算数を嫌いにさせないために

「算数は苦手」。お子さまのそんな言葉を聞き、なぐさめるつもりで「わたしも苦手だから、しかたないわね」「似ちゃったのね」と声をかけることはありませんか? 
でも、それは要注意。保護者の方が苦手だと宣言してしまうと、子どもはますます苦手意識を膨らませかねません。
そこで今月は、算数を学ぶ意味と、お子さまを算数嫌いにしない工夫を数学者の芳沢光雄先生に聞きました。

※本記事は、2020年1月23日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

結果重視の算数教育が算数嫌いを助長!?

――ほかの教科に比べ、算数は「苦手」という子どもがめだちます。理由をどうお考えですか。

いくつかありますが、算数や数学で答えを出すには、一歩一歩論理的に思考を積み上げていく必要があります。それに慣れていない子どもは、難しいと感じてしまうのでしょう。
また、親御さん自身が算数が苦手だと、「わたしの子どもだから、できなくともしかたないわね」とか、「もう忘れた。使わないから」と子どもに言ってしまうことがありますね。それらは子どもから算数を学ぶ意欲を奪いかねません。できなくてもしかたがない、将来役に立たないと思うかもしれないからです。

――しかし、算数が苦手な大人は多いものです……。

子どものころに受けた学校教育が、算数嫌いをつくってしまったのかもしれません。答えを早く出すことばかりを求め、途中の手順を重視しない。その結果、生徒は「こういう問題はこの式にあてはめる」と暗記するだけで、「なぜそうするのか」考えなくなってしまう。「分数÷分数」で、なぜわる数をひっくり返すのか十分考えずに、「ひっくり返せばいい」と暗記していると、少し複雑な問題になると歯が立たなくなり、「苦手」となってしまうのです。
しかも、問題を機械的に解いているだけでは、算数が実社会で役立つという実感を得られません。その結果、つい「算数は嫌い」「忘れた」と子どもに言ってしまうのです。

 

算数は客観的に思考する手段 過程を経ることで力がつく

――実際に日常生活のなかで、わたしたちは単純なたし算やひき算、かけ算くらいしか使っていません。なぜ長い時間をかけて算数や数学を学ぶ必要があるのか、子どもにどう説明したらよいでしょうか。

第一に、数学はものごとを客観的に把握したくさんの人と共有するための、人類が編み出したいちばん強力な道具だからです。たとえばモンゴルの大平原に暮らしている人と超高層ビルで働いている人が、「高い建物」について話しあってもかみあわないかもしれない。でも数字で地上何mと話せば、同じ高さを認識しあえます。価値観の違う人と意見を交換し物事を解決していくためには、数字や数学を使うことがいちばん確実なのです。
第二に、数学は数を扱う学問であると同時に、筋道立てて結論を導き出し、わかりやすく説明する学問だからです。つまり数学を学ぶということは、これとこれの関係がこうだからこうなると、論理的に答えを導き出し伝える訓練でもある。
たとえば子どもは「みんなが持っているから欲しい」という言い回しをしますが、数学的な思考を身につけると、「クラスの何割が持っている」「どう役立っている」など、客観的な根拠を示して説明できる。

――いずれ社会に出て仕事をするうえで、必ず役に立つ力ですね。

そうです。数学では多数決で結論を出すことはありません。正しい手順をふんで導いた答えが「正解」だからです。数学的に導き出した答えは、たとえ99人に「反対」と言われても、筋道立てて説明することで議論をひっくり返すことができる。プレゼンテーションの力にもなります。
だからこそ、丁寧に手順をふんで答えを出す経験を重ねなくてはいけないんだよ、と伝えてあげてほしいですね。
小学生のうちから算数の問題にじっくり取り組み、好きになることが、中学高校の数学の土台になります。小学生時代に、じっくり考える経験を積んでおくのは、そういう面でも有効です。

 

身近な話題に結びつけ 親子で算数を楽しもう

――子どもを算数好きにさせるには、どうしたらいいのでしょうか。

ただ数字が並んでいるだけの問題では、よほど計算好きでなければ楽しめないでしょう。教科書には文章題もありますが、多くは「花子さんが1冊100円のノート3冊と1本30円の鉛筆6本を買って、太郎さんは・・・」と、興味をもちようがない文章です。
身近な話題に結びつけ、算数が生活に役立つと実感させることがいちばんです。音は秒速340m。花火が上がって何秒後に音が届くか一緒に親子で数えて、6秒後だったら340×6=2040だから、「この花火、2km先で上がっているんだね」と話す。わり算も「みかん10個を3人で分けて…」より、「お父さんの体重はAちゃん何人分?」のほうが、子どももおもしろがるでしょう。中学生になって負の数を習うようになったら、たとえば寒い地域の人なら「昨日はマイナス3度で、今日は昨日より5度暖かいって。何度?」と話すと、抽象的な負の数字も生活に落としこめます。

――なるほど。でも、問題を出すのも難しそうですね。

なにも「問題を出してやろう」とかまえる必要はありません。親御さんが疑問に思ったことをお子さんに伝えて、「わたしもわからないわ。一緒に考えよう」と言えばいい。お子さんのほうが先に解けたら「教えて」と言う。そうしたらお子さんはおもしろがって次の問題も解こうとします。
学校ではなかなか算数を楽しむ機会を得にくいので、家庭で一緒に取り組むことは大切ですね。

 

算数の苦手意識は保護者のかかわり方で改善できる

――子どもが算数の学習でつまずいたとき、保護者としては、どのように対処するのがよいでしょうか。

わたしと親しい数学者のなかにも、小学生のころ、繰り上がり、繰り下がりの計算がわからなくて大変苦労したという人がいますよ。だれにだって、つまずくことはあります。むしろ、本当の意味で数学が得意になる可能性をもつのは、つまずきに対して敏感な人です。逆に、計算や処理の速さを競わせるような条件反射丸暗記的な教育だけで育ってしまうと、つまずきをほとんど意識しません。つまずいたところに成長の鍵があると考えれば、つまずきを意識したときこそ成長のチャンスだということがわかっていただけると思います。それは、「なぜそれではいけないのか」をわかりたい、納得したいという気持ちがあるということだからです。

もしお子さんがつまずいて前に進めなくなっていたら、ぜひ「なぜまちがえたのか」「どうしてこういうやり方をするのか」を一緒に考えてあげてください。
同時に、「まちがいを見つけ出す力」を育てることも重要です。単にまちがえたところをやり直させるだけでなく、どこが、どういうふうにまちがっているのかを自分で見つけさせる――これが非常に勉強になります。もちろん、まちがいを発見しやすくするためには、答えに至るまでのプロセスがわかるように、途中の式はきちんと書くくせをつけておくべきですし、検算や概算を習慣づけておくことも大切です。

――全く解けない子どもには、どう教えたらいいでしょうか。

一緒に教科書に向かい、解き方を教えましょう。ポイントは以下の3つ。

  • 問題の文章をきちんと読ませる。
  • 出てきた数字をわかりやすい数字に置きかえる。たとえば小数点の問題だったら、まずは計算しやすい整数に置きかえて解かせる。
  • 自信がついたら問題に着手させる。

この3つを守れば、解けるようになります。そのときどきで、できていることをほめるようにするといいでしょう。
自信をもてるようになると、みんなあっという間に算数が好きになり、成績も上がりますよ。これも算数のいいところです。本が嫌いで文字を読むのが苦手な子どもを国語好きにさせるのは、もっともっと時間がかかります。

 

体験的な遊びを通して算数のセンスを磨こう

――抽象的な数は大人も苦手です。分数÷分数の解き方さえ忘れている人も少なくないかもしれません。

小学生にわり算を教えるときの定番は「12個のキャンディを4人で分けます。1人何個になるでしょうか」または「4個ずつ袋に入れました。何人に配れますか」といったもの。しかしこの考え方は、分数のわり算には使えません。この例で出てくる数字が「個数としての数」だからです。これに対し、分数は連続的な数字なので、「量」として考えるとイメージしやすくなります。「ある量をある量でわる」(わるほうの量がわられる方の量の中にどれだけあるのか)と考えればよいのです。たとえば、次のようなケースです。

 

体験的に学ぶと忘れにくいし、「概算」の感覚、つまり「こういうときは、だいたいこんな数字になる」というイメージもつかめます。
図形でも同様です。紙や野菜を実際に切ってみると、理解が増します。頭で考えることも大切ですが、体験するともっと忘れづらい。図形に関しては、図を言葉で説明させるのも非常にいい方法です。

――説明させるとは?

たとえばあやとりや折り紙で何かつくり、どうやってつくったか、言葉で説明させます。あやとりだったら「右手の親指と小指にひっかけたひもの反対側を左手で・・・」というように。地図を書いて、道順を言葉に置きかえさせてもいい。知恵の輪の解き方やプラモデルの構造でもいいでしょう。そもそもそれらで遊ぶこと自体、空間認知の力をつけるし、それを言葉で説明しようとする努力は、幾何学的なセンスや論理的思考と説明力を一気に伸ばします。

――親は家事をしながら「それ、どうやって折ったか説明して」といえばいいから、すぐできそうですね。

そうです。算数を楽しみ、伸ばす素材は身近なところで見つかります。ぜひ親子で算数を楽しんでほしいものです。

――ありがとうございました。

 

芳沢光雄(よしざわ・みつお)


理学博⼠。専⾨は数学・数学教育。1953年東京都⽣まれ。慶應義塾⼤学商学部助教授、城⻄⼤学理学部教授、東京理科⼤学理学部教授を経て、2007年より桜美林⼤学リベラルアーツ学群教授。
算数・数学教育の重要性を説き、苦⼿意識を克服させる指導の必要性を訴求。地⽅の⼩中学校への出前授業も数多く⾏うなど、わかりやすい数学の指導を精⼒的に展開している。『AI時代を切りひらく算数―「理解」と「応⽤」を⼤切にする6年間の学び』(⽇本評論社)、『算数が好きになる本』、『新体系・中学数学の教科書(上・下)』、『新体系・⾼校数学の教科書(上・下)』(以上、講談社)他、著書多数。

お問い合わせ

WEBでのお問い合わせ

会員サイトでのお問い合わせ

ログインにお困りの方はこちら


お電話でのお問い合わせ

入会をご検討中の方

【Z会幼児・小学生コース お客様センター】

0120-79-8739
月~土 午前10:00~午後8:00
(年末年始を除く、祝日も受付)

会員の方

【Z会幼児・小学生コース お客様センター】

会員の方からよくいただくご質問の回答
お電話でのお問い合わせの前に、まずはご覧ください

現在、終日お電話が大変混み合っております。ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。

0120-35-1039
月~土 午前10:00~午後8:00
(年末年始を除く、祝日も受付)
おすすめサービス