「根拠あるほめ方」で子どもの成長のチャンスを逃さない!

「ほめて伸ばそう」とよく耳にするけれど、ただプラスの言葉を並べるだけで、本当に子どものためになるのか……どこか不安を覚える方も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、遠藤利彦先生(東京大学大学院教育学研究科教授)に、子どものほめ方について話をうかがいました。ほめる際に大事なのは表面的なテクニックではなく、子どもの頑張りをよく見て認め、喜びに共感する気持ち。ほめる根拠をしっかり伝えることが、子どもの成長につながると教えてくださいました。

※本記事は、2023年10月26日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

根拠を伴わないほめ言葉に要注意。「カラ自己肯定感」はチャレンジ精神を失う原因に

――「ほめる」とは、どのような行為なのでしょうか?

どんな親御さんも、子どもの成長を応援したいという気持ちをもっていると思います。「昨日はできなかったことが今日はできた!」といった子どもの成長を目の当たりにしたとき、親御さんは自然とうれしくなりますよね。その率直な喜びが表情や言葉となって表にあふれ出たのが「ほめる」という行為なのだと思います。また、そうした親の反応が子どもに伝わると、子どもは「自分は親から肯定的に受け止められている」というように、心底喜びを感じることができるのです。

――ほめる、ほめられる。その本質は「喜び」なのですね。一方で、「子どもをやる気にさせるため」「自己肯定感をはぐくむため」などのように、目的をもってほめるケースも考えられます。

そうですね。たとえば、1980年代~90年代頃、アメリカの学校で、子どもの非行防止や学力を伸ばすことを目的に、「とにかくほめる」という運動が活発に行われた時期がありました。「社会的なワクチンとして、ほめて自己肯定感を伸ばそう」という考えですね。ここでいう自己肯定感とは、「自分にはこれだけの高い力が備わっている、良い性質が備わっている」という肯定的な感覚あるいは自尊心のことですが、当時、明確な理由もなくひたすらほめられた子どもたちはどうなったかというと、実力が伴わないのに「自分はすごい、えらい人間なんだ」という気持ちばかりが高ぶる「カラ自己肯定感」が高くなっていたということがわかっています。また、ほめられすぎた結果、「ほめられ中毒」とも言える状況も生まれました。「ほめられ中毒」の子どもは「常にいい自分でいたい」と思い、親のがっかりするような自分は見せたくないと考えます。そうした気持ちが強くなると、難しいことにチャレンジすることに臆病になってしまいます。

――では、どのようなほめ方が子どもの成長にとって効果的なのでしょうか?

「ここを頑張ったから、これができるようになったね」というように、ほめる根拠を明確に伝えることが大事だと思います。ここでいう根拠とは、子どもが努力をして何かを成し遂げたという事実です。また、これは叱るときも同じですが、子どもをむやみに、いたずらに全肯定・全否定するのではなく、「ここが良かった」「ここが少し足りなかった」など、具体的な内容にふれながら部分肯定・部分否定するようにしましょう。繰り返すようですが、根拠を伴わない全肯定は「カラ自己肯定感」や「ほめられ中毒」を助長するだけで、子どもの成長にとってプラスにはなりません。

自己肯定感は「自己効力感」を育てることから。「やればできる」気持ちは、赤ちゃんの頃からはぐくまれる

――「カラ自己肯定感」ではなく、子どもが本来もつべき「自己肯定感」はどのようにしてはぐくまれるのでしょうか?

自己肯定感をはぐくむには、まず「自己効力感」と呼ばれる感情がベースとして必要だと考えられています。自己効力感とは文字の通り「自分にはこれだけの効果を及ぼす力がある」と思える感情です。実はこの自己効力感は赤ちゃんの頃からはぐくまれます。たとえば、赤ちゃんはお腹を空かせてオギャアと泣きますよね。するとお母さんが母乳を差し出し、お腹が満たされ、不快感が解消されます。こうした経験をとおして、自分の行動によって周囲を変えることができるのだと認識し、自己効力感を蓄積していくのです。

また、児童期以降も自己効力感、自己肯定感は生涯にわたって変化していきます。自分の頑張りによって結果がついてきたり、自分の起こした行動に対して誰かが応えてくれたりといった経験を積み重ねていくうちに、「自分には世界を変える力がある」「やればできるんだ」という自信、すなわち自己効力感が備わっていくのです。

――生まれて間もない赤ちゃんの頃から、自己効力感をはぐくんでいくのですね!

このとき大事なのは、子どもの自発的な行為が出発点であること。自分自身が頑張って、その結果、思い通りにことがかなった……人はそうしたときに、達成感を感じることができるのです。達成感とは、喜びの中でももっとも質の高い喜びだと言われています。一度その達成感を経験した子どもは、また同じ喜びを経験したいと思って、さらに頑張る。こうして自己効力感が高まっていき、「自分は価値のある人間だ」と思える自己肯定感へとつながっていくのです。真の自己肯定感は、お母さんを始めとする他者を信じる気持ちと表裏一体であるとも言われています。

子どもが自発的に取り組んだことを「ここぞ」というタイミングでほめるのが大切

――根拠を伴うことのほかに、ほめるときに意識すべきことはありますか?

子どもを伸ばすことに成功している親御さんや先生は、意外にほめる回数が多くないものなんですよ。「ここぞ」というタイミングで、根拠とともにしっかりほめるんです。

――「ここぞ」というタイミングとは?

子どもが「これ面白い!」「やってみたい!」と好奇心をもって取り組み、本当に頑張って成し遂げ、自分でも「やった!」と、すごくうれしがっている……そのタイミングでほめるのが一番効果的ですね。子どもの喜び、とくに達成感に共感することは、子どもの力を伸ばしていくことにつながると思います。

――親から言われて頑張る、というケースもありますが……

そうですね。「テストでいい点をとったらゲームを買ってもらえるから頑張る」「叱られるのが嫌だから頑張る」などのように、賞や罰でやる気を起こさせるような働きかけもたまにはあってもよいかもしれません。しかしそればかりでは、たとえいい結果を得ても子どもはどこか受け身な状態で、親の思いに流されがちです。一方、親から望まれたことではなく、子どもの内側から湧き出てくる自発性や、やる気をすくいとってほめることは、子どもの心に「親から認めてもらえた、評価してもらえた」という、意味のある自己肯定感をはぐくむのです。

まわりと比較するのではなく、子どもの中の小さな変化に目を向けよう

――たとえば、中学受験を控えているがなかなか成績が上がらない、というような場合、親はどんな言葉をかけたらいいでしょうか

「この前よりも成績が落ちちゃったね。勉強が足りないんじゃない?」というような親御さんの言葉は、子どもにとってもっともつらいですよね。塾と同じ原理で子どもに接してしまうと、子どもを追い詰めることになりかねません。頑張っていても成績が伸びないのは、当然ある話。でも頑張っているからには、絶対に何かを身につけて、子どもなりのペースで少しずつでも伸びている事実があるはずなのです。家庭の中では、そうした子どもの中での小さな変化に目を向けて、「この問題は苦手だったけれど、解き方がわかるようになったね」などというように、努力によって伸びた部分を親御さんが発見し、子どもに伝えてあげるといいですね。

――他人と比較するのではなく、子ども自身をじっくり観察することが大事なのですね。

はい。そもそも成長に関して、早いことがいいわけではないですからね。ゆっくり時間をかけた分、頭の中でより深く理解し、整理できるようになるという意味では、プラスになっていると思うのです。勉強以外でも、「いつも忘れ物をするけれど、今日はなかったね」とか「前より友だちとのケンカが減ったよね」といった小さな変化を認めてあげるような親のほめ方は、子どもの個性を伸ばすと同時に、社会に順応していける力をはぐくむのだと思います。

――家に兄弟姉妹がいる場合、どちらか一方をほめるともう一人がいじける……というのもよくある話です。

やはりそれも、子ども一人ひとりをよく見てあげるといいと思います。できるだけ、一人をほめたら別の観点でもう一人もほめてあげてください。「いいことは、それぞれの中に違ったかたちでたくさんあるんだよ」「あなたのこともちゃんと見ているよ」というメッセージになりますから。

親の役割は「避難所」と「基地」。安心感を与え、子どもを見守ることが重要

――ほめることに関するお話をうかがっていると、子どもの成長をどう見守るか、親としてのあり方が重要であることに気づきます。

親御さんはつい「子どもにはいい体験をさせ、いい刺激をいっぱい与えたい」とか、「転ばぬ先の杖となって、自分がちゃんと教えてあげなくちゃ」といったように考えがちかと思うのですが、何かを与えること以上に大事なのは、子どもの自発的な行動をそっと見守ることなのです。親御さんの役割は「避難所」であり「基地」である、ということを覚えておいてください。

――「避難所」と「基地」とは?

日々、子どもは好奇心に駆られ、色々な遊び、冒険、探索をしますよね。でもずっと楽しい気持ちでいられるかというと、そうではありません。たまにはケガもするし、不安になったり、落ち込んだり、ネガティブな感情に陥ることも多々あります。そんなとき、子どもが無条件で逃げ込める場所が「避難所」です。避難所で安心感に浸り、くずれた感情を立て直す。そして十分に安心できたら、今度は同じ親を「基地」として、元気を補充してもらい、また好奇心いっぱいに飛び出していくのです。親は後からついていくのでも先回りするのでもなく、「何でもいいから、やっておいで」という気持ちで子どもの背中を押し、離れたところから見守るのです。

――そしてまた子どもがネガティブな感情になったら、親のもと、つまり「避難所」や「基地」に戻ってくればいいのですね。

そうです。くっついては離れ、くっついては離れ……の繰り返しを「安心の輪」と呼ぶのですが、この輪を何度もめぐっているうちに、「親はいつも見守って、応援してくれている」「また何かあったら戻ればいいんだ」という確信が子どもの中で生まれ、それを支えにして「もう少し先までいってみようかな」というチャレンジ精神が芽生えるのです。成長とともにこの「安心の輪」は少しずつ広がり、子どもが一人でいられる時間が増え、自立へとつながっていくのです。

 

――「安心の輪」は、何歳ごろまで続くのですか?

もちろん思春期以降、友人や配偶者が「避難所」や「基地」になっていくことは当然考えられますが、「安心の輪」でつながった親子関係もずっと続くといいですよね。何歳になっても、何かあったときに戻れる場所、話を聞いてくれて安心感に浸れる場所があるというのは、心と体の健康を守る上で重要なカギとなりますから。ネガティブな感情を立て直すには「エモーショントーク」といって、心から安心できる誰かと感情をテーマにした会話を交わすことも有効です。

社会の価値観に敏感であるがゆえに劣等感を感じる子も 子どもなりの頑張りを「根拠あるほめ方」で応援しよう!

――最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

思春期と比べると精神的に落ち着いている児童期の子どもは、「社会規範を理解し、それに沿って行動しよう」という気持ちがあります。また、ちょうど勤勉性や意欲が増す時期でもあるため、「勉強ができる」ことが良いことだと認識すれば、素直にその価値観を受け容れ、頑張ろうとします。見方を変えると、その価値に合わせられずに周りと自分を比べて劣等感をもつ子が出てきてしまう時期でもあります。だからこそ親御さんは、子ども一人ひとりの関心やペースを個性として受け止め、子どもなりの頑張りを認めてあげていただきたいと思います。そして少しでも成長が見られて子どもが喜んでいるときは、根拠を伴ってしっかりほめ、一緒に喜んであげてください。

今は全世界的に、子どもの自主性や自発性を重視する教育に変わってきています。これからますます自分でいい悪いを判断して、自分の力で進んでいく力が求められます。そうした力を着実に伸ばしていけるように、「根拠あるほめ方」で子どもの成長を応援していただけたらと思います。

遠藤 利彦(えんどう・としひこ)


東京大学大学院 教育学研究科 教授。同附属発達保育実践政策学センター長。博士(心理学)。専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。とくに親子関係・家族関係と子どもの社会情緒的発達との関連性に関心をもつ。おもな著書に、『赤ちゃんの発達とアタッチメント:乳児保育で大切にしたいこと』(ひとなる書房)、『アタッチメントがわかる本:「愛着」が心の力を育む』(講談社)など著書・編書・監修書多数。