「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
※本記事は、2019年5月23日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
作っている途中に鮮やかな赤紫へ! 色が変わるのはなぜ?
6月は梅仕事の季節。そろそろ、梅酒や梅干し作りの材料にと青梅が店頭に並ぶ頃ですね。梅干し作りに使われる赤しそも、青梅と一緒に売られていることが多いですが、赤しそ単体でジュースにしてもおいしいですよ。梅干しよりも簡単ですぐにでき上がりますし、作る途中で色が鮮やかに変化し、見た目にも楽しいので、休日にお子さまと一緒に作ってみてはいかがでしょうか。
今回は、赤しそジュースの作り方と、色が変わる色素の不思議についてご紹介します。
レモン汁を加えた瞬間に色が変わる!
赤しそジュースの作り方はとってもシンプル。沸騰したお湯に赤しそを入れて煮出し、ザルなどでこしたら、砂糖とレモン汁を加えて一煮立ちさせるだけです。煮出したばかりの赤しその煮汁は暗い紫色をしていますが、レモン汁を加えると「アントシアニン」の性質によって鮮やかな赤紫色に発色するので、この変化を見逃さないようにしましょう!
アントシアニンとは、おもに植物に含まれる紫色の色素の名前です。ナスの皮や紫キャベツ、紫玉ねぎ、ラディッシュ、ミョウガ、紫芋などの野菜や、いちご、ブルーベリー、ぶどうなどの果物、ブルーマロウ(写真)やバタフライピーといったハーブティーにも含まれています。
この色素は、中性ではやや暗い紫色ですが、酸性では明るい赤紫色やピンク色に、アルカリ性では青色や緑色に変化するという性質があります。揚げナスを南蛮酢にひたしたり、さっとゆでたミョウガを甘酢につけたりすると色が鮮やかになるのはこのためです。
赤しそジュースも同様で、赤しそを煮出した汁にレモン汁を加えると、レモン汁に多く含まれるクエン酸という酸によって煮汁が酸性に変わり、溶け出したアントシアニンが鮮やかな赤紫色に発色するというわけです。
このように、赤しそジュースに加えるレモン汁は煮汁を酸性にして色を鮮やかにするため、また、ほどよい酸味をつけるために加えるので、食用のクエン酸(スーパーの製菓コーナーやドラッグストアにあります)やお酢(酢酸という酸が豊富)でも代用できます。お酢を使う場合はレモン汁と同じ量で、リンゴ酢などのフルーティな香りのものを選ぶのがおすすめです。クエン酸を使う場合は、レモン汁大さじ1に対して小さじ1弱で代用しましょう。
ちなみに、赤しそを使った梅干しがきれいな赤色になるのも、赤しそのアントシアニンが梅に含まれるクエン酸によって発色するためです。酸の多い果物というとレモンなどの柑橘類を想像する人が多いと思いますが、実は、梅はレモン以上にクエン酸を多く含む果物です。梅を塩漬けにすると、クエン酸が溶け込んだ酸っぱい汁が出てきます。これを梅酢と呼びます。塩もみした赤しそに梅酢を加えると、赤しそのアントシアニンがクエン酸によって発色し、鮮やかな赤色の赤梅酢ができます。これを塩漬けにした梅と合わせることによって梅干しが赤色に染まるのです。
赤しそジュースの色が変わるのは……
レモン汁を加えてジュースを酸性にすると、赤しそに含まれるアントシアニンという色素が鮮やかな赤紫色に変わるから!
作り方/レシピ
赤しそジュース
材料
水 500ml
赤しそ 100g
グラニュー糖 200g
レモン汁 大さじ4
(リンゴ酢大さじ4 または クエン酸大さじ1でも代用可能)
1.洗う
赤しその葉はため水のなかでよく洗い、ざるにあげて水を切る。
2.煮る
鍋に水を入れて火にかけ、沸騰したら赤しそを入れて10分ほど煮る。
3.こす
ボウルの上に、ふきん(またはリードペーパーなど)を重ねたざるをのせ、2をこす。葉を軽く絞って煮汁をこしとったら、煮汁を鍋に戻す。
4.仕上げ
砂糖を加えて溶かし、再び火にかける。沸騰したら、レモン汁を加え、ひと煮立ちさせてできあがり!
- 清潔な瓶に入れて、冷蔵庫で保存しましょう。保存期間は1カ月以内が目安です。
- 水や炭酸水で5〜6倍に希釈して飲みます。
- コップに赤しそシロップと多めの氷を入れ、水や炭酸水を氷に当てるようにしてそっと注ぐと、赤と透明の二層に別れるので見た目にもきれいです。(飲む前によく混ぜましょう)
プラス知識! 色の変化確認実験!
赤しその煮汁ができたら、レモン汁を加える前に少量取り分け、簡単な実験をしてみましょう。紙コップや小さめの容器を3つ用意し(同じ形で内側が白いものが良い)、赤しその煮汁を三等分します。
1つには何も加えず、1つには少量のレモン汁(またはお酢)を、もう1つには少量の重曹を加え、色を比べてみましょう。レモン汁(お酢)を加えたものは酸性になり、鮮やかな赤色に、重曹を加えたものはアルカリ性になり、暗い青色に変化します。このように比較してみると、光の加減や目の錯覚ではなく、確かに色が変化したのだということがよくわかりますね。
赤しそジュースのほかに、紫キャベツやナスの皮を刻んで煮出した煮汁や、ブルーベリーをすりつぶした汁、ブルーマロウやバタフライピーのお茶などでも同様の変化を確認できるので、いろいろな食材で試してみてもよいでしょう。
レモン汁やお酢、重曹以外のもので、色がどのように変化するか調べてみるのもおもしろいです。炭酸水やこんにゃくの汁、卵の白身などを加えるとどうなるでしょうか。また、家庭内で使われる洗剤も、用途によって酸性のもの、中性のもの、アルカリ性のものと様々なので、少し気が早いですが夏休みの自由研究として調べてみてもおもしろいと思います。
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。