作った句を皆が聞いて、同じことを心の中に思い浮かべたり、それぞれに思うことは違ってもなんとなく空気を共有したりすることに価値が置かれています。

ぼくの授業では、俳句の形を覚えたら、次は「おいしい」などの気持ちを本人に言わせない工夫をしています。

――具体的に、どんな工夫をされているのでしょうか?

先ほどのかき氷の句であれば、「どこで食べてる?」と投げかけてみる。すると、「かき氷 縁側で食べ おいしいな」に変わったりします。そうなれば、「『縁側で 家族で食べる かき氷』でもええんちゃう?」とアドバイスする。そういったやりとりをしていると、子どもも「なるほど、『おいしいな』は言わなくてもわかるんだな」とコツがわかってくる。

さらに、「縁側じゃなくて、どこか違うとこに行かへん?」と投げかけると、「公園で 家族と食べる かき氷」「父さんと 海辺で食べる かき氷」など「○○で」が変わってきます。さらに、「父さんと 新幹線で かき氷」など、「食べる」という言葉もなくなっていく。そこで「お、帰省の雰囲気出てるやん?」とリアクションすると、子どもたちが調子に乗ってきます。

お父さんを恐竜やライオンに変えて、「恐竜と 新幹線で かき氷」「恐竜と 宇宙で食べる かき氷」「ライオンと サバンナで食う かき氷」などと、ナンセンスに、これまでとはちょっと違う、その子の世界に飛んでいってくれる。

そうやって、言葉の組み合わせを楽しんでくれるといいなあと思いながら指導しています。

 

――そんなやりとりを家族でもできると楽しそうですね。

いいですね、家族で句会。最低3人集まれば句会は成立しますから。お父さんとお母さんがそれぞれ俳句を作ってせーの!で見せ、お子さんが気に入ったほうを選ぶとか。

 

夕食のメニューや色えんぴつ…テーマを決めて作るのもおすすめ

――家族で俳句にチャレンジするときに、先ほどお話しいただいた「季語を5文字で設定する」以外にも、抵抗感なく始めるためのコツはありますか?

テーマを決めると、アイディアが浮かびやすいかもしれません。家庭だったら、「夕食のメニューを題材に俳句を作る」のはいかがでしょうか。毎日、夕食のときに俳句を作ると決めて、1日のなかに取り組む時間を組み込むことで、俳句を作ることを習慣化するとよいですよ。夕食は毎日何かしら異なるメニューを出されているご家庭も多いでしょうから、変化があって作りやすいように思います。もちろん、食事を作る方が「季節の食材を入れないと」と気負う必要はありませんよ。

 

――ほかにもおすすめのテーマはありますか?

あとは、「色」でしょうか。「今日は『黄色』をテーマに俳句を作ろう」という感じで、1日1色ずつ作っていく。「俳句で色えんぴつセットを作ろう」とうながすのもいいかもしれません。

動物や働く車など、お子さんが好きなものシリーズで作ってみるのもいいと思います。ご家庭で育てている植物や動物、昆虫などもテーマになりますよ。

 

ぜひ、親子で一緒に楽しんで

――そうやって子どもが作った句に対し、保護者はどのようにリアクションするのがよいのでしょうか。

そうですね。まずは、いいなと思ったものは「いいね」と伝えること。ダメ出しは不要です。「おいしいな」という句に対して「おいしかったんだね」とオウム返しするだけでなく、言葉には表現されていない本人の気持ちを感じ取って代弁したり、共感を示したりできるといいですね。「お母さんも小さいときに同じこと思っていたよ」とかでもいいと思います。

がんばって感想を伝えよう、ほめて伸ばしてあげよう、と無理をする必要はありません。保護者の方が一緒になって俳句を作り、楽しむ姿勢があればいいのではと思います。「俳句を作ることを習慣化するとよい」とは言いましたが、それをずーっと続けるのはしんどいですよね。長期休みなど期間を限定して、1冊のノートに保護者の方とお子さんがそれぞれ作った句を書いて、日記のように残しておくと、よい思い出になるかもしれません。

――最後に、家族以外の人が作った句を楽しみたいときのおすすめの方法を教えてください。

小学生向けの新聞や、子ども向けの俳句の本などを読むのがいいと思います。「朝日小学生新聞」「毎日小学生新聞」「読売KODOMO新聞」には俳句の投稿欄があるので、お子さん自身が投稿すれば、ほかの子の句にも自然と意識が向くのではないでしょうか。また、子ども向けの俳句の本もたくさん出ています。あとは、TBS系のバラエティ番組「プレバト!!」も楽しめると思います。

いずれにしても、冒頭にお話ししたように、句の解釈に唯一の正解はなく、どんな感想・意見もまちがいではないと許容するのが俳句の世界。めいめいに読んで感じたことを伝え合うことで、「そんなおもしろい読み方があるのか!」と知ることができるのが、楽しさの一つだと思います。

――ありがとうございました。

 

塩見 恵介(しおみ・けいすけ)


1971年大阪府生まれ。俳人。甲南高等学校・中学校の国語科教諭。現代俳句協会会員。大学時代に俳句に出会い、俳人・坪内稔典氏に師事。勤務先の甲南高等学校・中学校では、2004年に文芸部を第7回俳句甲子園優勝に導く。著書に『みんなで楽しく五・七・五! 小学生のための俳句帖 作ってみよう編』(朝日学生新聞社)など。同志社女子大学表象文化学部嘱託講師、朝日小学生新聞「はじめて俳句 五・七・五」の選者も務めている。

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