親子一緒に本を楽しもう〜「読書時間」のすすめ〜

子どもには読書習慣をつけてほしいと願う一方で、自分自身、読書をする時間が減っているという保護者の方もいらっしゃるかもしれませんね。そんなときは、親子で読書時間をもってみませんか。親子で読書時間をもつ意義や、子どもにあった読書への誘い方などについて、小学校で8年間の教員経験があり、読む力や言葉の発達に関する研究にも取り組んでいる國學院大學・吉永安里先生にうかがいました。

※本記事は、2022年11月24日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

親子で読書時間をもつことの魅力とは

――親子で読書時間をもつことの魅力や意義とは何でしょうか?

これは、年齢や経験によって少しずつ異なります。
まず、乳幼児の段階での読み聞かせには、保護者との信頼関係を築いたり心理的な安心感をもたらしたりする効果があります。子どもにとって読み聞かせは、大好きな人と過ごす時間の一つだと思います。まだこの時期は自分では読むことができないのでだれかに読んでもらいますね。そこで、大好きな人からお話を読んでもらい、「おもしろいな」「次はどうなるんだろう?」と感じる経験を共有するうちに、笑ったりドキドキしたり感動したりという感情をまるごと学んでいくということがあります。だれかと一緒に読むことによってそういう感情体験をしながら、本の読み方を学んでいるのです。

また読み聞かせは、スキンシップにもなります。お父さんやお母さんのひざの上や添い寝などでトントンしながら絵本を読んでもらうと、その心地よい経験そのものを、子どもは、本を読むことの心地よさと結びつけて認識するのです。 この時期の子どもは、親子で一緒に絵を指さしながら絵本を読むことで、お話を楽しみ、お話の読み方を知り、そして文字という存在にも気づいて興味をふくらませていきます。さらに、本とはページをめくって読み進めたり表紙にタイトルが書かれていたりするものであるといった「本とはどういうものなのか」を理解するようにもなります。

――幼児期の読み聞かせから子どもが獲得するものはとても大きいのですね。小学生になるとどう変わっていくのでしょうか。

そこから年齢が上がり、小学生になると「登場人物」「場面設定」「あらすじ・展開」「山場」など物語のさまざまな要素を把握する、文学的な読み方がだんだんできるようになります。そしてさらに、登場人物の台詞や情景描写に込められた登場人物の気持ちの変化など、複雑な、明示されていない部分を文章から推察して理解する力がついてきます。また、現実には出会わないような状況や、登場人物が経験する昔の時代や未来の世界を、物語を通じて追体験することで心の機微やさまざまな知識を学んでいくこともできます。

本が好きな子は1人で読んでいてもこうした読み取りをある程度行っているものですが、まだ読書経験の浅い子はそれが十分にできません。ですが、親子に限らず人と一緒に読んで、「自分はここに目をつけたよ」「自分はこう思うよ」などと自身の読みや感情体験を共有したり、他者の視点を知ったり、他者の読みから推論したりしていくことで、より深く読み取ることができるようになります。1人で読むのが得意でない子には、なおさら「ほかの人と一緒に読む」という経験が重要です。

たとえば、小学校の教員をしていたとき、国語の授業で『ごんぎつね』を読んでいると、穴の中に1匹で住んでいるごんについて「僕もお父さんとお母さんが外で働いているから、家に帰ると1人なんだよね。そういうときに、『みんな何してるのかな?』『いたずらしちゃおっかな?』と、かまってほしくなることがあるよ」と話す子がいました。それに対して、1人で留守番をする経験があまりない子から「そうなんだ、じゃあごんぎつねって○○くんみたいだね。寂しいからいたずらしちゃうのかな」といった言葉が出てくるなど、他者の経験や視点を学べるのも、人と一緒に本を読むことの意義です。このように「読み合う」ことができる最小単位が親子だと思います。

――本を人と一緒に読むことによって、1人で読むのとは違った効果があるのですね。

本は、文字を読んだり推論したり、知識を得て考えたりする力といった認知的スキルだけでなく、状況を読み取り、そこから他者の考えを推察して適切な行動をとったり、他者との関係性を築いたりする力(社会情動的スキル)までをはぐくむものです。将来、社会生活で必要な人間関係をはぐくむ力にもつながっていきます。ですから読書の経験をたくさんしてほしいのですが、読み取りの力がまだ未熟な子には、親子で読み合うことがその力を育てる一助になるでしょう。
本は子どもが知らなかった世界や感情を学べる場の一つですが、読んで感じたことを親子で話すことによって、さらに読み取りが深くなるというプラスアルファの効果が期待できると思います。

あとは、親子で同じ本を読むと、共通の話題ができるのも、本のいいところです。子どもの成長に伴い「子どもとどう遊んでいいかわからない」「子どもと何を話していいかわからない」などということも出てくるかもしれません。そういうときも、同じストーリーや絵を目にすれば自然と会話が生まれます。いいことずくめだと思いますよ。

さまざまある親子での読書の形態

――親子で読書をする際は、どんなふうに読むとよいでしょうか? 子どもの学年や読書の好き嫌いなどに応じたコツなどがあれば教えてください。

親子での読書は、「親が子に読み聞かせる」「子が親・きょうだいに読み聞かせる」「場や時間を共有してそれぞれ別の本を読む」「別々の本を読み、感想を共有しあう」「1冊の本を各自で読んで感想を共有しあう」など、やり方はさまざまです。学年というよりは、お子さんのタイプやそれぞれのご家庭の状況に合わせて、どんな方法がお子さんに合っているかを判断するのがいいと思います。

たとえば、「自分で読むのはあまり好きじゃないけれど、保護者に読んでもらうのは好き」というタイプのお子さんや、保護者の方がお子さんに読み聞かせをするのが習慣になっているご家庭などは、小学生であろうと中学生であろうと保護者の方が読み聞かせをしていいと思います。

逆に「読み聞かせをされるのがあまり好きではない」というお子さんもいるでしょう。私が過去に接したご家族の中に、お子さん本人は「読み聞かせは聞きたくない、でも本は読みたい」、保護者の方は「まだ小1なので読み聞かせをしたい」というご家族がいました。そのご家族に対しては、「お子さんが何をしたいかが大事なので、逆にお母さんが読んでもらって、そのお話を一緒に楽しんではいかがですか。一緒に楽しむ時間をもつことが大事なんですよ」と助言したことがあります。

――読書の後の感想のやりとりはどのようにするとよいでしょうか?子どもへの感想の求め方や、保護者の感想の伝え方のコツがあれば教えてください。

子どもが自分から働きかけてくれる年齢のうちは、目の前のお子さんが何に着目して、何に反応しているのかをよく見て、お子さんが言ったことに「私も興味をもったよ」「あなたの考えはおもしろいね」「目のつけどころがいいね」などと適切に反応することが大事です。

これは読書に限ったことではなく、すべてにおいて言えることです。子どもは、自分の発信や行動に大人が反応してくれると、自己発揮や自己主張することをポジティブに捉えますよね。しかし、いつも大人からの提案や指示に従っていたり、大人から否定的な反応をされたりすると、主体性や自己肯定感がはぐくまれません。今、主体性や自己肯定感が重要だと言われていますが、その根源にあるのは、自分の反応に周りが興味をもってくれるという確信です。

ただ、中学年や高学年になってくると、お子さんから感情や反応を表出してこなくなることもあります。そのときは、保護者の方から「私もあなたの読んでいる本を読んだけど、どうだった? 私はこう思ったんだよね」などと投げかけることも、親子のつながりを作っていく意味で重要ではないかと思います。

保護者の方の感想の伝え方については、子どものためにと自分の感情をコントロールする必要はなく、「あー、おもしろかったね」「ドキドキしたね」などと素直に伝えて何ら問題はありません。

 

読書習慣のない子どもの読書への誘い方

――読書をする習慣がないお子さんに対しては、どのようにアプローチするのがよいでしょうか?

「一緒に図書館に行かない?」と誘うのは、方法の一つです。「あなたの買い物のついでに、私が本を借りるのに付き合って」と誘うといいかもしれません。そうやって一緒に本を借りに行って、読んで、一緒に返しに行って、また借りる、ということを繰り返して習慣化していくのです。すると、中学校・高校・大学と大きくなったときに保護者の方が付き添わなくても本を借りに行くようになる子は多いのではないかと思います。

あとは、電車で一緒に移動する予定があるときに「電車内では私は本を読むから、あなたも本を持って行ったらどう?」と誘ってみる。保護者の方がスマホを見たりゲームをしたりするのではなく、本を読んでいると、お子さんも横で静かに一緒に本を読むようになるかもしれません。電車移動に限らず、退屈な時間を家族みんなで本を読む時間にできるといいですよね。

本に接する機会がなければ、子どもは本を借りようとも買おうとも思いません。保護者の方が一緒に本屋さんに行ったり、図書館に行ったりするシチュエーションをつくっていくことと、何より家の中に本があること。そうやって身の回りの一般的なものとして本がある状況が、子どもにとっての本を読むハードルを下げていきます。なるべく幼いうちからこういった経験を積み重ねられるといいですね。

――読書の習慣がないまま高学年になっているお子さんに対しては、どうすればいいでしょうか?

家族ぐるみで図書館に行ったり、お子さんのお友だちからおもしろかった本をお子さんに勧めてもらったりするのもいいと思います。年齢が上がれば上がるほど保護者の言うことを聞かなくなるので、お友だちやほかのご家族の力を借りるのは方法の一つです。

あるいは保護者の方が、学校の読み聞かせボランティアに参加するのもいいですね。そうすると、「私も本やあなたのことに興味をもっているよ」ということをお子さんに婉曲的に伝えられます。思春期のお子さんにはこうした間接的な愛情表現の方が適していることもあります。

また、家族内で本の貸し借りや感想の伝え合いが起こる環境をつくるのもいいと思います。とくにお子さんが中学年、高学年になるほど「この本おもしろかったよ」「お父さんが読んだあと、お母さんに貸して」といったやりとりや、「本っておもしろいね」という言葉や雰囲気が家族の間にあるといいですね。お子さんも「おもしろそう」「読んでみようかな」と興味をもってくると思います。

あとは、たとえば「最近ゲームの時間が増えているから、20〜21時の1時間はテレビもつけずゲームもせず、電子機器も置いてみんなで本を読む時間にしよう」と、家族の団らんの時間として親子の読書の時間をつくってみてもいいのではないかと思います。あるいは、保護者の方が率先して「今日から21時を過ぎたら本を読むから、よかったら一緒に読まない?」と声をかけるのも手でしょう。

 

――保護者の方自身が忙しくて読書の時間をもてない、そもそも本を読む習慣がないといった場合は、どうするのがよいでしょうか?

それは保護者の方自身が頑張って読書の時間をつくりましょう。お子さんに読書を習慣づけようとしているのに保護者の方ができないようでは、どうして子どもにやれと言えるでしょうか。読書に限ったことではなく、勉強もそうなんですよね。子どもに一方的にやりなさい、と言うだけでは子どもは育ちません。保護者が仕事したり、勉強したりする姿を見せることも大切です。
親子で共有できることは読書以外にもいろいろありますが、親子で一緒の時間・空間を過ごし、読書経験を共有しあうことは、最初にも述べたように、お子さんの読む力だけでなく、人間関係を構築する力を育てることにもつながるのです。ですから、保護者の方もその時間をつくり、一緒に読みましょう。たとえば、「あまり時間がないから、本は通勤時間を使って読もうかな」「そのための本を借りにいくのに週末つきあって」と声をかけつつ実践するのもいいと思います。

親子で読む本の選び方

――最後に、本を選ぶときのコツやヒントを教えてください。

読書が好きなお子さんの場合、読むジャンルを広げていくとよいでしょう。たとえば、推理小説が好きな子ならファンタジー、ファンタジーが好きな子なら科学的な読み物や伝記なども薦めてみるなど。興味をもっているジャンルから少しずつ横に広げていきましょう。

読書が苦手なお子さんの場合、「好き」を入り口にするのがいいと思います。たとえば、スポーツが好きな子なら選手の自伝、虫が好きな子なら虫が登場人物の話、ファッションに興味がある子なら、色彩や洋服をテーマにした本、という具合です。私が小学校教員時代に高学年向けに伝記を扱った際には、サッカーが好きな男の子にメッシの自伝を薦めました。

そうして「好きなもの」に関連する本を読み進めるうちに、「好きな作家」「好きなシリーズ」など「好きな○○」が出てくれば、その作家さんやシリーズの本を芋づる式に読んでいくのです。保護者の方も「あなたの好きな○○さんの新刊が出たみたいだよ」「このシリーズ好きだったよね、まだほかにもあるから読んでみれば?」などと薦めていくとよいでしょう。

他方で、保護者の方が好きな本をお子さんに薦めたいこともあるでしょう。その場合、「なぜ好きなのか?」という理由やエピソードを伝えると、子どもはその本に興味をもちやすいと思いますよ。

――ありがとうございました。

吉永安里(よしなが・あさと)


國學院大學人間開発学部子ども支援学科准教授。博士(子ども学)。東京都内私立幼稚園、東京都公立小学校、東京学芸大学附属小金井小学校勤務の後、現職。専門は幼小接続、言語発達、小学校国語科教育。おもな著書に『あそびの中の学びが未来を開く 幼児教育から小学校教育への接続』共編著(世界文化社)など。