「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。
寒い冬にぴったり! ポタージュを作ってみよう

とろーりなめらかでまろやかな味わいがおいしいポタージュ。大人も子どもも好きな人が多いメニューですよね。冬は温めて食べれば心も体もほっこり温まりますし、夏はキンと冷やしてサラッと食べてもおいしいものです。
ミキサーやブレンダーがあればご家庭でも簡単に作ることができる料理ですが、お店のように味わい深く、なめらかな舌触りに仕上げるにはちょっとしたコツがあります。今回は、ポタージュのコツと、野菜のおいしさをしみじみ味わえるポタージュのレシピを紹介します。
常備しやすいにんじん、玉ねぎ、じゃがいもをベースにしているので、いつでも気軽に作ることができますし、このレシピをベースに材料を置き換えればいろいろな野菜に応用できますよ。
にんじんと玉ねぎの基本のポタージュ
材料(5〜6人分)
- 玉ねぎ 200g(1個程度)
- にんじん 200g(1〜1.5本程度)
- じゃがいも 100g(1個程度)
- バター 20g
- 水 400ml
- 牛乳 200ml
- 生クリーム 50ml
- 塩 少々+小さじ1/2
- カレー粉またはシナモン お好みで少々
※生クリームを入れた方がなめらかな仕上がりになりますが、牛乳で代用してもOKです。サラッとした仕上がりになります。
※野菜の甘みやうまみを楽しめるよう、塩味だけで仕上げています。お好みで顆粒コンソメを使う場合は、塩を減らして調節してください。
1.野菜を切る
玉ねぎは繊維に直角に薄切りにする。
にんじんは皮をむいて3mmの厚さに切る。
2.じっくり蒸し炒めにする
厚手の鍋にバター、玉ねぎ、にんじんを入れ、塩ひとつまみを振り入れる。
蓋をして中火にかけ、シュワシュワと音がし始めたら弱火にする。
ときどき混ぜながら10〜15分程度じっくり蒸し炒めにする。
この間に、じゃがいもを5mmの厚さに切る。
ポイント
ポタージュのおいしさの土台となるのは、弱火でじっくり炒めた玉ねぎです。玉ねぎの代わりに長ネギやポロネギなどを使う場合も、同様にじっくり炒めましょう。
玉ねぎなどのネギ類には、刺激臭や辛味のもとになる硫黄化合物が含まれています。この成分は、加熱によって揮発・分解し、においを変化させますが、生じる風味や強さは調理方法によって異なります。バターなどの油脂と一緒に炒めると、甘いにおいや香ばしいにおいが増すため、ポタージュの風味を良くするのにぴったり。材料をはじめから水で煮たり電子レンジで調理したりするのとは仕上がりの香りが違います。
炒めると言っても、飴色玉ねぎのように水分を飛ばして色づくまで炒める必要はなく、溶けたバターと野菜の水分で蒸し煮にすると言ったほうが近いかもしれません。バターを入れた鍋に野菜と塩ひとつまみを加え、蓋をして火にかけると、野菜から水分が出てしんなりとしてきます。あとは弱火でときどき様子を見ながらかき混ぜるだけ。じっと鍋の番をする必要はありません。じゃがいもを切ったり、他の料理の支度をしたりしながら、玉ねぎの香りが変わるのを待ちましょう。
3.じっくり煮込む
玉ねぎのツンとしたにおいがしなくなったら、じゃがいもと水を加えて火を強める。
沸騰したら弱火で30分ほど煮込む。
4.なめらかにする
じゃがいもが煮崩れて、野菜が水面から出るくらいまで煮詰まったら火を止める。
塩と生クリームを加え、温かいうちにミキサーやブレンダーにかける。
好みのとろみになるまで牛乳を加え、塩で味を調える。
にんじん臭さが気になる場合は、隠し味としてごく少量のシナモンまたはカレー粉を加えると、にんじん臭さを感じにくくなります。(シナモンなら一振り、カレー粉なら耳かき1杯程度)
お好みで粗びき黒こしょうをトッピングすると、キリッと味が引き締まります。
<アレンジ>
「玉ねぎ200g+じゃがいも100g、ポタージュの味わいを決める野菜200g」という配合を基本にすると、だいたいおいしく仕上がります。
おすすめはパプリカやセロリ。パプリカを入れると華やかに、セロリを入れると爽やかな味わいになります。パプリカやセロリの量に合わせてにんじんを減らして調節してください。どちらもにんじんと同じタイミングで加えます。
例:玉ねぎ200g+じゃがいも100g+パプリカ1個(130g)+にんじん70g
玉ねぎ200g+じゃがいも100g+セロリ1/2本(50g)+にんじん150g
▲パプリカのポタージュ
カボチャのポタージュを作る場合は、カボチャがじゃがいもの代わりをしてくれるので、玉ねぎ200g+カボチャ300gで作ります。カボチャはじゃがいもと同じタイミングで加えます。
▲カボチャのポタージュ
じっくり炒めてじっくり煮込む
じっくり炒める工程がポタージュの風味を底上げしてくれる一方で、じっくり煮込む工程はポタージュの食感をよくしてくれます。これも時間はかかりますが放っておくだけなので、他の作業をしながら、おいしくなるのをゆっくり待ってみてください。
野菜は加熱するとやわらかくなります。これは、細胞同士を接着するペクチンという成分が分解され、水に溶け出すからです。ある程度加熱が進むと、細胞同士の接着が弱くなり野菜がやわらかくなりますが、さらに加熱すると煮崩れてきます。ここまでしっかり煮込んでからミキサーやブレンダーにかけましょう。いもやカボチャが煮崩れるくらい、にんじんなどはヘラで押して潰れるくらいが目安です。ここまでしっかり加熱しておくと、少しの力で細胞同士が離れ、簡単にバラバラになるので、裏ごしがいらないくらいなめらかなピューレになります。
次回は「鶏もも肉の煮物」のレシピと科学ポイントについて解説いたします。どうぞお楽しみに!
科学する料理研究家、料理・科学ライター
平松 サリー(ひらまつ・さりー)
科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。