「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
そうめんがラーメンに? 「ラーメン風そうめん」
夏のお昼ご飯の定番といえばそうめんでしょうか。ゆで時間が比較的短いですし、つるつると喉越しが良く、暑さで食欲が落ちていても食べやすいのが魅力です。オーソドックスにめんつゆをつけたり、サラダ風にしたり、食べ方もいろいろですが、夏も後半になるとちょっぴり飽きてきたりもします。そこで今回は、そうめんを中華麺風に味わうための裏技を紹介しましょう。
作り方はとても簡単で、そうめんをゆでる際のお湯に、ある「白い粉」を入れるだけ。これだけでそうめんなのに中華麺のような味わいの不思議な麺ができあがります。
そうめんが中華麺風に変身!
そうめんを中華麺風に変える不思議な粉とは「重曹」のこと。掃除に使われることもありますが、蒸しパンやまんじゅうの生地を膨らませたり、山菜のアク抜きをしたりと、料理にも使われます。市販されている重曹には掃除用と食用があるので、必ず食品売り場で食用のものを買ってくださいね。
水1リットルにつき重曹大さじ1を加えて沸騰させ、パッケージの表示通りにそうめんをゆでます。ゆであがったらザルで湯を切れば中華麺風そうめんのできあがり。食べてみると中華麺独特の風味がするはずです。よく見ると見た目も中華麺のようにほんのり黄色に色づいています。
重曹一つで、そうめんが中華麺風に変わる理由
なぜ、重曹入りの湯でそうめんをゆでると中華麺のようになるのでしょうか。その秘密を紐解くため、まずはそうめんと中華麺の作り方を説明します。
そうめんと中華麺の共通点は、小麦粉を練って作ることです。小麦粉には10〜13%のタンパク質が含まれていますが、その大部分がグリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質で構成されています。これらのタンパク質は、水を加えてこねたりかき混ぜたりすると、絡み合って網目のようになり、粘り気と弾力のあるグルテンという物質になります。
小麦はパンや麺の材料として世界中で重宝されている穀物ですが、ここにはグルテンの性質が大きく関わっています。たとえばパン作りでは、グルテンの粘り気のおかげで生地がよく伸び、弾力があるためイーストが作り出した炭酸ガスを逃さず抱え込むことができます。麺を作る際にも、グルテンのおかげで生地がちぎれることなくよく伸び、コシのある麺ができます。
そうめんは、小麦粉と水のほかに食塩を加えて作ります。食塩は、グルテンの網目を引き締め、生地の弾力を増したり、生地をちぎれにくくしたりする効果があります。
一方、中華麺では、一般的にかん水という材料が使われます。かん水とは炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどを含むアルカリ性の水溶液で、生地をアルカリ性にします。これにより、グルテンがよく形成され、生地の弾力が増します。かん水を加えて作った麺では、グルテンがデンプンの間に薄く広がり、独特の食感を作り出しているとも考えられています。
また、かん水は麺の見た目にも影響を与えます。小麦粉に含まれるフラボノイドという色素は、酸性から中性では白色ですが、アルカリ性になると黄色くなります。現在市販されている中華麺の中には、食用色素で色付けしているものもありますが、もともとはかん水の影響で黄色くなっているのです。
また、中華麺はほかの麺にはない風味があります。小麦粉の生地にかん水を加えると、アルカリの影響でグルテンを形成するタンパク質の一部が変化し、少量のアンモニアが生成されます。これが中華麺独特の風味を作り出しています。
重曹とは「炭酸水素ナトリウム」の粉末で、水溶液はアルカリ性となります。また、重曹を加熱することで生じる「炭酸ナトリウム」はさらに強いアルカリ性です。重曹を入れた湯でそうめんをゆでることにより、かん水を使った麺のような色や風味の変化を後から作り出すことができ、まるで中華麺のような仕上がりになるというわけです。
「ラーメン風そうめん」の作り方
材料(1人分)
- そうめん 100g
- 重曹 大さじ1
- お好みの具材(味付き卵、刻みネギ、チャーシューなど)
- ラーメン風スープ
*中華だしの素 小さじ1
*ごま油 小さじ1
*しょうゆ 大さじ1
*こしょう 少々 - お湯 300ml
1.麺をゆでる
鍋に水1リットルと重曹を入れて火にかける。
沸騰したら火を弱めてそうめんを入れ、パッケージ記載のゆで時間通りにゆでる。
重曹を入れると泡立ってふきこぼれやすくなるので、火加減に注意する。
2.スープを作る
丼に*の材料を入れ、お湯300mlを注いで混ぜ合わせる。
3.湯を切る
麺がゆであがったらザルに上げて湯を切る。
2に入れてお好みの具材をのせたらできあがり。
フラボノイドの変色
小麦粉のフラボノイドがアルカリ性で黄色に変化する現象は、製麺以外でも見ることができます。小麦粉の生地に重曹を加えて作る蒸しパンは、仕上がりが少し黄色っぽくなります。重曹を入れた生地を加熱すると、重曹(炭酸水素ナトリウム)が分解して炭酸ナトリウムというアルカリ性の物質と、二酸化炭素が発生します。これにより蒸しパンが膨らむのですが、生地はアルカリ性になるので、フラボノイドの変色によって黄色っぽい仕上がりになるのです。
フラボノイドは小麦以外の食品にも含まれています。たとえば、カリフラワーをゆでるときに酢やレモン汁を入れることがあります。これは、カリフラワーに豊富に含まれているフラボノイドがアルカリ性で黄色に変色するのを防ぎ、美しい白色を保つためです。
次回は「防災対策にも! 鍋を使った炊飯方法」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。