習いごとやZ会での学習など、子どもが自分で「やりたい!」と思って始めたことは、できるだけ続けてほしいもの。とは言え、さまざまな理由で継続が難しくなってしまうこともあります。そんなとき、保護者はどのようにサポートしていけばいいのか、また、どんな声かけをしていけばいいのか、発達臨床心理学を専門とし、保育・教育実践に関する著書を多数お持ちの東京都市大学教授・井戸ゆかり先生にうかがいました。
※本記事は、2022年12月22日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
継続につながる目標や環境づくりのポイント
――習いごとや通信教育は、お子さま自身が「やりたい!」と希望して始めることが多いと思います。そのやる気が長く続くようにするには、どんなことを心がけるとよいでしょうか。
まず保護者の方に心がけていただきたいことは、「続けられるといいね」くらいの気持ちでいることです。つい「~ねばならない」と思いがちですが、「~できるといいね」くらいの気持ちでいるのがいいと思います。
親というのは、子どもに対して高い目標を求めてしまいがちです。ですが、子どもにとっては「ワクワク感」を感じられることが続けていく動機になるものです。とくに習いごとは、「楽しい!」と思えることが続けていく大きなモチベーションとなります。お子さんにとって適度な目標であれば、それを達成するたび喜びを感じられるので、「楽しい!」が続きます。「楽しい!」という気持ちがベースにあれば、うまくいかなかったり失敗したりすることがあっても、子どもは「でも楽しいから」と続けられるものなのです。
――子どもが楽しさを感じて継続できるようにするには、目標が大切なのですね。目標はどういうものがよいでしょうか?
お子さんの状況をよく見て、ちょうど合うレベル、もしくは少しだけ手を伸ばせば届くかなというレベルの目標がいいですね。
「ちょうど合うレベル」というのは、子どもの状態により変わっていきます。子どもにとって少し難しいようであれば、現状を維持しながら少しずつ改善した上で次のステップに進むという対応も考えられます。逆に、興味・関心が高くやる気になっているようなら、「もう少し頑張れるかな」というレベルにまで手を伸ばして設定してもいいかもしれません。いずれにしても、目標はお子さんの状況に合わせて少しずつ高くしていくことが大事です。

――では、毎日の練習や勉強を習慣化するのに適した環境とはどのようなものでしょうか。
勉強であれば教材を、習いごとであれば練習道具を子どもの手の届く場所におくことです。やろうと思ったときに手が届かない場所にあるとやる気を削がれてしまいますから。
そして、本人が集中できる環境をつくりましょう。いくら本人が一生懸命やろうとしても、周りが騒がしければやりたくなくなったり、集中力が切れてしまったりするので、テレビの音、話し声、外の音など、お子さんにとって何が刺激になっているのかを把握し、その刺激をなるべく取り除きましょう。
子どものやる気を継続させる声かけのしかた
――習いごとや勉強を継続するために、日々、どのような声かけをしていくとお子さんのモチベーションにつながるでしょうか?
「あなたのことを見守っているよ」というメッセージを送り続けることが大事かなと思います。具体的には、「よく頑張ってるね」「今日はどこまでトライしてみたの?」など、関心を向けていることが伝わる言葉かけをしていくのがよいでしょう。すごく落ち込んでいるときなら励ましは必要ですが、ふだんは励ますというよりは「よく頑張ってるね」などといった声かけのほうが、「見てくれている」ということが子どもに伝わります。
あとは、結果ではなくプロセスに目を向けましょう。お子さんの個性や得手・不得手を考慮し、苦手なところを頑張れたなら、その苦手に挑戦できたというプロセスをほめるのです。
また、できあがった絵が下手に思えても「その空の色、素敵だね」「このリンゴ、おいしそうだね」など、ポジティブな面を見つけてほめることも必要です。ポジティブな声かけをされることで、子どものモチベーションは変わります。そして、継続することにもつながっていきます。
――はじめは自分からやりたいと言ったことでも、続けるうちにモチベーションが下降気味になってしまうこともあります。そんなときは、どのように接したり、声をかけたりするとよいでしょうか?
まずは、子どもの気持ちに共感してあげることが大事です。「どうしたの?」と尋ね、話してくれるようならよく聞きましょう。保護者の方からも「お母さんも、もうやめたいって思ったことがあるんだよ」などと落ち込んだり、停滞したりした経験を話すと、「お母さんもそんな時期があったんだ」と少しほっとすることがあります。
「どうしたの?」と尋ねて「何でもない」と言われたときは、根掘り葉掘り聞かずに「じゃあ何かあったら話してね、聞くよ」と伝えましょう。とくに高学年の場合、「恥ずかしい」「言いたくない」となったり、「うざい」と言われたりしますよね。そうしたときに、「わかった。でも何かあったときは言ってね」という一言を伝えておくと、子どもは「自分にはお母さんやお父さんという味方がいるから大丈夫」と安心できます。
――つまずきにはどのように対処するとよいでしょうか?
そのままにしておくと何も改善できないので、どこでつまずいているのかを探ることがとても大事です。勉強を例に話すと、算数の文章題で×がついていたとき、文章を読むところでつまずいているのか、文章は読めたけれど式をつくるところでつまずいているのか、式までは作れたけれど計算ミスをしているのかなど、小分けにして見ていきましょう。
そして、計算ミスならば、「文章も読めていて式も立てられているね。まちがえちゃったのは計算のところだから、ゆっくり落ち着いてやってみようね」というような声かけをすれば、子どもは「そうか、ここまではできているから計算のところだけ気をつければいいんだ」とわかりますよね。
こうやって、できているところにも目を向け、その上でつまずきを克服できるよう助言していきましょう。
――保護者の方がお子さんをよく見て、気づくことがすごく大事ですね。
そうですね。ただ、言葉で言うのは非常にたやすいことで、保護者の皆さんにとっては忍耐だと思います。保護者の皆さんにだって感情のアップダウンはありますし、イライラすることもありますよね。いつも笑顔でにこやかで元気な保護者というわけにはいかないと思います。
だからこそ、保護者の皆さん自身が心にゆとりをもつことを大事にしてほしいと思います。健康を維持すること、また、イライラしたら深呼吸する、気分転換をはかる、自分の時間をつくるなどして自分らしさを失わないようにしてください。
子どもを見守り、必要なときに援助するには、自分の気持ちにゆとりがないとなかなかできません。また、子どもは、保護者の表情や仕草を過敏なくらいに読み取るので、保護者の方の焦りや無理はお子さんにも影響を与えます。保護者の方ご自身も子どもの継続する力をつくる環境の一つだと思っていただければと思います。
とはいえ、意識しすぎるとかしこまってしまうでしょうから、無理なくできるところから始めましょう。そして、できなかったらお子さん同様に立ち止まって、どこでつまずいたのか考えてみましょう。
ケース別 継続が難しくなった場合の対処法
続いて、継続が難しくなった場合の対処法について、ケース別に井戸先生にうかがいました。
1.取り組んでいることに飽きてしまったとき
まずは、その気持ちに寄り添ってあげましょう。「わかるよ。やりたくない、飽きたなと思うときってあるよね」と共感を示すのです。その上で、勉強しているときだったら「気分転換に体操でもしてみたら?」などと話したり、「1つだけでもいいからやってみない?」などと働きかけたりしていきます。それでお子さんが取り組めたら「できたじゃない!」とほめましょう。
あとは、少し見方を変えて、いつもと違った視点でアプローチしてみるのはどうでしょうか。たとえば、いつもは一人で黙々とやっていることを、保護者の方も一緒にやってみるなど。勉強ならクイズ形式で互いに問題を出し合う、習いごとの練習なら大人もやってみるなどして、楽しくできるようアレンジしてみましょう。
どうしても嫌なら、無理に継続しないで数日休みましょう。
2.友だちと比較して自信を失ってしまったとき
習いごとでも勉強でも、ときには友だちよりできないこと、友だちの方が上手だなと思うことも出てきて、自信を失ってしまうこともあるでしょう。でもそんなときは、保護者の方自身のできなかった経験を話してみるのも一つの方法です。「私も友だちよりも上達が遅くて、練習が嫌になったこともあったよ。そのとき自分はこう考えたよ」などと話すと、それをヒントにしてお子さんが何か突破口を見つけることがあるかもしれません。
あとは、お子さんの光る部分をほめて伸ばしてあげましょう。全部が全部お友だちに比べてひけをとっているわけではなく、何か一つでも光るものがあるはずなので、「お友だちはお友だちでいいところがあるけれど、あなたはあなたでこういういいところがあるじゃない。そこが大好きだよ」と言ってあげるといいかもしれません。
本人はすぐに納得しないかもしれませんが、保護者が自分を認めてくれる言葉かけをしてくれることで「自分はこれでいいんだな」と思えて自己肯定感をもつことができます。もしかすると本人は自分のよさに気づいていないかもしれないので、「あなたにはこんないいところがあるじゃない」「ここは得意じゃない?」などと伝えて気づかせる、あるいは引き出すのは、保護者にできることだと思います。
3.忙しくて取り組めなくなってしまったとき
これは、スケジュールを見直しましょう。1日、1週間、また必要なら1カ月のスケジュールを洗い出して、「今は何を大事にしたいのか?」「一番やりたいことは何?」「どうしてもやらないといけないことは?」と優先順位を決め、「Aは30%、Bは5%…」などと力の出し方も決めていきます。週2回の習いごとを週1回にするなどあきらめるものも出てくるかもしれませんが、ある程度は仕方のないことかと思います。
優先順位づけは子ども一人では難しいので、一緒に話し合って、お子さんの気持ちを尊重しながら決めていきましょう。
4.「やめたい」という意思が子どもの中に生まれてしまっているとき
あまりしつこく聞くのはよくないですが、なぜ嫌になってしまったのか、なぜやりたくなくなったのかを聞いてみましょう。その上で、「一緒にやってみようか」「楽しめるやり方でやってみようか」などと他の方法からアプローチできそうならしてみて、本人が乗るならそれでいいし、それでもやらないということなら無理強いせずに少し様子を見てみましょう。
「どうしてもダメだ」ということなら、「わかった、今まで頑張ったもんね。またやりたくなったらやるでいいんじゃない」と、無理強いはしないこと。そして、「またやりたいと思うときがあったら、そのとき話してね。また始めればいいから」と話してあげましょう。そうすれば、「今はやめちゃうけど、何かあったときはまたできるんだな」と選択肢があることを本人が理解できると思います。
ちなみに、私の子どもも、一緒にスイミングに通っていたお友だち2人に級を抜かれて「やめたい」と泣いていたことがあります。そこで、「そうだよね、悔しいよね、わかるよ」と言いながら「ねえねえ、お母さんと秘密の特訓する?」と誘ったところ乗ってくれたので、週1回のレッスンを週2回に増やして一緒にプールに入りました。そうして練習を続けると、途中でお友だちの級を抜き、小学校の最後のころには大会に出るくらいに上達して、今もずっと水泳が好きな子になりました。こうやって乗り越えるとまた変わってくることもあるので、子どもの様子を見て「一緒にもう少しだけ頑張ってみようか」と声かけしてもいいかもしれません。
5.受験勉強などで「目標が高い」「成果が出ない」などの理由で自信を失ってしまったとき
1つは、ここまででお話ししたように、結果ではなくプロセスを見て、頑張っていることはほめて、できていないところはどのようにして頑張ればいいか、具体的な方法を一緒に考えましょう。先述したように、楽しんで学べるツールを取り入れるのもいいでしょう。たとえば、歴史が苦手なら、歴史に関するマンガで流れをつかんでみるなどのひと工夫があってもいいと思います。
加えて、目標の設定が適切かどうか見直しましょう。問題が難しすぎるようなら、レベルを見直すなどして、小さな目標を細かく設定して、スモールステップで1つずつ超えられるようにするのです。そうして1つでもいいからトライして「解けた」というときのおもしろさを感じとれると、「やればできるんだな」「次もやってみようかな」と思えます。
始めることよりも続けることのほうが、何倍も難しいです。ときには嫌になることがあっても当然ですが、保護者の方がそのときできるサポートをし、もし子どもが悩んでいるときには一緒に立ち止まって考えてみましょう。
そうして続けてきたことはきっとお子さんの自信になるはずです。
――ありがとうございました。
井戸ゆかり(いど・ゆかり)
東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学。子どもの心身の発達に応じた子育て、保護者支援などについて研究している。渋谷区子ども・子育て会議会長、横浜市子育てサポート研修講師などを務める。『「気がね」する子どもたち-「よい子」からの SOS』 (萌文書林)、『子どもの理解と援助』(編著、萌文書林)など著書多数。