災害時に役立つ! 鍋やポリ袋を使ったご飯の炊き方

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

 

いざという時のために!  お子さまと一緒に鍋炊きご飯

実りの秋。全国で米の収穫が行われ、新米が出回る季節がやってきました。また、9月は災害への備えを意識する防災月間でもあります。炊飯器を使えば、ボタンひとつで簡単にご飯が炊けますが、鍋を使った炊飯方法を覚えておくと、停電時でも炊き立てのおいしいご飯を食べることができます。

今回は、炊飯中に鍋の中で何が起こっているのかを解説し、鍋でご飯を炊く際のポイントや、災害時に便利なポリ袋を使った炊飯方法を紹介します。

 

「ご飯を炊く」という調理の一番の目的は、米のデンプンを糊化させること。生のデンプンを水と一緒に加熱すると、やわらかく粘り気のある糊化デンプンになります。生のデンプンは硬く、味も消化性も悪いですが、糊化することで食べやすく、消化も良くなります。

米のデンプンをすみずみまで糊化させるには、まず米の中までしっかりと吸水させ、それから糊化を進めることが大切です。糊化が始まると、糊状になったデンプンが米の表面を覆い、米の中心部に水が届きにくくなるので、それまでによく水を吸わせておく必要があるのです。米の吸水は
①加熱前に水に浸す間
②加熱開始から糊化温度に達するまでの間
の二段階で考えると良いでしょう。順番に解説していきます。

まず①の加熱前の吸水について。温度が高いほど吸水が早いので、夏なら30分、冬は1〜2時間ほど時間をとります。

吸水が終わったら鍋に入れて火にかけましょう。これによって水の温度が上がるため、さらに吸水が進みます。これが②の吸水です。60℃付近でデンプンの糊化が始まるので、それまでに十分な吸水が行われるよう、火加減を調節するのがおいしく炊くためのコツになります。

加熱開始から沸騰までの理想的な時間は約10分。それよりも短いと、吸水が不十分なままデンプンの糊化が始まり、芯が残りやすくなります。逆に長すぎると、沸騰前に水がすっかり米に吸収されてしまうため、対流が起こりにくく上下の加熱ムラが生じたり、この後の沸騰による加熱が不十分になったりして、仕上がりに影響が出ます。

慣れないうちは、途中まで蓋を開けて中の様子を確認し、時間を測りながら加熱してみましょう。ぷつりぷつりと小さな気泡が出てくるのが60〜70℃、ブクブク言い始めたら80〜90℃。この辺りで蓋をします。蓋の間から蒸気が出てきたら約100℃です。火加減はだいたい中火くらい。5分で小さな泡がプツプツ、さらに5分で蒸気が出てくるくらいを目指すと良いでしょう。


 

沸騰してから火を消すまでは20分程度が目安です。この間、鍋の中を高温で維持できるよう、蓋を取らずに加熱を続けます。まず、蒸気が出てきてしばらくは、吹きこぼれない程度の強めの火加減で残った水分をしっかりと沸騰させ、でんぷんの糊化を進めます。5分ほど経つと水気が減り、米を「煮る」状態から「蒸し煮にする」状態に変わるので、焦げないように火を弱めましょう。

米の外側の水分がさらに少なくなると、鍋底が100℃以上に上がり「蒸し焼き」状態になります。すると、米に含まれる糖とアミノ酸がメイラード反応を起こし、香ばしいきつね色の“おこげ”ができます。

火を止めたら、このまま蓋を開けずに10分ほど蒸らしましょう。この間に、米粒の周りに残った水分が吸収され、全体に行き渡ります。蒸らし終わったら、ご飯が熱いうちにしゃもじで混ぜ、余分な水分を蒸発させてできあがりです。

材料(3〜4人分)

  • 米 2合(360ml)
  • 水 430ml(米の体積の1.2倍程度)

1.米を研ぐ
ボウルに米を入れ、水(分量外)を2〜3回入れ替えながら、かき混ぜるように研ぐ。
水が少し濁っているくらいでOK。ザルに移して水気を切る。
鍋に入れて水430mlを加え、吸水させる。夏は30分ほど、冬なら1〜2時間程度。


2.沸騰させる
鍋を火にかけ、中火で10分ほどかけてゆっくりと沸騰させる。
慣れないうちは途中まで蓋を開けて中の様子を確認すると良い。
※ぷつぷつと気泡が出てくる(60〜70℃)まで約5分。ブクブクしてきたら(80〜90℃)蓋をする。蓋の間から蒸気が出てくる(100℃)までが合計10分になるのが理想。

▲ぷつぷつと気泡が出てくるまで5分

▲蓋の間から蒸気が出てくるまで合計10分


3.蒸し煮にする
沸騰してから5分ほど経ったら火を弱め、さらに15分程度加熱する。
火を止めて、蓋をしたまま10分蒸らす。

▲沸騰してから5分ほどで火を弱める

▲弱火でさらに15分程度加熱

熱いうちにしゃもじでさっくりと混ぜてできあがり。

災害時に備えて、ポリ袋を使ったご飯の炊き方も覚えておくと便利です。まず、湯煎可能な耐熱性のポリ袋に研いだ米と水を入れます。米は無洗米があると、米を研ぐための水を使わなくていいので便利ですね。水は米の容量の1.2倍。1人あたり米100ml、水120mlが目安です。空気をしっかり抜いて口を縛ったら30分から1時間吸水させます。

吸水が終わったら鍋にお湯を沸かしましょう。鍋の底が高温になると袋が溶けることがあるので、鍋の底にポリ袋が接しないように、水を入れた鍋の底に耐熱皿を沈めて火にかけます。沸騰したら、米を入れたポリ袋を入れ、ごくわずかに沸騰するくらいの火加減で25〜30分湯煎しましょう。取り出して10分ほど蒸らしたら完成です。

ポリ袋1枚に1人分ずつ入れれば袋が食器代わりになりますし、鍋を洗う必要もありません。別のポリ袋でおかずを作ったり、レトルトパックを温めたり、同じ鍋で同時に複数の調理もできます。災害への備えについて話し合いながら、家族でポリ袋ご飯に挑戦してみてはいかがでしょうか。


次回は「肉豆腐」のレシピと科学ポイントについて解説いたします。どうぞお楽しみに!

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

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