ひんやりなめらか 手作りアイスクリーム

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

※本記事は、2022年7月28日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

暑い夏に食べたい冷たいデザート

夏の暑い日には、ひんやり冷たいアイスクリームが食べたくなりますよね。お店で買ってくるのもいいですが、手作りするのも楽しいものです。

基本の材料は生クリームと牛乳、卵黄、砂糖の4つだけ。生クリームと牛乳を同量ずつ使えばなめらかリッチな濃厚アイスクリームができますし、生クリームを使わずに牛乳だけで作ればあっさりとした「明治時代のアイスの味」に。バニラエッセンスやナッツ、クッキーなどを加えて香りや食感を工夫してもいいですね。

今回紹介するのはなめらかクリーミーなバニラアイスクリームの作り方。舌触りなめらかに仕上げるためのポイントは、材料中の水分が凍る際に、氷の結晶がなるべく小さくなるようにすることです。氷の粒が大きくなるとその分、ザラッとして舌触りが悪くなってしまうからです。では、どうすれば結晶が小さく、なめらかなアイスクリームになるのでしょうか。手順と一緒に見ていきましょう。

 

材料(2人分)
牛乳 100ml
生クリーム 100ml
卵黄 1個
砂糖 40g
バニラエッセンス 数滴
ミントなど お好みで
<凍結用>
氷 400〜600g
塩 100〜150g

 

道具
・ボウル 3個(1個は大きめのもの)
・泡立て器
・ヘラ
・濾し器またはザル
・小鍋
・バットまたはタッパー(金属製がよい)

 

1.卵黄と砂糖を混ぜる
卵黄と砂糖をボウルに入れ、泡立て器で白っぽくなるまですり混ぜる。

 

2.牛乳と生クリームを温める
小鍋に牛乳と生クリームを入れて火にかけ、ふつふつとしてきたら火からおろす。

 

3.アイスクリームミックスを作る

1のボウルに2を少量ずつ、混ぜながら注ぐ。鍋に戻し、へらでよく混ぜながら弱火で温める。ふつふつとして、液がとろりとしてきたら火からおろす。こし器やザルでこしてなめらかにしながら金属製のボウルに移す。

 

ポイント

卵黄を加熱して用いると、変性したタンパク質や乳化成分のはたらきにより、氷の結晶の成長が抑えられ、アイスクリームがなめらかに仕上がります。卵は急激に温められると部分的に凝固してダマになってしまうので、以下の点に注意しましょう。

  • あらかじめ卵と砂糖を混ぜ合わせておく(砂糖にはたんぱく質の凝固をゆるやかにする効果がある)。
  • 温かい牛乳と生クリームを少量ずつ加え、徐々に卵液を温める。牛乳と生クリームが入った鍋に卵液を入れると、入れた卵液が急激に温められてしまうので、必ず卵液のボウルに牛乳と生クリームを入れる。
  • よく混ぜながら弱火で温める。

 

4.冷ます

大きいボウルに氷水(分量外)を入れて、3のボウルを浸す。ヘラで混ぜながらよく冷ます。冷めたらバニラエッセンスを加えて混ぜ合わせる。

 

5.凍らせる

大きいボウルに入った氷水をいったん捨てて、底に凍結用の氷を敷き詰める。塩をたっぷりと振り、その上に4のボウルをのせ、ボウルと大きいボウルの間にも氷と塩を詰める。

 

この状態で、泡立て器でかき混ぜながら30分から1時間ほど冷却する。はじめは数分おきにかき混ぜればOK。

液が十分に冷えてくるとボウルと液が接している部分に氷の結晶ができて、泡立て器がすべりにくいような感触になるので、ここからはこまめに混ぜて全体をまんべんなく冷やす。よく混ぜるほどなめらかに仕上がる。

 

ポイント

氷に塩を振りかけると-10〜-20℃まで温度が下がるので、これを利用してアイスクリームを凍らせます。この方法では、かき混ぜるのと冷やすのとを同時に行うことができるので、液の温度がまんべんなく下がります。なめらかなアイスクリームを作るには、この「まんべんなく冷えること」がとても重要です。

アイスクリーム液を冷やすと、液に含まれる水の分子が結晶を作って氷となります。最初に結晶の核ができると、そのまわりに他の水分子が集まって結晶が成長し、氷の粒は徐々に大きくなっていきます。

冷凍庫に入れるなど、静止した状態で冷やした場合、容器に触れている外側が先に冷たくなり、徐々に内側が冷えていきます。そのため、まず外側の水分子が結晶の粒を作り、その少し内側の水分子が周りに集まって結晶が成長していきます。その結果、氷の粒は大きくなり、シャリシャリザリザリとした食感になります。

一方、こまめにかき混ぜながら全体がまんべんなく冷えるようにすると、液全体で小さな結晶が同時にたくさんできます。余っている水分子が少なく、結晶が成長しにくいので、舌で感じられないほど小さな氷の粒が大量に散らばっている状態になり、なめらかな食感に仕上がります。

塩で氷の温度を下げる際は、氷:塩=4:1になるよう、塩をたっぷり入れるとよく冷えます。非常に冷たいので、ボウルに触る際は注意しましょう。ボウルを支える方の手に軍手をはめておくと安心です。

 

6.さらに冷やし固める

ある程度固まって混ぜにくくなってきたら、金属製のバットに移して冷凍庫で1〜2時間よく冷やし固める。

器に盛り付け、お好みでミントを添える。

 

ポイント

5の段階では、アイスクリーム液に含まれる水分の半分程度しか結晶化していないので、冷凍庫でさらに冷やして固めます。このときも、なるべく全体がまんべんなく冷えるようにするため、バットやタッパーのような浅く広い器に入れ、表面積を大きくします。

 

氷を使わず、冷凍庫だけで冷やし固めて作る方法もあります。その場合、2では生クリームを加えず、4のタイミングで七分立てに泡立てた生クリームを加えます。

これをバットに入れて冷凍庫で1〜2時間冷やし、固まってきたらフォークなどでよく混ぜ、再度冷やし固めて出来上がりです。

かき混ぜながら冷やす場合、混ぜることによって空気が取り込まれ、細かい気泡ができます。この泡が多く含まれているほど、出来上がるアイスはふわふわと軽く、やわらかくなります。また、泡は氷の結晶が成長するのを邪魔する効果もあるため、なめらかな食感に仕上げるためにも大切な存在です。

しかし、冷凍庫で固める場合、気泡ができるほどしっかりかき混ぜるのは難しいですよね。そのため、生クリームを泡立ててから加え、気泡を含ませた状態で冷やし固めるのです。

なお、手順5のポイントで解説したように、この方法では氷の結晶が大きく成長しやすいので、舌に氷の粒が感じられ、少しシャリシャリとした食感になります。

 

市販のアイスを買ったらパッケージラベルを見てみましょう。「種類別」という欄に「アイスクリーム」「アイスミルク」「ラクトアイス」「氷菓」といった表示が記されています。同じブランドの商品でもフレーバーによってこの表示が違うこともあります。これらがそれぞれどう違うのかご存知でしょうか。

この表示は、含まれる乳固形分(乳製品のうち水分をのぞいた成分)や乳脂肪分(乳固形分に含まれる脂肪)の割合によってアイスを分類したものです。以下のように、アイスクリームが最も乳固形分・乳脂肪分が多く、なめらかでミルクの風味やコクがよく感じられます。一方、ラクトアイスは乳固形分の割合が少なく、あっさりとした味わいです。

今回紹介したレシピで乳脂肪分35%の生クリームを使用した場合、乳固形分が19.8%程度、乳脂肪分は14.8%となり、アイスクリームに分類されます。

ところで、日本でアイスが作られるようになったのは江戸末期から明治時代にかけてのこと。当時、アイスは「あいすくりん」と呼ばれ、生クリームを使わず、牛乳、卵、砂糖だけで作られたものでした。今回のレシピの生クリームを牛乳に置き換えて作った場合、乳固形分は9.9%、乳脂肪分は3.0%。アイスミルクとラクトアイスの中間くらいで、乳脂肪が少ない分あっさりさっぱりとした味わいです。アイスクリームが上手にできたら、次はぜひ「あいすくりん」にも挑戦してみましょう。

 

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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